第111話 超人戦争 3
真祖吸血鬼というのはこの世界において、生存力という点では竜種をもしのぐかもしれない。
霧になった状態では単なる物理攻撃は全く通用しないし、実体化していても肉体そのものが強靭だ。
恐るべきはその不死性で、普通の吸血鬼でも脳を完全に破壊するか、血流をかなりの時間止める以外には、魔法で全てを焼き尽くすとか、全てを凍結させるとか、そんな方法しかない。
おまけに怪力であり俊敏であり、魔法の力も絶大であるので、吸血鬼を倒すには太陽の光が最も確実であると言われる。
そんなティアであるが、確かにエグゼリオンの持つ剣は危険だと分かった。
魔力を秘めていたり呪いがかけられていたりという剣を、ティアは数多く見てきた。だがあるだけで威圧感を巻き散らかすほどの剣など、そうはない。
神殺しのエグゼリオンが使うのだから、神を殺した剣なのだろう。真祖吸血鬼とはいえ、神に匹敵するほど自信過剰ではない。
出来ればエクレイアとシルフィアの二人をまとめて相手したいティアであったが、エグゼリオンが中央にいる。
エクレイアとは先ほど手合わせして、表面的な実力は把握したつもりだ。ならばシルフィアを相手とするか。
そうティアが考えた時、シルフィアはバックステップで後退した。
前衛が二人である以上、一人は後衛に回ったのか。シルフィアには確かに遠距離攻撃手段があるようだが。
「マテリアライズ・バスターウェポン」
シルフィアの両腕や背中から、何本もの銃口が生えた。
銃や大砲という兵器を知らないティアだが、アーリアの話によって、その危険性は分かる。
「フルバースト」
(なんじゃこりゃ~!)
直線的な光学兵器と、実体弾の誘導兵器。
この世界では上級魔法にも匹敵する破壊力が、戦場を乱舞する。
ティアはかろうじて回避するなり無効化したが、レオンが避け切れるとは思えなかった。
視界の隅ではアーリアが、魔法障壁で二人をガードしている。
そこへ襲い掛かるのがエグゼリオンとエクレイアである。
アーリアは消耗しているレオンをかばうように、エクレイアには魔法の飽和攻撃をしかける。エグゼリオンの方は自分でなんとかしてもらうしかない。
アーリアの放った火炎の魔法は、全てエクレイアの氷結系の魔法で相殺された。
基本的に火炎系の魔法の方が、氷結系よりも威力は高いのだが、そこは色々と裏技があるのだ。
それにしても破壊力では極めて単純な火炎系の魔法を使わないのは、魔法使いとしてはかなり珍しい。
(純破壊系の魔法と土系の魔法も使っていた。純破壊系を使うなら、火炎系も使っておかしくない)
使わないことに縛りがあるのかもしれないが、それにしてもおかしい。
だがアーリアがそれを考察する暇はない。
レオンが沈みかけている。
アーリアでさえ初見殺しをかけて勝ったレオンを、純粋に剣術で上回っている。
それに対してアーリアとティアは正面の戦いをしつつ、エグゼリオンの注意を分散させている。
エグゼリオンは強い。エクレイアも強い。シルフィアも強い。
だが、強さには色々な種類がある。
そして段々と分かってきたが、世界最強と言われるエグゼリオンと、その使徒の二人は強さの質が違うだけで、絶対値にそれほどの差はない。
つまりこの三人は、世界最強レベルである。
幻獣を使役する使徒のことも考えれば、マヘリアが最弱と自ら言ったのも無理はない。
両陣営、まだ切り札を出していない。消耗しているレオンでさえ、いざとなれば神剣の発動という必殺技がある。
もっともあれは、彼自身でさえまだコントロール出来ないものだ。実戦でいきなり使うのは避けたい。
敵の弱点はないか? アーリアは考える。
あちらはまだ、幻獣を戦線に投入していないのだ。こちらの方が不利――。
「あ、そうか」
アーリアは気付いた。敵には弱点がある。
守ってもらわなければいけない弱者が、敵にはいるではないか。
「ティア、レオン、少しだけ二人で頑張って」
アーリアの発動する魔法は、この世界ではまだ改良されていない。
存在自体はしているが、手軽なものではないのだ。
しかし異世界の知識を知るアーリアは、試したことこそないが、この状況でなら比較的安全に、それを使える。
アーリアの姿が消えた。
超スピードとか透明化とかではない。その場の全員が、彼女の存在を見失った。
転移。ティアとレオンはそれに気づいたが、転移先が分からない。
転移とはそう長距離を移動できるものではないというのが共通認識だ。
アーリアは、少しだけ遠く跳んだ。
幻獣の上に座る、サティアの真上に。
サティアは気付いてさえいない。
(もらった!)
殺す気はない。ただ、人質にだってもらうだけだ。
だが次の瞬間、アーリアとサティアの間のわずかな空間に、エグゼリオンが現れた。
(転移じゃない!?)
転移に伴う空間の揺らぎはなかった。空間は揺らいだが、転移の揺らぎではなかった。
エグゼリオンの神剣と打ち合うまでに、空間を踏んでアーリアは後退した。
かつてレオンと戦った時の転移剣だが、今回は以前のそれよりも、かなりの魔力を使った。
(失敗した! だがどうやって防いだ!?)
エグゼリオンの接近は、亜音速より速い。
しかし音速を超えているなら、衝撃波が発生しているはずだ。
わずかに混乱していたアーリアだが、エグゼリオンの様子を見て平静を取り戻した。
ひどく消耗している。レオンとあれだけやり合って呼吸を乱さなかったのが、今は肩で大きく息をしている。
なんらかの手段で高速移動したが、それは彼にとっても奥の手だったのだろう。
「シルフィア! 撤退する!」
エグゼリオンの判断は早い。
「マテリアライズ! ギガス・マキナ!」
シルフィアの声に従い、彼女の背後の空間が歪む。
そこから生まれたのは――。
「機械神!?」
さしものアーリアも驚く。純白のボディに緋色のラインを引いたそれは、アーリアのマキナよりも洗練された、細身のロボットであった。
シルフィアがそのロボットの胸部に吸い込まれ、右手にエクレイアが乗る。
城門をはるかに超える巨体が接近し、アーリアは大きく後退せざるをえなかった。
(なんでこんな物がここにある!?)
ロボットの左手に、サティアを抱えたエグゼリオンが乗る。
「アーリア・ネーベイア。俺はまだお前を見定めていない」
見下ろすエグゼリオンと、見上げるアーリア。
それは二者の、今の実力差を示すようでもあった。
ロボットが噴射も羽ばたきもなく、空を舞う。
重力への干渉だとアーリアには分かったが、今はどうしようもない。
西へと去っていく神殺しの一行を見送り、アーリアはその場に座り込んだ。
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