再会

再会<Ⅰ>

 朝になったら移動するとのことで、とりあえずそれまで休むことにしてセレーネのテントまで案内してもらった。

 セレーネの方も怪我人を治療し終えてちょうど戻ってきたところだった。


「うわぁ……このカンテラは明るいですね」


 テント内が少し暗かったので、雑嚢から魔法のカンテラを取り出して明かりを灯す。


「これは確かに便利だな」


 カンテラはLEDライトみたいに明るかった。

 よく分かっていないがMP1で1時間使えるらしい。


「これだけ明るいと勇者様のお顔がよく見えますね」


「た、確かにそうだね」


 う、うーん……さすがにセレーネみたいな美人に真っ直ぐ見られると恥ずかしいのですが。


「う、うう……本当に生きていて良かったです……」


 すると直ぐにぐすっと鼻声になりながら目を潤ませて、今にも泣きそうな顔になっていた。


「ごめんな……、あのときは全く時間がなかったんだ」


「何があったのか聞いてもよろしいでしょうか?」


「あのときは……」


 俺はかいつまんであの夜のことを説明した。

 宇宙人とは言えないので、そこは天使とした。

 一部の天使の暴走で混乱が発生して、それを治すために俺の能力が必要だったと説明した。


「勇者様の能力って、もしかして……」


「そう万能翻訳機能な。天使の暴走で会話が不能になったんだよ」


 これは実は完全なウソではない。

 俺があの場所に宇宙人のおっさんと共に呼ばれた理由は、女神AIのシステムを完全に修復することだった。


 宇宙人のシステムが俺のような地球人に理解出来るわけがないと当初は思ったが、実はそのシステムを構築したのは他でもない地球人だった。

 かなり古いシステムで、会社の先輩から聞いたことがある程度のものだった。


 なにせ、いわゆる窓OS以前のGUIじゃないCUIのOSを使ったネットワークシステムだった。

 しかもUNIXなどではなく、なんとN88と呼ばれるこれまた古いPC言語だった。


 これをある程度理解するのに一月丸々かかり、システムを復旧に更に一月、そしてテストに一月かけてやっと終わったのだった。


 ソースコードはメチャクチャだし。DOSとN88でも命令形態が違うし、何よりAIシステムとネットワークシステムのプロトコルも全て違うので本当に苦労した。


 だがそのおかげでこの星、いや世界のファンタジーに見せかけた様々なシステムの構造を知ることが出来た。

 なんていうか究極のネタバレだよな。


 これらの一件は全て女神AIが仕組んだことだった。


 俺は元々勇者としてではなく老朽化が目立つ世界システムの保守のために呼ばれたのであり、システムを弄られると困ることをしていた宇宙人のおっさんは焦っていた。


 そんなときに事故が起きた。それは本当に不慮の事故だったらしい。


 それにより女神のシステムがダウン。今こそ好機と宇宙人のおっさんが俺をマニュアルでコールドスリープから起こそうとしたが失敗、慌てて修復を試みた結果どういうわけか若返ってしまった。


 そのおかげで病気は治ったのは本当だけどさ。


 俺を地球に戻せば良かったのだが若返ってしまったので、仕方なく勇者として星に落としてしまおうとするわけだが、これまたシステムの不調で俺に正体がばれてしまったわけだ。


 そのとき女神AIも完全にシャットダウンはしていなかった。

 宇宙人のおっさんに気付かれないように、地上に落とされた俺をセレーネの元に向かうように軌道を変えたらしい。


 その先は女神AIに取っても賭けだったらしく、俺は見事セレーネと出会い彼女の中のバックアップを起動することに成功したわけだった。

 ちなみに俺はかなり回りくどい方法で起動したらしく、セレーネに直接聞けば分かったことらしい。そんなの知るわけないっての。


 全てが終わると病気も完治させるおまけつきで身体を元に戻して地球に帰る選択肢もあったが、どうせ戻っても辛いだけだし、セレーネとの約束もあるのでこの星に再度降りることを選択したのだった。


 でもまさか落ちた先がこんなことになっているとは思いもしなかったけどな。


「そんな感じで天界のいざこざを終わらせて戻ってきた次第だ」


「そうだったのですね……」


「まさか俺の能力を狙って天使の1人がやってくるとは思いもしなかったけどね」


 この世界でも天使は神話の時代から神々を幾度も裏切っているらしいので話に破綻はないと思われる。


「本当に天使はそういうことをするのですね」


「俺も驚いたよ」


「ではもう……居なくなったりしないのですね?」


「それは大丈夫。暴走した天使はしっかりとお仕置きしておいたから」


「良かった……本当に良かったです」


 うう……そんな潤んだ瞳で真っ直ぐにこちらを見られると、本当に……どうしていいか分からなくて困るんだけど。

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