相手の手を読み切った者が、勝負を制する。――2

「エリーゼ先輩の装備をすり替えたのは、ジェイクだと思っていた。あいつはスペルタンの一員だしな」


 アクトを見据みすえながら、俺は語る。


「けど、決勝戦の直前、クロたちの装備品がすり替えられていたことで、気付いたんだ。今回、テロに関わっているのジェイクだけじゃないってな」


 臆測おくそくが確信に変わったのは、決勝戦で、俺が従魔を繰り出したとき、ジェイクがひとつも動揺しなかったからだ。


 ジェイクが装備品をすり替えた犯人なら、俺の従魔が状態異常になると思っていたはず。それなのにジェイクは、普通に戦っているクロたちを見ても驚かなかった。


 つまり、装備品をすり替えたのは、もうひとりのテロリストの独断行動というわけだ。


 では、そもそもなぜ俺が、犯人がふたりいると気付いたのか?


 それは、宿をつ前の行動にある。


「俺は宿を発つ直前に、クロたちを呼び出して状態を確認している。そのときクロたちが装備していたのは、いつもの装備品だった。もちろん、ジェイクがすり替えるすきなんてなかったはずだ」


 しかし、


「馬車のなかでメニュー画面を見たら、装備品はすり替えられていた。つまり、すり替えられたのは、俺が宿でクロたちの状態を確認してから、馬車のなかでメニュー画面を開くまでのあいだ」


 だとしたら、


「俺と同じ宿に泊まった者――セントリア従魔士学校の生徒のなかに、スペルタンの工作員がひそんでいた可能性が高い」


 母国を滅ぼした諸外国しょがいこくに報復するため、スペルタンは、各国に工作員を潜伏させている。


 そして、アクトが転校してきたのは、今回のテロが行われる約1ヶ月前。


 もちろん、偶然そのタイミングで転校してきたとも考えられるが、アクトの従魔の能力を考慮すると、一気に疑いは増す。


「お前の従魔『デイズスネーク』は、一時的に透明化できる『カモフラージュ』と、『不思議なバッグ』内の装備品を強制的に相手に装備させる、『コンペルイクイップ』を修得できる。このふたつのスキルを同時に修得できるのは、デイズスネークだけだ」


『カモフラージュ』を用いて忍びより、俺・エリーゼ先輩が従魔を呼び出したのを確認し、物陰に隠れる。


 状態確認を終えた、俺・エリーゼ先輩が従魔を魔石に戻す瞬間を見計みはからい、『コンペルイクイップ』で装備品を強制的に装備させ、再び『カモフラージュ』を使って去る――これが、装備品すり替えのトリックだ。


 手口から察するに、複数のデイズスネークが用いられたのだろう。


 俺はアクトを指差す。


「セントリア従魔士学校の生徒で、デイズスネークを従えているのはお前だけ。これだけの要素があれば、お前を疑うには充分だ、アクト」


 俺が推測を語り終えると、アクトはパチパチと拍手をした。


「やっぱりスゴいね、ロッドは。ここまで見抜かれるとは思わなかったよ」


 アクトが浮かべる笑みは、いつもの爽やかなものとは正反対の、ねばっこいものだ。


「それにしても、どうやって僕の居場所を探し当てたんだい?」

「レイシーの従魔、ピートに協力してもらったんだよ」

『ワウッ!』


 俺の足下にいるピートが元気に鳴く。


「ヒートハウンドに、索敵さくてきスキルなんてあったっけ?」

「単純に鼻がくんだよ、こいつは」


 アクトがポカンとした顔をして、プッ、と吹き出した。


「本当にきみは面白いね、ロッド。スキルだけじゃなく、モンスターの特性まで使いこなすなんてさ」


 それに、


「ジェイクがスペルタンの一員だとも知っていた。おかげで、僕が動かなくちゃならなくなったじゃないか。困ったものだよ」


 アクトの目が、探るように細められる。


「ロッド、きみは何者だい?」


 俺はニヤリと口端くちはしを上げた。


「俺が敵に情報を与えると思うか?」

「そうだね。きみはそういうやつだよ」


「まあ、いいや」と、アクトが酷薄こくはくに笑い、『不思議なバッグ』から魔石を取り出す。


「きみたちには死んでもらうことだしね」

「レイシー! 俺のそばにいろ!」

「はいっ!」


 俺もみっつの魔石を放り投げた。


「来い! クロ! ユー! マル!」

『ピィッ!』

『ムゥ!』

『キュウ!』


 現れたクロ、ユー、マルが、臨戦態勢をとる。


「行くよ、ジン」

『シュゥ!』


 アクトの従魔、デイズスネークのジンが現れ、ジロリと俺たちをめ付けた。


 アオダイショウサイズの、緑の迷彩柄をした蛇だ。




 デイズスネーク:18レベル




 DEXとAGIが高く、VIT、MND、INT、HPが低い、木属性のデイズスネークは、火力アタッカーよりは支援役バッファー妨害役デバッファーとして活躍する。


 固有アビリティは、『戦闘開始から10秒間、相手のDEXが半減する』効果を持つ『隠密おんみつ』だ。


「『カモフラージュ』」

『シュゥ!』


 アクトの指示で、ジンの姿が消えた。


『別のスキルを発動するまで、範囲攻撃以外のスキルを受けない「透明状態とうめいじょうたい」になる』魔法スキル。


 このスキルを用いて、アクトは工作を働いていたんだろう。


 そして、その悪意はいま、俺とレイシーに向けられている。

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