悪事は怒りを買うから、結局は損。――4

 ヴァンパイアメイジを確認した俺は、顎に指を当てながら、「なるほど」と頷く。


「『やみパ』か」


 ファイモンには、『属性統一ぞくせいとういつパーティー』というパーティー構成がある。文字通り、従魔の属性を統一したパーティーだ。『闇パ』とは、『闇属性統一パーティー』のことを指す。


 なぜ属性を統一するのかというと、属性支援効果の恩恵を、パーティー全員が受けられるからだ。


 ジェイクはレイスビショップを用いているし、間違いないだろうな。


 思っている俺の前で、レイスビショップが両手を掲げる。


 魔法陣のような紋様もんようが上空に浮かび、半球状の結界が広場を覆った。


『自分以外の闇属性モンスターの、すべてのステータスを10%上昇させる結界を展開する』固有アビリティ『闇の教典』により、ヴァンパイアメイジとマッディーデーモンが強化される。


 このように、特定の属性を支援するスキル・固有アビリティを最大限に活用できる点が、属性統一パーティーの強みだ。


 しかし、属性統一パーティーは利点ばかりではない。どんなすぐれた戦術にもデメリットがあるものだ。


 デメリットのひとつは弱点属性。


 属性統一パーティーは、属性をひとつに絞る仕様しよう上、相手に弱点属性のモンスターがいると、途端とたんに苦戦におちいってしまう。


 もうひとつは、相手の属性が同じだった場合。


 属性支援のスキル・固有アビリティには、効果が全体におよぶものが多いため、相手のモンスターにも恩恵を与えてしまう可能性がある。


 ちょうど、この試合のように。


『ピィッ!』

『ムゥ!』


 クロが、ミヨーン、と伸び上がり、ユーが、グッ、と両腕に力こぶを作る。


 ブラックスライムは闇、ゴーストナイトは闇・鋼属性だ。当然、『闇の教典』の効果で強化される。


 意気を上げるクロとユーを見て、ジェイクが、ニヤリ、と笑った。


「ラッキーと思ったか? 残念だが、そいつは間違いだ」


 ジェイクが指示を出す。


「『リペイント』!」

『キキッ!』


 応じたのはヴァンパイアメイジだ。


 ヴァンパイアメイジが、クロたちに両手を向ける。その手から、虹色のオーラが溢れ出した。


 溢れ出た虹色のオーラが、オーロラのようにクロたちを覆う。


『ピィ?』

『ムゥ?』

『キュウ?』


 オーロラに包まれたクロたちが、コテン、と首を傾げ、自分の体をキョロキョロと見回す。


 クロたちの体にダメージはないし、HPも減っていない。しかし、なにかに戸惑っている様子だ。


 俺は冷静に分析する。


 ゲームと違って、この世界のモンスターには感情や意思がある。に違和感を覚えるのも、当然かもしれないな。


『リペイント』は、チャージタイム0秒の魔法スキル。


 その効果は、『相手モンスターの属性を、強制的に変化させる』だ。火は水、水は氷、風は鋼、土は木、木は風、雷は土、氷は火、鋼は雷、光は闇、闇は光に変えられる。


 つまり、クロは光、ユーは光・雷、マルは土属性にされたということだ。


「こいつで一転、大ピンチってわけだ!」


 ジェイクが勝ち誇る。


 気持ちはわからないでもない。事実、ジェイクは圧倒的優位に立ったのだから。


 闇属性から光属性に変わったことで、クロとユーは、『闇の教典』の強化対象ではなくなった。属性統一パーティーのデメリットのひとつ、『相手モンスターにも恩恵を与えてしまう』をケアしたかたちだ。


 それだけじゃない。


 闇属性と光属性は、それぞれに強く、同時に、それぞれに弱い、特殊な関係にある。闇属性は光属性の攻撃に弱く、光属性は闇属性の攻撃に弱いということだ。


 では、現状はどうなっているだろうか?


 闇属性統一パーティーだから、ジェイクの従魔は、確実に闇属性の攻撃スキルを持っている。


 一方、ブラックスライムとゴーストナイトは闇属性のため、光属性の攻撃スキルを持っている可能性は低い(というか、属性攻撃スキル自体、ほとんど修得していないわけだが)。


 ジェイクは、クロとユーに、ノーリスクで二倍ダメージを与えられる状況を、『リペイント』ひとつで作り上げたんだ。

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