自主的な努力こそが、成長の鍵。――6

『GIGIGI!』


 ゴールデンビートルもやられてばかりではない。


 チャージタイムの4秒を終え、トラストスピアを発動させる。


 ゴールデンビートルがピートに突撃し、角による痛烈な一撃を見舞った。


『キャウンッ!』


 ピートが苦悶くもんの鳴き声を上げる。


 メニュー画面に表示されるピートのHPは、5/8になっていた。


 ピートは、スピードタックルとシャープファングの2発で、ようやく最大HPの1/4分のダメージ。


 ゴールデンビートルは、トラストスピア1発で、最大HPの3/8分のダメージ。


 やはり、レベル差はなんともしがたいな。ヒートハウンドは進化を前提としたモンスターで、ステータスも低いほうだし。


 力の差は歴然れきぜん。それでもレイシーの闘志はえない。


「まだまだやれますよね、ピート!」

『ワンッ!』

「いい返事です!」


 ピートもレイシーに応えるように、気勢きせいよく咆えた。


 強くなったな、レイシー。入学直後、カールにバカにされて悔しがっていたとは思えないぜ。


 レイシーの成長に、俺は感慨深かんがいぶかい気分になる。


『GIGIGI!』


 が、ゴールデンビートルには、レイシーとピートの意気込みがしゃくさわったらしい。


 先ほどのピートと同じように、弾丸のような速度で体を飛ばした。スピードタックルだ。


 スピードタックルがピートに叩き込まれる。


『キャウンッ!』


 スピードタックルの勢いで、ピートがはじき飛ばされた。


 HPがさらに減り、1/2を下回る。


 劣勢に立たされたレイシー。


 しかし、


「勝負はこれからです!」


 レイシーは強気に言い放った。


 もちろん、虚勢きょせいではない。なぜならば、ピートの固有アビリティが『奮闘ふんとう』だからだ。


『奮闘』は、『HPが1/2以下になると、全ステータスが10%上昇する』固有アビリティ。


 厳しい状況だが、ピートの真価はここから発揮はっきされるんだ。


『GIGI……!』


「しぶといやつめ!」と言うようにピートをにらみつけ、ゴールデンビートルが次のスキルの準備に入った。


 ゴールデンビートルの周囲に無数の緑葉りょくようが浮かび、尖った葉先がピートに向く。


 リーフエッジの準備モーション。チャージタイムは5秒だ。


 戦闘は終盤。


 俺は思う。


 攻撃・防御ともに、ピートよりゴールデンビートルのほうが上だ。一見いっけんした限りでは、ピートに勝ち目はない。


 それでも俺は口端を上げた。


 ピートだけなら、の話だがな。


『リィ!』


 クルクルと踊っていたリーリーが、両手を高々と掲げる。


 ギフトダンスの発動。ピートが緑色の光に包まれ、STR・INTが上昇した。


 そう。ピートにはリーリーがついている。優良支援役バッファーである、フェアリーアーチンのリーリーが。


 ギフトダンスの恩恵を受けたピートが、ゴールデンビートルに向けて咆えた。


『ワォオオオン!』


 咆哮ほうこうと同時、ピートの口腔にたくわえられていた熱エネルギーが、炎の濁流だくりゅうとなって放たれた。


 レッドバーニングの発動だ。


 ピートのINTは、『奮闘』とギフトダンスにより、1.43倍に引き上げられている。


 加えて、木属性のゴールデンビートルは、火属性に弱い。


『GIIIII!!』


 必然、ゴールデンビートルが受けるダメージは相当なものになった。


 3/4あったHPが、一気に1/8まで削れる。


『GIGIGIGI!!』


 大ダメージを食らったゴールデンビートルは、怒り狂ったように、角をブンブン振った。


 ゴールデンビートルの周りに浮かんでいる緑葉が、ますます鋭さを増す。


 リーフエッジの発動まで、あとわずか。


 間もなく反撃されるとわかっていながらも、レイシーは強気に言い切った。


「わたしたちの勝ちです!」


 レイシーが最後の指示を送る。


「スピードタックル!」

『ワウッ!』


 クールタイムが明け、使用可能になったスピードタックルを、再び放つ。


 ピートの体が弾丸となった。

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