どうやら俺は転生したらしい

「ん……あ、あれ……、ここ……は……」


 目が覚めると……、そこは全く何もない空間だった。

 最初に目が入ったのは空なのか天井なのか、そこは白い空間だった。


 身体を動かして、横を見ても上と同じく白い空間だった。

 だが床はあった。無機質で同じ白色だったが、艶があるため認識が可能だった。


「どこだここ……? えっと俺は確か……。そうだ、家で寝込んで死にかけていたんだ」


 もしかして誰かに助けられたのか?

 周りを見るが、さすがに病院じゃないよな。


「じゃあやっぱり天国……というか死後の世界ってやつか」


「いいえ、ここは世界と世界を繋ぐ隙間のような空間になります」


 いきなり声がしたと思ったら、いつの間にか直ぐ側に凄く綺麗な女性がいた。

 いや……気付かなかっただけで最初からそこに居たのかもしれない。


 その女性はずっと瞳は閉じたままだったが、俺の方に向いている。

 神々しさすら感じるほど彼女の美しさに目を持って行かれてしまう。


 モデルのような体型と非常に整った顔をしていて、ギリシャ神話などでよく見る女神みたいな装束に、金と思われるアクセサリを多数身に着けていた。

 履いているヒールがなくても俺より背が高いし、股下や腰の位置も凄えことになってる。


「お話の方を進めてもよろしいでしょうか」


「あ、はい……」


「わたくしの名は、アデルニモカエシエ」


「あ、アデ……? えっと、も、もう一度よろしいでしょうか」


「申し訳ありません、やはり地球の方には少々難しい名前のようですね」


 地球の方……?


「気軽にアデルとお呼びください」


「あ、はい……それは分かりましたが……」


「ここは貴方がいた世界とは、別の世界になります」


 俺が質問をする前に彼女から話を始めてくれた。


「……それって冗談ですよね?」


「もちろん冗談ではありません。貴方の世界に干渉してこちらに連れてきた次第です」


 まるでラノベかマンガの世界みたいな話をされ始めた。

 彼女は凄く綺麗なのに、もしかして頭が少しあれなのだろうか……。


「今この世界では、強力な魔王の出現により大変な事になっているのです」


「え……」


 お、おう……まじで、そんな流れになるのか。

 こんなこと……本当にあるものなのか……?


