結局進軍<Ⅶ>

「……勘弁してくれ」


「ぼ、僕のだ、大事なところをガン見しておいて、ただで済ますと思う!?」


「そこは後でいくらでも謝るから、せめてここは武器を引いてくれ」


「あんたのそのなんか余裕ある態度が気に入らない!」


「あ、それ分かります」


「なんで!? だから君はどっちの味方なんだよ!」


 セレーネが紋様族の少女の言葉に同意しやがった。


「勇者様は武器の一つも持たないのに妙に冷静で、少し上から見ているところがありますよね。わたくしだって初めてのときは恥ずかしいところ見られましたのに……」


「い、いやセレーネさん、今その話はちょっと……」


「確かに事故でしたけどわたくしだって女ですから当然恥ずかしいわけです」


「ですから、あ、あの、セレーネさん? その件は解決しているはずでは……」


「それは、そうですけど……」


「わ、分かった。今は色々と切羽詰まっているので、その問題は後で話すとしよう」


「えー……」


「じゃ、じゃあ、落ち着いたら何か一つ言うことを聞くので!」


「ほんとーですか?」


「も、もちろん……」


「わかりました♪」


 満面の笑顔のセレーネ。

 なんか切羽詰まっているからって早まったことを言ったかもしれない。


「イチャついてんじゃねーよ! 今は僕の方の問題だろっ!! もう頭にきた!!」


 彼女は一体なんど頭にくるのだろうか。なんて心の突っ込みをしていると身体から血の様な赤い線が次々と浮かび上がり綺麗な紋様となっていく。


 あ、これもしかしてまじで怒らせたってやつ?


「“ファイアーショット”!」


 うわあ!? まじおこでした!


「“マジックプロテクション”!」


 ばちんっ!! ばちんっ!! ばちんっ!!


 女の子の手の先から拳大くらいの三つの炎が飛び出して、それぞれがセレーネを避けて曲がりながらこちらに飛んでくると着弾と同時に音を立てて弾けた。

 まるで打ち上げ花火を人に向かって打った時みたいだ。もちろん俺はよい子なのでしたことはないが。


「熱っ! くない……あ、あれ? 全然痛くない」


 どうやらセレーネの奇跡で今の魔法を防いでくれたらしい。

 凄えな、魔法って。


「なに!? も、もう、なんなのっ!」


 魔法が防がれたことに驚き、そして憤っていた。


「まさか!? もしかしてあんたは本物の聖職者なの?」


「わたくしアデル教の司祭。セレーネと申します」


 セレーネは礼儀正しく挨拶をした。


「そ、んな……、奇跡が使える……聖職者が、なんでこんなところに……うっ」


 真っ赤になっていた紋様が徐々に薄れて戻っていくと同時に、女の子がまるで貧血のようにフラフラとし始め、今にも倒れ込みそうになった。

 魔法ってそんなに疲れたりするものなのか? いやだが……、


「今こそチャンス!」


 セレーネの手を取って走り出そうとする。


「ま、待ちな……うっ……」


 どさっ……。


 力なく倒れ込む女の子。地面が砂なので怪我はないだろう。


「あの……勇者様?」


「ぐ……、はぁ……」


 苦しそうに藻掻く女の子。

 はぁ……ダメだ。やっぱりそのままにしておけない。


 もしこれで彼女が死んだりしたら目も当てられない。紋様族にしてみたら俺達人間側が殺したって思われるかもしれないし。


「セレーネ、彼女の状態を看てもらえる?」


「お任せくださいっ」


 俺がそう言うのを待っていたのだろう、直ぐさまセレーネは容態を見始めた。


「どうなの?」


「外傷などはありませんが、肌の血色が悪さを見る限り……」


 もしかしてそんなに容態が悪いのか?


「貧血みたいですね」


「それだけ?」


「正確にはMP不足による欠乏症ですね」


「そんなことがあるのか」


「MPを一気に使い切ったりするとこうなりますよ」


「あの魔法って一気に使うほどのものだったのか?」


 確かに三つの炎が出てたけど、爆発音とかから察するにそんなに強い魔法には見えなかった。


「詳しくは分りませんが、あの魔法はレベル1の魔術師が最初に憶える初歩の攻撃魔法で殺傷力はほとんどなく、火傷などによる戦意低下やスタンが主な目的のはずです」


 怒っていても一応殺そうとは思っていなかったのか。


「それで貧血みたいに倒れるものなの?」


「申し訳ありません。そこは専門外ですので理由は少々分かりません」


「そうか。これって外傷とかじゃないならセレーネでも治せないか」


「はい。見て分かる怪我や病気等は治せますが内面的な要因は神聖魔法は門外漢です」


「だとしたら何か特異な病気かもしれないな。やっぱり捨て置けないか」


「よろしいのですか? 紋様族の方々に捕まってしまうかもしれませんよ」


「それはそうだけど、このまま見殺しにする方が後悔しそうだし」


 倒れている彼女を起こして抱きかかえようとするが、力の全く入っていない身体は重すぎて簡単に運べそうにない。

 セレーネが手伝ってくれておんぶする形にする。


「これで行けるかな。じゃあセレーネはここで待ってて、もし戻ってこなかったら……」


「何を仰っているのですか、わたくしも同行します」


「いやまて、これは俺一人で十分だし何より危険だろ」


「勇者様お忘れですか。わたくしに賠償する責任があるのですよ」


 今その話をするのか……こういうところはなにがなんでもって感じだよね。

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