第14話 管理するのはお手の物ですが、何か?
その日、ミランダと共に久しぶりの夫婦の時間を過ごしていると、突然の訪問があったと言う連絡を受けた。
訪れたのはなんと――御三家の方々だ。
音楽家、エルシャール・フェンシャー様。
作詞家、アズラン・ペシャール様。
オペラ歌手、イリーシア・ファレルノ様。
三人揃ってのご訪問と言う事もあり御三方をサロンに招き入れ、緩やかな服装で過ごしていた俺とミランダは急ぎ着替えを済ませ、サロンの中へと入った。
「急な訪問申し訳ないね」
「どうしてもイリーシアが行きたいと言ってね」
「まぁ、わたくしが我儘のような言い方はやめて下さる?」
相も変わらず美しい御三方。
美しいだけにとどまらず、努力家でもあり、何気にこの三人……恐ろしいことに、諜報部でもある。
「この度の小説は、また濃厚で、それでいて尊いものでした」
「本当に、あの言葉の使い回し等、私も見習いたいところです」
「あの尊い小説を歌にすることが出来たら、どれ程の萌えを国民に渡すことが出来るでしょう……本当に素晴らしい小説でしたわ」
エロ小説をオペラにか……。
俺はそっと、遠い目をした。
「それは良い。ミラノ・フェルン作家の小説を我々の手で音楽を作り、歌詞を作り、そしてイリーシアが歌い上げる……あぁ……どれほど尊い萌えを私たちが作れるか、伝えられるかが問題になってきますね。なんとも腕が鳴る」
「ははは! ついに私のエロ小説をオペラにするのかね! ますますアンチの怒りに火が付きそうだな!」
「ええ、本当に。でもわたくし思いましたの。リコネル王妃の庇護下にある作家だけが狙われる現状、可笑しくありません?」
そう言って扇子で口元を隠し優雅に微笑むイリーシア様に、ミランダは「確かに」と考え込んだ。事実、この国にはリコネル王妃が営む本屋意外に、別の作家を輩出している本屋もあるからだ。
彼らの元に、あの手紙は届いているのだろうか?
いや、この口調からすると、きっと届いていないのだろう。
「私も作詞家でもあり詩人ですが、アンチが沸いたことはまだ一度もないんですよ」
「確かに言われてみればそうだな! おかしな話だ」
「ええ、そこで、わたくし達考えましたの。これだけ大々的に発売した今回の小説を、わたくし達三人で音楽に歌詞をつけ、オペラで歌ったらどうなるかしらと」
「それってつまり……餌になるってことっすか?」
俺の言葉に三人は笑顔で頷いた。
まさか、この国の御三家と言われる方々が、餌になって何かをしようとするなど思いもしなかったからだ。
「ただの阿呆なのか。ただの愚者なのか。それとも、何かしらの陰謀があって動いているのか確かめたいと、リコネル王妃からのご命令です」
「リコネル王妃からでしたか。それならば私からは嫌だとは言えまい?」
「ですわね」
お手上げだと言わんばかりの態度をとったミランダに、三人は苦笑いを浮かべた。
「だが、オペラにして歌うのならば、ヴィヴィアン氏のような純愛の歌の方が良いのではないかね?」
「確かにそれも一理あるんだがね。彼女は少々訳アリなんだ」
「ふむ……訳アリかね」
「まだ調査の途中ですの。これ以上はお話し出来ませんわ」
「ならば仕方ない。結果報告をまとう」
「そうして頂けると助かる」
まぁ、確かにアレだけ発売日に大々的に 「エロは実害あり!」 と叫んでいれば、問題ありと思われてもしかたないっすね……。
あれさえ無ければ、今回の音楽になると言う話はヴィヴィアン氏にも行っただろうに、勿体ない事をしたものだと思った。
しかし、あのオネショタをオペラにか……大滑りするか、爆発的に人気がでるかのどっちかだなと思ってしまう。
「だがしかしだ」
それまで何かを考えていたミランダは、静かに言葉を口にした。
「オペラになるのだとしたら、もう少しオネショタとは違う、官能的なエロさのある小説を書きたいものだね。そう、オペラ用の書きおろしと言う奴だ」
「「「素晴らしい!!」」」
「書きおろしたエロ小説を私が音楽にし!」
「私はその文面から歌詞を起こし!」
「わたくしが歌い上げる!! 実に素晴らしいですわ!!!」
「よって、オネショタをオペラにするのは少々お待ちいただきたいね! 官能的なエロ小説を書きおろしで一本書くから待って欲しい」
「「「待ちますとも!!」」」
あ――……またミランダと過ごす時間が無くなる。
思わず遠い目をした俺を他所に、四人は盛り上がり、ミランダは紙とペンを取り出すと構想を練り始めた。
オペラ用のエロ小説……純愛でありながらの濃厚なエロ。
そして……期限は長くて三か月と言う短い締め切りが決まった。
「出来上がり次第、クリスタル様とご相談の上で手直しすることを考えれば、二か月は見積もって欲しいね」
「多めに見積もって三か月、これ以上は伸ばせませんわ」
「年末には素晴らしいオペラが歌えるように頑張るさ!」
「完成次第、わたくし達に送ってくださると助かります」
「直ぐに歌詞を」
「直ぐに音楽を」
「あなた方二人が気合を入れてくださらないとわたくしに回ってきませんわ! 是非寝る間も惜しんで頑張ってくださってね! その間にわたくし、調べることがありますの」
その調べる内容については教えてはくれないだろうと言うのは理解できていたので、誰も突っ込まなかった。
しかし、オペラ用のエロ小説か……またミランダが無茶をしないように見張らなくては。
是非楽しみにしていると告げて御三方はお帰りになり、ミランダは急ぎ自室に戻ると、ラフな格好に着替え自分の執筆用の部屋に籠ってしまった。
こうなると、完全に俺の出番である。
食事、軽食、飲み物、休憩、それらを俺が管理しなくては、ミランダは意地で机からは離れないだろう。
「さて……義父様とヴェン爺さんに話をして、まずはお茶の用意っすかね」
妻の体を管理する。
これが、俺の一番の仕事っすから!
――エロ小説作家の婿とは、妻を管理する事に徹底する技を持つのである。
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予約投稿となりました。
官能的なオペラ……なんかあったかな? なんて思いつつネタをねりねりでした。
次回は大きく物語が動いていきます。
是非、お楽しみに!!
小説書きながら音楽聞くことは多々あります。
寧ろ、ヘッドフォンで音楽流しながら集中していることが多いです。
他の作家さんはどうなんでしょうね、気になります。
★での応援や♡有難うございます!
出来るだけ更新していくので、宜しくお願いします(`・ω・´)ゞ
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