片付けようとするとつい遊ぶのは何故なのでしょう<Ⅱ>

「それではしばらくの間、ご一緒させていただきますね」


「あ、うん。こちらこそよろしく、何せ右も左も分からないから一緒に来てくれる人がいると凄く助かるよ」


「はいっ♪ 案内はお任せください」


「さて、そろそろ何か食べようかと思うんだけど、セレーネはどうする?」


「それではわたくしもいただきます」


 こんこんっ。


「こんな時間に誰だ。もしかして砦長かな……はい」


「失礼します……、これはこれは……」


 扉が開いて部屋に入ってきたのは、なんか妙に恰幅の良い中年の男性が入ってきた。

 なかなか豪華な髭に頭の方は結構禿げてきている。

 だが髪の毛も髭も綺麗に整えていて、着ている服も見るからに豪華だった。

 とても砦の兵士や村人には見えない。


「えーっと、どちらさま?」


「私はこの辺りで農場を営んでおります。しがない農夫のバルと申しますが、勇者様はいずこかに行かれたのでしょうか?」


 あれ?


「この方が、勇者様になりますよ」


「え、あ……そ、そうでしたか。こ、これは大変申し訳ありません。お若いとは聞いていたのですが、まさかそこまでお若いとは……」


 ぺこぺこする農夫のバルさん。まあ普通はそう思うだろうし、それに腹を立てることもない。


「それで一体何のご用でしょう」


「あ、はい。この度は危険なアンデッドを討伐していただき誠にありがとうございました。おかげさまで我が農場に一切の被害が出ず非常に助かった次第です」


 しがない農夫とか言っているが、自分の農場って言っているくらいだし身なりの綺麗さから見て、豪農とか地主とかそういった類の人か。


「ほら、何をしている入ってきなさい」


「……はいっ」


 バルって人が呼ぶと、廊下から食事を持った若い女性が3人入ってきた。

 いずれも村人らしからぬ綺麗な身なりをしていた。


「あ、あの、食事を持って参りました……。え、こんなに小っちゃいの?」


「こ、こら! 失礼なことを申すな! 失礼致しました。粗末な物で申し訳ありませんが我が農場で取れた物で作った料理です。お口に合えばいいのですが」


「え……いやまあ、ありがたいですが」


 3人の女性は持ってきた食事の用意をする。

 食事は二人分でおそらく俺とセレーネの分だろう。

 用意が終わると3人は部屋の奥側に並んで待機した。


「それでは、私はまた仕事に戻らせていただきます。何か不足などがありましたらなんでもこの娘等に仰ってください」


「そうですか」


「もちろんそのまま夜のお世話も致しますので」


「えっと、これってどういう……」


「もちろん勇者様の好きになさって構いませんので」


「あ、そ、そう……ですか」


 バルさんは部屋を後にした。

 何から何までありがたいことで。

 とはいえ、まあ当然女性達を使うなんて出来るわけないけどさ。


「じー……」


「な、なに?」


「いえ、なんでもありません」


 セレーネがじーっと俺を見ていてその視線が少し痛かった。


「別に俺が頼んだわけじゃないからな」


「それはそうだと思いますけど……」


「こういうときって下手に断ると相手の面子を潰すことになるし、あの子達がお仕置きの対象になるかもしれない」


「え? お、おしおきですか?」


「そう、お前達の愛想が足りなかったからだとか言ってびしびしって、いや本当かどうかは分からないけど」


「あ、なんだ……そっちですか」


 おいおい聖女様は何と勘違いしたのかね。


「おしおきはともかく面子の方は本当だけどね。さてとせっかくの料理はいただくことにしようよ」


「そ、そうですね」


 ぐぅ……。


「え……」


 どこからかお腹の鳴る音が聞こえた。


「も、もうなんでわたくしの方を見るんですか」


「いや、なんとなく」


「確かにお腹は空いていますが、今のはわたくしではありません」


「そうなの?」


 むーっと、少し頬を膨らませるセレーネ。


「も、申し訳ありません……。ど、どうかご容赦を……」


 奥で並んでいる女性の1人から出たものだった。


「なんだそうだったのか。お腹空いてるんだったら一緒に食べる?」


 狭いテーブルにみっちり料理が載っていて二人分にしても、とても食べきれる量じゃない。


「そ、そんな私たちは農奴なんです。勇者様や聖女様と同じ机に座って食べるだなんて恐れ多いことです!」


「え、そうなの?」


 3人の中でおそらく一番の年長者と思われる女性が話し出した。


「ええ、まあ一応、それが一般的な仕来りというか作法と申しましょうか……」


 セレーネが小声で教えてくれた。


「そ、そうです。本来でしたら私どもが高貴な方と同じ部屋に控えることも憚れます」


「ええ!?」


「こ、ここは場所がないので申し訳ありませんが、部屋の端で控えさせていただいおります。もし気に入らない場合は廊下に出しておりますので仰ってください」


「いや、それでいいから!」


 この世界には身分制度がしっかりとあって、これが日常であり普通なんだろう。

 一応、郷に入っては郷に従うって言葉はあるけど……でもまあいいか。勇者ってのはそういう輪から外れた存在なんだろうし。


「ねえ、やっぱり一緒に食べようよ。二人で食べきれる量じゃないし」


「いいのですか!?」


 お腹を鳴らした女性が驚いた声を出した。

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