片付けようとするとついつい遊んでしまうのは何故なのでしょう
片付けようとするとつい遊ぶのは何故なのでしょう<Ⅰ>
その頃、セレーネは砦を出て村の教会に向かっていた。
「わ、わたくしはなんということをしてしまったのでしょう……」
いくら疲れていたとはいえ、まだ出会って間もない男性と一つのベッドで寝てしまうなんて。
でも彼の身体は抱きしめるのにちょうど良いサイズでした。
「……そうではなくて!」
彼女は今更になって恥ずかしさがこみ上げてきたのだった。
「で、でも……少しだけ嬉しかったですけど」
どうやら自分は勇者に好意を持ち始めているらしい。
それに驚いてしまうが、気持ちに嘘はない。
「あの人はわたくしのことを一人の人間として……いえ一人の女として見てくれるのですから」
この世界で神より与えられし特別な力によって、人々からは聖女として地上に降りた神の如く扱われている。
そのせいもあって彼女には友人や恋人と呼べるような人物どころか、気軽に軽口を叩く相手すらいなかった。
「自然体で接していただけるのは大変嬉しいのですが、だからってはっきり臭いなんて言わなくても……わたくしだって女ですのに」
臭いと言われたことを思いの外気にしていたのだった。
「すんすん……、う、うーん……こうなったら……」
「ほらほら、聖女様お召し物を脱いじゃってください」
「個人的なことで申し訳ないです」
セレーネと村の女性数名が教会で湯浴みの準備をしていた。
「何を言っているんですか。これくらい構いませんよ」
「そうですよ。貴女は村の危機を救ってくださったのですから」
セレーネは村で薪を分けてもらうつもりだったが、何に使うのかと問われ珍しく答えに困った顔をすると、村の女性達は何も言わずに意図を汲んで湯浴みの手伝いをかってでてくれたのだった。
「これだけ髪が長いと一人じゃ大変でしょう」
「え、ええ……」
セレーネは衣服を脱がされ、大きなタライの上に座らされた。
「それにあたしらとしても、聖女様に意中の人間が出来たことは嬉しいんですよ」
「そうそう、貴女様には幸せになってもらいたいんですよ」
「あ、ありがとう……ございます」
「それにあの勇者様だったら、だれも文句は言いませんし」
「ええ!? い、いえ、これはそういうのではなく……勇者様にく、臭いと言われたからです!」
こういった話に慣れていないセレーネは思わずそう言ってしまった。
「う、嘘ではありません。こ、このままだとひいては女神様まで臭いなどと思われたら困るためです」
「おやおや、聖女様でもこういうことは素直になれないものですか」
「ほ、本当ですよ?」
さすがに無理があると自分でも思うセレーネ。
だが、確かに言っていることは嘘ではない。
「はいはい。それでも構いませんよ」
だが女性達はさすがに年の功。セレーネの話を聞き流しながら彼女の髪や肌を洗うのであった。
「ふう……やっと片付いたぜ」
結局片付けるのに相当な時間を使ってしまった。
一応コットと寝袋だけはそのまま使えるようにしたままだった。
「これならセレーネがここで寝たいと言い出しても大丈夫だな」
彼女にベッドを使わせて、自分はコットと寝袋で眠れば良いしな。
「さすが元勇者、結構魔法のアイテムを持っているもんだな」
テーブルの上にそれらを置いていた。
指輪が3つ、ナイフ、魔力が籠もった石など。
3つの指輪はワイト自身が身に着けていたもので、いずれも防御力の上がる魔法の指輪だった。
「一体どういう原理で防御力が上がるんだろうな。バリアでも出てんのか?」
一応、杖と同じく帰属解除をしたので誰でも使える状態である。
一つはセレーネにでもあげるとして、残りは売って金にするってのもありか。
ナイフは魔法で強化されていて、オプション的なものはなかった。
「これは護身用に雑嚢に入れておこう」
魔力の籠もった石は魔力石という名前でMPを肩代わりしてくれるものらしい。
「多分俺には不要だから、セレーネに渡すか売るかだな」
こんこんっ。
「ん? はい」
「ただいま戻りました」
「あ、うん、おかえり」
「あら、そのお荷物はどうなさったのです?」
セレーネが部屋に入ってくると、テーブルの上に置いてあるものに気付いた。
「ああこれね。ワイトが持っていたアイテムを渡されたんだ。それで今は調べていたところ」
「そのベッドみたいなのもですか?」
コットの方が気になるらしい。
「そうなんだ。この魔法のカバンに色んなものが入っていて取り出したら出て来たんだ」
「そのようなアイテムが……なんだか凄いですね」
「服とか靴とかもあったし、おかげで今後の旅に使えそうで助かるよ。あ、これ以外にもテントもあったよ」
「それでは勇者様の方は出発の準備が出来ているのですね。それではわたくしの方も用意をした方がよろしいでしょうか」
「そこまで無理に急がなくても大丈夫だと思うよ」
「そうでしょうか。ですが勇者様は少し急いでいるように見えますけど」
す、するどい……。宇宙人のおっさんが何をしてくるか分からないので、出来れば巻き込みたくないのでなるべく早く出発したいって気持ちはあった。
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