自主的な努力こそが、成長の鍵。――1

「それでは、ウェルト空間の攻略会議をはじめましょう」


 翌日の放課後、俺、レイシー、ケイト、エリーゼ先輩、ミスティ先輩の5人は、食堂に集まっていた。


 ミスティ先輩の号令に、俺たちはうなずく。


みなさんもごぞんじかと思いますが、ウェルト空間は、『入るたびに内部構造が変わる』、『上層階へ向かうために条件をクリアしなくてはならない』など、謎の多いダンジョンです」


 ミスティ先輩の言うとおり、ウェルト空間は、内部構造がランダムで変わる特殊なダンジョンだ。


 階層ごとに暗号が存在し、その暗号が示す条件をクリアしなければ上階層へ進めないという、謎解き要素も含まれている。


 設定では、最上階で眠る、空間を操るロードモンスター『ディメンジョンキマイラ』の影響で、内部構造が変化するとされている。


「しかも、進入から72時間が経過すると、強制的にダンジョンの外に転送されてしまいます。3階層より先に進んだ記録がないことを踏まえると、難関ダンジョンと言えるでしょう」


 レイシー、ケイト、エリーゼ先輩が、ゴクリと喉を鳴らす。


「大丈夫っすよ」


 緊張感に包まれるなか、俺はあっけらかんと言った。


「俺、ウェルト空間について大分だいぶ明るいですから」

「本当かい、ロッドくん!」


 エリーゼ先輩が身を乗り出す。


「ええ。以前、ウェルト空間に関する文献ぶんけんを読んだことがあるんす。暗号解読には自信がありますよ」

「そのような文献があるのですか!?」

希少きしょうな文献で、あまり知られていないけどな」


 目を丸くするレイシーに、俺は苦笑しながら答えた。


 ちなみに文献とは、もちろん攻略Wikiのことだ。


「マサラニアさんの博識はくしきぶりには頭が下がる思いです」

「ロッドくんがいてくれれば、ウェルト空間は攻略したも同然ですね!」

「ああ。ロッドくんほど頼もしい味方はいないよ」


 ミスティ先輩、レイシー、エリーゼ先輩が、グッと拳を握る。


「嬉しい限りだね。わたしたちは、なんとしてもネイブルくんに勝たないといけないのだから」

「「同感です」」


 気のせいだろうか? 3人の背後に燃えさかる炎が見える。3人の顔付きも、どことなく獰猛どうもうだ。


「なあ、ケイト? あの3人、やたら気合きあいが入ってるみたいだけど、どうしたんだ?」

「ここで疑問が出るあたり、ロッドはかなり重傷だよね」

「なぜ俺はディスられているのか」

「そりゃあ、ディスりたくもなるよ。ロッドは女泣かせだよね、まったく」


 ケイトが「はー、やれやれ」と肩をすくめる。


 少しだけイラッときた俺は、半眼でケイトにいた。


「そういうケイトにはわかるのかよ? レイシーたちがやる気満々まんまんな理由」

「もちろんわかるよ。だけどロッドには教えなーい」

「なんでだよ?」

「そのほうが面白いから。いやー、ロッドは愛されてるねー」


 ケイトがニヤニヤ笑いを俺に向ける。


 意味がわからん。


 深く溜息ためいきをつき、俺は頭をガシガシと掻いた。


「ウェルト空間の探索は5人パーティーで行うことになっていますが、メンバー選出はどうしましょう?」

「ロッドくん、わたし、クレイド先輩は確定ですね。実力的に、はずすことなど考えられません」


 ミスティ先輩の問いに、エリーゼ先輩が答える。


「わたしもお供します! ロッドくんとは何度かダンジョンに挑戦したことがあります! 足手まといにはなりません!」

「あたしもついていくよ。この4人から目を離すなんて真似、もったいなくてできないしね!」


 レイシーとケイトも、即座に手を挙げて志願した。


 これで5人。参加条件はクリアしている。


 しかし、俺は首を横に振った。


「レイシーとケイトはダメだ」

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