女性に優しくする理由は、男にはいらない。――1

 翌朝。準備を整え、俺たちは4階層へ向かった。


 この世界の住人にとっては初の快挙だ。


「ここから先ははじめての領域だね!」

「どんな課題が待っているのでしょうね!」


 階段を上るケイトとレイシーは、いつもよりテンションが高い。4階層への到達は歴史に残る偉業だろうから、気持ちはわかる。


 階段を上り終えると、そこにあったのは通路ではなく小部屋だった。


 小部屋の中央には、石版が載せられた台座がある。これまでの階層で、広間に設けられていたものだ。


「4階層は、いままでの階層とは違う造りなんだね」

「暗号がつづられた石版も、いきなり置かれていますしね」


 エリーゼ先輩とミスティ先輩の声には、驚きの響きがあった。


 そんななか、俺は小さくつぶやく。


「やっぱりこの課題がきたか」


 ゲームでも同じだった。4階層の課題は決まっており、構造も、これまでの階層とは異なるんだ。


「とにかく、暗号を確認しようよ」


 ケイトにうながされ、レイシーが暗号を読み上げた。


「『各々おのおの、個の力で勝ち進め』――です」


 直後、ゴゴゴゴ……と音を立て、小部屋の奥にある壁が上昇していき、その先の通路が現れた。


「いきなりどうしたんだ?」

「暗号を確認したからでしょうか?」


 エリーゼ先輩が目を丸くして、ミスティ先輩があごに指を当てる。


「この先になにがあるのか確かめれば、暗号の解読につながるかもしれない。先に進もう」


 俺が言うと、4人がコクリとうなずく。


 通路を進むと、大きく開けた空間が見えた。


 目測で、100メートル×100メートル×10メートルの大部屋だ。


 大部屋の中心には、真紅のうろこを持った、体長2メートルのドラゴンがいた。前腕のない、翼竜に似たフォルムだ。




 ファイアードラゴン:66レベル




『ファイアードラゴン』は火属性。INT、STR、HPが高く、残りのステータスは平均的。すきのないステータスが特徴のモンスターだ。


 固有アビリティは、『HPが1/2以下になると、火属性攻撃の威力が30%上昇する』効果を発揮する『燃え上がる炎』。


「暗号の『勝ち進め』は、このモンスターと戦えという意味かもしれませんね」

「よし! じゃあ、行ってみよう!」


 ミスティ先輩とケイトが、先立って従魔を呼び出す。


「参りましょう、チェシャ! ティア! ティターン!」

『ミャア!』

『ララー!』

『OOOOHH!』

「行くよ、ガーちゃん! ケロちゃん!」

『クワァッ!』

『ゲロッ!』


 ふたりに続き、レイシーとエリーゼ先輩も従魔を呼び出そうとする。


 周りの景色が歪んだのはそのときだ。


「「「「えっ!?」」」」


 4人が驚きの声を上げ――気づけば、俺たちは先ほどまでいた小部屋に戻されていた。


「な、なにが起きたんですか!?」

「内部構造が変化するウェルト空間の性質を踏まえると、強制的に転移させられたのかもしれないね」

「けど、どうして戻されたんだろう?」

「上階層へ進む条件と関係しているのでしょうか?」


「「「「うーん」」」」と4人が首をひねる。


「『個の力』じゃなかったからじゃないか?」


 4人の視線が俺に集まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る