 とはいえ、どっきりなどの騙しネタなどを仕掛けられるにしても、さっきまで俺は身体を動かすことも出来なかったわけだが。


「でも、俺なんて何かの力になれるのか?」


「もちろんです。貴方には特別な力があるのです」


「え……そうなの? どこからどうみても本当に普通のおっさんですよ」


 それに病気で体力もないけどな……。


「ご心配はは及びません。既に契約の一つとして貴方の病気は治しております」


「え……ま、まじで!?」


 そう言えば確かに普通に立ち上がっているし、身体のどこも痛くなっている。


「ですが、その病気を治すのにどうしても今の状態にするしかなかったので、そこはあらかじめご了承いただきたいのです」


「状態って……俺は今、どうにかなっているの?」


 慌てて自分の手を見てみるが、ぱっと見違和感はない。

 そして顔などを手で触ってみるがそんなことで分かるはずもない。


「こちらをお使いください」


 彼女の言葉に、どこからともなく姿見程度の鏡が出てきた。

 この際、どこからどうやってなどの疑問は後にしてとにかく見てみる。


「え……こ、これって!?」


 確かに、これは俺だ。俺だが……。


「若く……いや、幼くなってる!?」


 改めて手などをよく見ると確かに細くて小さくなって傷とかもなくて、妙に肌がつるつるしている。それに無駄毛までないし。


「貴方の病は若い頃から少しずつ患っておりましたので、完治させるためにそこまで戻す必要があったのです」


「そ、そうなんだ……」


 一体、これは何歳くらいだ……14……いや12歳位……か? またえらく若くなっちゃったな。


「いやでも、大分記憶と顔とかが違う気がするんだけど……」


「……それは、若返りによる肉体の再構成は最良の状態、つまりそのときの栄養状態や運動状況が最も良いコンディションで再現しております」


「そうなんですか? 確かにちょうどこの頃は栄養状態も悪かったし、生活環境も最悪だったけど」


 父親が蒸発して、親戚に疎まれながら食事はいつもギリギリで偏った食生活で吹き出物も多かったっけ。


「こんな事まで出来るなんて……、これっていわゆる魔法とかそういうやつなの?」


「ええ、そうなります」


 マジか……うーむ、恐るべし魔法。科学より万能なのか。


 とりあえず身体の調子をみてみると確かに身体が軽い。それに腰も肩も痛くないし、全体的な気怠さが全くない。なんていうか……若いって素晴らしい。


「そうか……分かったよ。ここまでしてもらった以上、そちらのお願いというのを聞くけど」


 ここまで若くなると、力仕事とかはほとんど出来ないとは思うけどね。


「それは、ありがとうございます」


 俺の言葉に瞳は閉じたままだが口元で微笑んでくれた。

 うっわぁ……、綺麗な人だけど笑顔は凄く可愛いんだな。


 やべえ、ちょっと惚れそう。

 異世界から連れてきて俺を若返らせて、そしてこの見た目……。


「もしかして、神様とかそういった存在だったりします?」


「説明不足で申し訳ありません。わたくしは7柱の一つ、大地の女神と呼ばれております」


 ああ、やっぱりそうなのか。


「ここはあなた方が言うところのファンタジーと呼ばれる世界に酷似しております」


「そうなんだ……じゃあ魔法だけじゃなくて騎士とか妖精やドラゴンなんかがいたりするんだ」


「さすが日本の方は理解が早くて助かります」


 ああ、そういうことね。

 確かに一時期異世界転生モノって流行ったけど平成が終わった最中に今更そんな世界に来たのか。俺の人生ってやっぱりなんかずれているよな。


「でも文明の利器に囲まれた俺が、そんな世界で生きていける?」


 実戦経験なんて当たり前だが、格闘経験どころか運動経験すら怪しいのだが。


「もちろん、そのための武具はこちらでご用意させていただきます」


「そうなの?」


 神様が用意してくれる武具って、いわゆる伝説の武器とかってやつか。


「なんでもお一つだけ用意させていただきます」


 ……ざ……ざざっ。


 え!? な、なんだ……今の。


 目の前の女神がいきなりテレビのノイズみたいに不明瞭になった。

 それは徐々に激しくなり、女神の形が維持出来なくなっていく。


「え……、あ、あの……」


「どうかなさいましたか?」


 呆気にとられている間に、女神は完全に消えていき、透き通るような綺麗な声が機械音のようなノイズが混じりだした。


「え!?」


 そして代わりに俺の半分くらい大きさの、昔のテレビで見たリトルグレイとよく言われる如何にも宇宙人という風貌の何かが現れた。


「大丈夫ですか?」


 さらにアニメやバラエティ番組でよく聞くなんとも渋くて格好いい声に変わっていた。


「わぁ!? な、なんだあんたは!?」


 思わず驚いて後方に飛ぶように逃げてしまう。


「どうかなさったのですか? いきなり驚いたりして……」


 丁寧な口調のままだが、声は渋いおじさまでなんかお姉みたいで非常にキモい。

 嘘だろ……もしかして、こいつが女神の中身だったってこと?


 しかし異世界でリトルグレイが出てくるのはさすがに場違いだろ。

 やっぱり、現実じゃなくて夢を見ているってことか。


 んだよ……、せっかくのときめきを返せってんだ。


 死ぬ間際に生きたいって願望がこういう夢を見せているのか、我ながら整っていない世界観だな。

 それならまあ、もう余命幾ばくの夢の中で残りの時間を楽しむのが正解だな。


 これが夢なんだと分かると、ここの全てから恐怖がなくなっていく。


「あの、大丈夫ですか? どこか身体のお加減が悪いのでしょうか」


 宇宙人は自分がどうなっているのか気付いておらず未だにキモい声で話しかけてくる。


「はぁ……、もういいって、そこの妙に渋めでいい声がする宇宙人のおっさん」


「え……、なっ!?」


 驚く女神……だった宇宙人みたいなおっさん。

 ほう、宇宙人でも驚くのか。


「な、なんてことだ……まだシステムの不調が残っていたか」


 リトルグレイは声にあった口調に変わった。


「どうしてトラブルというのはこうも立て続けに続くんだ……」


 俺のことは放置して、ずっと一人考える様にぶつぶつ呟き続けている。


「おい、もういいから、いい加減どういうことなのか説明しろ話が進まないだろ」


「うわぁ!?」


 俺のことを忘れていたのかえらく驚いてと跳び上がる宇宙人のおっさんだった。

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