第60話 迷宮決闘 唯一の勝者

 あまりにも早い決着であった。

 そして完全に予想外の決着であった。


 この決闘の賭けは、決着時点で剣の魔王が何人脱落しているか、それと決着までにどれだけの時間が賭けの対象となっていた。

 一応黄金の勝ちという予想チケットもあったが、それは何人が残ったとかどれだけの時間がかかったとかではなく、単に黄金が勝つというだけのチケットであった。

 そしてそんなチケットは、一枚しか売れていなかった。

 そう、一枚は売れていたのだ。


「当たった……」

 生まれて初めての、決闘予想チケット。もちろん当てようなどとは思っていなかった。

 なにせ相手はダイタン最強と言われるパーティー。この迷宮都市に住む者であれば、よほどの世捨て人以外には周知されているだろう。

 というか、会ったことがある。仕事の依頼人として、彼らの肖像画を描いたのだ。


 それでも彼女が黄金の勝利に賭けたチケットを買ったのは、彼らが彼女にとって、本物の英雄であったからだ。

 命を救われた。まさか自分があんな事態に遭遇するとは思っていなかった。

 おそらく平凡な人生を、それでも必死で送るであろう自分に訪れた、唯一の冒険譚。


「当たったーっ!」

 壁際に踏み台を置いて、それでも完全には見えない試合だったが、勝敗はしっかりと分かった。

 だから叫んだ。カテリーナは叫び、そして飛び跳ね、踏み台から落っこちた。




 カテリーナが得た配当は莫大なものであったが、彼女はそれをすぐに、画材へと変えてしまった。

 たかろうという連中が出てくる前、あっという間の出来事であった。

 ……ツケで画材を買っていたので、その分もかなりあったのだが。


 とにかくうきうきと、カテリーナはしばらく絵の具代で困ることはなくなったのである。 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る