離れていても力になれるって、案外本当。――13

 わたしが危惧きぐしたとき、レイシーが叫んだ。


「エリーゼ先輩! ガーディアンシップをお願いします!」

「――っ! ゲオルギウス、ガーディアンシップ!」

(コクリ)


 反射的に、わたしはゲオルギウスに命じた。


 ゲオルギウスを除くわたしたちの従魔が、白銀のヴェールに包まれる。


 直後、ゲイルボルテックスがわたしたちの従魔をのみ込んだ。


 風が吹きすさび、荒れ狂う。


 やがて、わたしたちの従魔が竜巻から解放された。


 ガシャン、と音を立て、ゲオルギウスが倒れる。『味方への次の攻撃を自分が受ける』効果を持つ『ガーディアンシップ』により、ゲイルボルテックスのダメージを一手に引き受けたためだ。


 ゲオルギウスのHPが0になり、魔石に戻る。


 だが、残りの従魔にダメージはない。『目眩』に陥ったものもいない。被害は最小限に抑えられたと言えるだろう。


 あの一瞬で、最善の一手を導き出した!?


 レイシーの的確な判断に、わたしは仰天ぎょうてんするほかない。


「反撃です、ティターン!」

『OOOOOOOOHHHH!!』


 クレイド先輩が指示し、ティターンが吠える。


 戦場に舞っていた粉雪が、勢いを増し、暴れだし、吹雪となった。


 ホワイトアウトの発動。


 先ほどとは反対に、ゲルド・アヴェンディの従魔が吹雪にのみ込まれる。


『WOOOOHH……!?』

『キュオ……!?』


 ボルトバーサーカーとスリーアイズフォックスの苦しげな声が、吹雪のなかから聞こえてくる。


 吹雪が止んだとき、ボルトバーサーカーのHPは半分以下に、スリーアイズフォックスのHPは3/5になっていた。


『キュオ……!』


 加えて、スリーアイズフォックスの動きが止まり、痙攣けいれんをはじめる。ホワイトアウトの追加効果で『麻痺』に陥ったのだ。


『ピィッ!』


 さらに、クロのアブソーブウィスプが発動。紫色の火の玉が、スリーアイズフォックスにまとわりつく。これで、クロの固有アビリティ『分裂』の準備が整った。


 流れが戻ってきている。


 わたしの唇が、自然と笑みを描いた。


「調子づくな! キュアで回復しろ!」

『キュオ!』


 ゲルド・アヴェンディが、はじめて苛立いらだちを表情にあらわした。


 スリーアイズフォックスの『麻痺』をキュアで治癒させて、さらにボルトバーサーカーに命じる。


「ブラックスライムの『分裂』を阻止しろ! フラッシュスパークだ!」

『WOOOOOOOOHHHH!!』


 ボルトバーサーカーが手のひらをクロに向けた。その手のひらからバチッと火花が立ち、雷鳴とともに稲光が発射される。


 先制効果を持つ、雷属性の魔法攻撃『フラッシュスパーク』だ。


 ブラックスライムの防御性能はトップクラスだが、ボルトバーサーカーとのレベル差は34。ボルトバーサーカーはINTに恵まれているため、少なくとも1/4は削られるだろう。


 HPが3/4以下になると『分裂』は発動しない! なんとしてもフラッシュスパークを止めなければ!


「庇え、ファブニル!」

『GOOOOOOHHHH!』


 わたしは咄嗟に指示を出し、ファブニルがクロを庇おうと飛び出す。


 だが、一歩遅かった。


 ファブニルの脇を通り過ぎ、稲光がクロを襲う。


「終わりだ!」


 ゲルド・アヴェンディが勝ち誇る。


 それでも、レイシーの瞳に恐れはなかった。


「テンポラリーバリア!」

『ピィッ!』


 仄暗ほのぐらい膜がクロを包み、稲光から守る。


『次に与えられるダメージを無効化する』魔法スキル『テンポラリーバリア』。


「なん……だと!?」

「ロッドくんは、勝ちが近づいても決して油断しません。ですから、わたしも気は抜きません」


 わたしは、もう何度目かもわからない驚きを得た。


 先制攻撃は、その名の通り出が早い。後出しで対処するのはほぼ不可能。


 しかしレイシーは対処した。レイシーは、先制攻撃される可能性を考慮していたのだ。


『ピィッ!』


 わたしが目をくなか、『時女神のネックレス』の効果で、アブソーブウィスプによるHP吸収が、本来の半分の時間=5秒で発動する。


 スリーアイズフォックスのHPを吸収し、クロの体がウニョウニョとうごめき――


『ピッ!』

『ピィッ!』


 鳴き声を上げて、分身が飛び出してきた。


「分身さんはみなさんを守ってください! クロさんはヴァーティゴです!」

『『ピィッ!』』


 クロの分身がピョンコピョンコと飛び跳ね、わたしたちの従魔を庇うように、ボルトバーサーカーとスリーアイズフォックスの前に立ちはだかる。


 クロ本体は力を溜め、相手を『目眩』にするヴァーティゴの準備に入った。


「スリーアイズフォックスはキュアを用いたばかり。ヴァーティゴをかけられても、しばらくは治癒できません」

「ぬぅ……っ」


 ゲルド・アヴェンディの顔が歪む。はじめて見る焦りの表情だった。


 わたしたちは唖然あぜんとするほかない。


「クロを完璧に扱っている……」

「流石にここまでとは……あたしもビックリだよ」

「まるで、マサラニアさんを見ているようです」





 それからもレイシーは大奮闘だいふんとうした。


 クロが守りに徹し、リーリーがギフトダンスで支援する。


 ゲルド・アヴェンディに勝利するまで、長い時間はいらなかった。

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