ダンジョン攻略は、予備知識で決まる。――1

 ウェルト空間突入後、まず視界に映ったのは、タイルが敷き詰められた通路だった。


 タイルは床・壁・天井に隙間なく敷かれ、ランダムな順番で紫色に明滅している。どこか近未来めいた光景だ。


「早速、1階層の構造を調べましょう」

「アイテムの採取も忘れずに、ね」


 ミスティ先輩とエリーゼ先輩が呼びかけ、レイシーとケイトが首肯しゅこうする。


 俺は手をげた。


「研究レポートの入手も行いましょう」

「研究レポート……そんなものがあるんですか?」


 レイシーが小首をかしげる。


「ああ」とうなずき、俺は説明をはじめた。


「ウェルト空間の各階層には、上層階へ進むための条件がある。その条件を満たす際、研究レポートは重要なヒントになるんだ」

「なにを研究したレポートなの?」

「古代文字だ」


 ケイトの質問に答え、俺は続ける。


「古代文字は、上層階へ進むための条件と密接に関わっている。フローラは考古学者のおじいさんの影響で、古代文字が解読できる。研究レポートの入手は、フローラたちに勝つために必要不可欠だ」

「その研究レポートは、どこにあるんだい?」

「1階層の、ランダムな場所に出現する小部屋っす」


 俺がエリーゼ先輩に知らせると、ミスティ先輩が疑問した。


「1階層に小部屋が出現するとは聞いていますが、研究レポートなるものがあるのは初耳ですね」


 どうやらこの世界の住人は、研究レポートを見つけられていないようだ。


 まあ、目につく場所には置かれていないからなあ。


「小部屋には机があるんですけど、その一番下の引き出しが、二重底になっているらしいんすよ。だから見つけられなかったんでしょうね」

「そこまで知ってるなんて、物知りってレベルじゃないよ……スゴすぎて怖くなっちゃうくらい」

「けど、ロッドくんほど力強い味方はいませんね!」


 ケイトが苦笑し、レイシーがフンスフンスと鼻息を荒くする。


「研究レポートの小部屋の目印は、古ぼけた木製の扉らしいっす。マッピング、アイテム採取と並行して、探しましょう」

「「「「おーっ!」」」」


 4人が元気よく拳を挙げ、俺たちは探索を開始した。




     ⦿  ⦿  ⦿




 1階層のマッピング、アイテムの採取、研究レポートの入手を終え、1時間後、俺たちは広間にたどり着いた。


 広間の中央には台座があり、奥には金属製の巨大な扉がある。


 台座には、文章が刻まれた石版が載せられていた。


 石版に刻まれた文章こそが、2階層へ進む条件を示す暗号だ。


 暗号を解読して条件を満たせば、金属製の扉が開き、2階層へと続く階段が現れる。


「これが最初の暗号ですね」


 レイシーが暗号を読み上げた。


「『「生ける印」を並べ、「解錠」せよ』」

「『生ける印』? なんだろう?」


 ケイトが顎に指を当て、首をひねる。


 エリーゼ先輩、ミスティ先輩、レイシーも、「うーん……」とうなっていた。


「『エイシュゴースト』のことだろうな」


 そんななか、俺は即答する。


 ウェルト空間における、上層階へ進むための条件は100あり、それぞれの階層に無作為むさくいで設定される。


 ファイモンやりこみ勢の俺は、そのすべての解答を知っているんだから、即答できて当然だ。


「エイシュゴーストとは、マッピング中に遭遇した、オバケのようなモンスターのことでしょうか?」


「ええ」と、俺はミスティ先輩に頷いた。


 エイシュゴーストは、ゴーストナイトのように可愛くデフォルメされた、オバケっぽい見た目で、ウェルト空間にしか生息しないモンスターだ。


「エイシュゴーストが、どうして『生ける印』なんですか?」

「思い出してみろ、レイシー。エイシュゴーストは、なにか抱えてなかったか?」

「はい。石片を胸に抱いていました」

「その石片に変わったところがあっただろ?」

「そういえば……記号のようなものが刻まれて――」


 言いかけて、レイシーがハッとした。


「もしかして、古代文字ですか!?」

「そうだ。エイシュゴーストは、古代文字が刻まれた石片を持つモンスター。つまり、『生ける印』ってわけだな」

「ようするに、わたしたちはまず、エイシュゴーストを集めなければならないんだね?」

「そうっす、エリーゼ先輩」


「「「「なるほどー」」」」と4人が頷く。


 4人が納得し、俺たちはエイシュゴーストを探しに向かった。

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