異世界じゃなく異星でした<Ⅰ>

「でだ」


「な、なんだ……」


 リトルグレイの小っさいおっさんはびびって身構えていた。


「ともかく、ここは一体何処なんだ?」


「ここは異世界だ」


 さらりと言いやがった。


「いや待て、お前のその姿はあまりにもファンタジー世界に似つかわしくないだろ」


「そ……そんなことはない」


「ウソをつけ、ウソを」


 目の前の宇宙人は変わらず、ここを異世界だと通すつもりらしい。


「仮にここが異世界だとしてなんで女神が、そんなSFの代名詞みたいな奴に変わるんだよ!」


「ぬっ……ぬぐぐぐ……」


 仮面でも被っているかのように口を含めて一切顔が変わらない宇宙人のおっさんだが、その代わり身振り手振りは大袈裟で、なんか歯がみしている様子だった。


「それにいくら異世界ものが下火になってるからって、テコ入れにSF要素を混ぜるなんてしたら失敗するのは見えてんだろ」


「お、おい、それはいくらなんでも言い過ぎだろ! 宇宙人が出てくるファンタジーがあったっていいだろ!」


 妙に詳しい宇宙人だった。


「は!? そういうメタ発言的なものはやめろ!」


「はぁ……、これ以上は、し、仕方がない……」


 これ以上は誤魔化せないとでも思ったのか宇宙人は諦めに大きなため息をついた。

 しかし顔はお面でも被っているかのように目も口も全く動かないのに、仕草だけで妙に分かりやすい。


「確かにお前の言うとおりここは異世界ではない」


「ほらやっぱり。いくら夢だからってもう少しディテールに拘って欲しいもんだ」


「夢だと? これは夢でもVRでも異世界でもない、れっきとした現実だ」


「は? 何を言ってんだよ。あ、もしかしてこれはどっきりとかだったりするのか?」


 おいおい、素人を騙すのに幾ら何でもこれはやりすぎだろ……いやでも、この若返った身体はどうやって説明を……特殊メイク……いや明らかに身体が小さいし細いのはどういう方法なんだ。


「いや待て、そうじゃない。そもそも俺は死の淵で身体がこんなに自由に動くわけが……」


 うん、そうだ。やっぱりこれは夢なんだな。

 再度そう認識して、少し面白くなってきたのである程度この宇宙人の話に乗ってみようと思い始めた。


「それでさ、おっさんは本物の宇宙人なのか?」


 月か、それとも火星辺りにアブダクションされたって感じの設定かな。


「……お前達の単位に言い換えると、地球からおおよそ120光年ほど離れた星系にいる」


「120光年って、光の速度で120年かかるってことだよな」


「ああ、そうだ」


「そ、そうか、夢だとなんでもありだな」


「お前達は理解出来ない超常に出会ったときに、そうやって精神を破壊しないように逃避する仕組みのようだが、これはれっきとした現実だ」


「夢にしてはなかなか言うじゃないか。そうやって驚かせようとしても無駄だぞ」


 宇宙人は再度小さなため息を漏らすと、何もない殺風景な空間に小さな星が現れた。


「なんだこれ……?」


「まあ映像と言えば分かるか」


 これが映像? まじか……画面に映すでもなく直接空間に描かれている。

 VRゴーグルとか3D眼鏡もなしにここまで出来るのか。


 一体どんな技術だよ……。


 本当に夢にしてはディテールが細かい気がしてきた。


「これがお前がいた星だ」


 そこにはテレビや映画でよく見る地球の姿だった。


「ここから……」


「うわ!?」


 地球が一気に遠くに離れていき、おそらく太陽系の星と思われる星々も一瞬で過ぎ去っていく。立体映像だと自分が動いているみたいで少し怖い。

 そしてまた地球に戻った。


「そしれこれが今居る場所だ。ほぼ、お前が居た星と同じ大きさだが若干質量が小さい」


 そう言われて、よく見ると確かに陸地の形はどれも俺の知っている形のものではなかった。


「そして大気の成分が違って気圧も少し高い。そのままでは生きていられないので、今のお前の身体は順応出来るように改造してある」


「え、改造ってマジかよ……」


 いや肉体を若返らせるのが出来るくらいだから肉体の改造なんて簡単に出来るか。


「そしてこれがこの世界だ」


 星から何かポップアップ画面が出てくると、そこにはテレビ画面のように何かが映し出されている。

 そこには、西洋のお城や、豚鼻の二足歩行の化け物や、耳の長い綺麗な女性、そこから飛び出す炎の弾。巨大なトカゲみたいなおそらくドラゴン。

 それは映画よりもリアルで本当に存在しているように思えた。


 やばい。なんか段々夢に思えなくなってきた。


「少しは理解出来たか?」


「まあ、一応」


 それにしても、大分ネタバレっぽい話になってるが大丈夫なのか。


「それで俺にどうして欲しいんだ?」


「最初に行ったとおり、この世界で魔王を倒してほしい」


「いや待て、俺なんかが無茶をしなくても、アンタ等で倒せるんじゃないのか?」


「それでは困る」


 何に困るんだよ。


 つまり自分達で倒せるけど、他の何か思惑があるってことか。

 社畜でほぼ死んでいた俺としてはもう他人の何かに巻き込まれるとか嫌なんだよな。


 なんか地球に帰りたくなってきた。

 夢なら、そろそろ覚めてもいいかも。

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