見ている分には羨ましいだろうけど、ハーレムって結構大変。――5

「やってくれたな……」


 俺は感心かんしん交じりに呟く。


 シェルバーストこそが、俺が懸念けねんしていたスキルだ。


 物理スキルでは数少ない範囲攻撃。


 チャージタイムが0秒なうえ、尋常じゃない威力を有するが、その代償として、最大HPの3/4、HPを消費する。


 ざんHP1のルードは、当然ながら戦闘不能だ。


『ルォォ……』


 悲しげな断末魔だんまつまとともに、ルードが魔石と化す。


 俺は拍手を贈りたい気分だった。


 なにしろ、いまの選択は、エッジがとれるなかで最良の一手と呼べるのだから。


 ルードは『強固』を持っているが、サクリファイスボム2連発には、どう足掻あがいても耐えられない。


 だからエッジは発想を変えた。


 どうやっても耐えられないのなら、クロに一矢いっし報いるため、ルードを犠牲にしようと考えたんだ。


 すなわち、痛み分け。


 非情な選択に思えるが、戦術的には見事としか言えない。実際、クロを脱落させることに成功したのだから。


 俺は笑みをこらえられなかった。


 強敵との戦いは、これだからやめられない。


「よくやった、クロ! 交代だ!」

『ピッ!』


 俺がクロを呼び戻すと、エッジはフゥ、と一息ついて、パン! パン! と気合いを入れ直すように頬を叩いた。


「決めるぞ、ユー!」

「頼むぞ、ジャック!」


 俺は2番手を、エッジは最後の従魔を呼び出す。


『ムゥ!』

『OOOOOOHH!』


 俺が選んだのはユー。エッジが望みをたくしたのは、目と口のようなうろと、腕のような枝を持つ、巨木だった。


 俺にとって、ある意味、因縁いんねんの敵と言えるモンスターだ。




 フレンジートレント:92レベル




 姿すがた通り、属性は木。ステータス的には、STR、VIT、MNDが高く、AGI、DEXが低い。


 固有アビリティは、『攻撃スキルを用いた際、相手に与えたダメージの1/8分、HPが回復する』効果を発揮する『吸収きゅうしゅう』。


 この世界に転生した俺が、最初に遭遇し、殺されかけたモンスターだ。


「なんの因果か知らねぇが、あのときの俺とは違うって証明してやるよ」


 俺は意気込み、フレンジートレントのジャックを見据みすえる。


 そんな俺とは対照的に、


「なんだ、ゴーストナイトか」


 エッジは見るからに気の抜けた様子だった。


 肩の力を抜くエッジに、俺は落胆する。


 さっき、不遇モンスタークロに苦戦したことを忘れたのか? 学ばねぇやつだなあ。


「『ネイルピック』だ、ジャック!」

『OOOOHH……!』


 俺が溜息をついていると、エッジが指示を出した。


 ジャックが、鉤爪の生えた腕を引き絞る。物理攻撃スキル『ネイルピック』の構え。


 ネイルピックのチャージタイムは5秒。それだけあれば、ユーには充分じゅうぶん過ぎる。


「よし! 舐めてかかるんなら、わからせてやるか」


 気を取り直し、俺はユーに指示した。


「バーサク!」

『ムゥゥゥッ!』


 即発動したバーサクに、エッジが警戒の表情を見せる。


「パージ!」

『ムゥッ!』


 ユーのHPが1になり、エッジが怪訝けげんそうに顔をしかめる。


「リバーサルストライク!」

『ムゥ――――ッ!!』


 流星の如く飛び出したユーに、


「なにぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!?」


 エッジが仰天ぎょうてんした。


 キュドォオオオオオオンンンンッ!!


『OOOOOOOOOOHHHH!!』


 一撃必殺。


 すべなくつらぬかれ、ジャックのHPが0になる。


 ジャックが魔石になるさまを、エッジは呆然と眺めていた。


 静まり返る競技場。


『しょ、勝者、ロッド・マサラニア!』


 審判の声が、無音の競技場に響いた。


「そ、そんな、バカな……」


 エッジの膝が、ガクリと崩れる。


 項垂うなだれるエッジに、俺はニカッと笑った。


「な? 痛い目を見るって言ったろ?」

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