見ている分には羨ましいだろうけど、ハーレムって結構大変。――2

「『クイックランス』!」

『ガルッ!』


 試合開始と同時に、エッジが指示を出した。


 ランスが膝を曲げ、わずかに体を沈める。


 先制効果を持つ直接攻撃スキル、『クイックランス』のモーションだ。


 そのモーションを見た瞬間、俺もクロに指示を送った。


「『シャドースティッチ』!」

『ピィッ!』


 クロの影がウニョウニョとうごめく。


 直後、ランスが地を蹴り、弾丸の如く飛び出した。


 槍のように鋭い2本の牙が、クロに迫る。


 しかし、焦る必要はない。


 クロの影が触手となり、ランスの脚に絡みついた。


 動きを封じられ、クイックランスが不発に終わる。


「なっ!?」

「警告したはずだぜ?」


 驚愕きょうがくに目をくエッジに、俺は不敵に笑ってみせた。


 いくら先制効果を持とうとも、クイックランスは直接攻撃スキルだ。モーションさえ見逃さなければ、シャドースティッチで止められる。


「ちっ」と舌打ちして、エッジが次の指示を送った。


「『ビルドアップ』!」

『グルルル……!』


 ランスがググッと力を溜める。STRを30%上昇させる自己強化スキルの構え。


 先手を封じられて自己強化。しくも、カールとの対戦と同じ展開だった。


 クロを舐めきっているところも似ているし、もしかしたら俺は、こういうやつとえんがあるのかもな、悲しいことに。


 苦笑しながら、俺はクロに、次の指示を出す。


「アブソーブウィスプ!」

『ピィ……ッ!』


 ランスと同じく、クロも力を溜める。


 2秒後、


『ガルォッ!』


 ランスのビルドアップが発動。


 次いで、エッジが攻撃を指示した。


「『ニードルレイン』!」

『グルルル……!』


 ランスの体毛が逆立さかだつ。


 タイラントドラゴンが用いていた、5連続物理攻撃スキルだ。


『ピィッ!』


 ランスがニードルレインの準備に入った直後、クロのアブソーブウィスプが発動。紫色の火の玉が、ランスにまとわりつく。


「次は『ヴァーティゴ』だ!」

『ピィ……ッ!』


 相手が自己強化スキルを用いたのだから、対策を施さないわけにはいかない。


 クロの『分裂』は、HPが3/4以下になると使えなくなる。そうならないように、ランスを『目眩』状態にしておくべきだ。


『ピィッ!』


 ヴァーティゴ発動。


 周りの景色をゆがめられ、ランスが頭をフラフラと揺らしはじめる。


「小細工が得意なようだな」


 エッジが眉をひそめた。


 苛立いらだってはいるようだが、感情的になっているようには見えない。俺のスキル選択から戦術を割り出そうと、頭を働かせている様子だ。


 カールと似ているとは言えど、エッジは何百人もの生徒から選抜されたひとり。つまりは精鋭だ。


 激情に支配されて視野を狭めるようなヘマはしない。感情をコントロールするすべを身につけているようだ。


 自然、牙を剥くような笑みが浮かぶ。


 いいねぇ! やっぱ、戦いってのはこうじゃないとな!


 高揚する俺の前で、ランスがニードルレインを発動させる。


『ガルォッ!』


 逆立っていた体毛がトゲとなり、空高く射出された。


 クロに飛来する5本のトゲ。2本の軌道は逸れているが、3本の狙いはたしかだ。


「耐えろ、クロ!」

『ピィ……ッ!』


 ギュッと目をつむったクロに、3本のトゲが襲いかかる。


『ピゥッ!』


 クロの悲鳴を聞きながら、俺はメニュー画面を確認した。


 少し削られたが、クロのHPは7/8残っている。


「耐久性だけは一丁前いっちょうまえだな」


 苦虫を噛み潰したような顔で、エッジがぼやいた。


「よし! いいぞ、クロ!」

『ピィ――ッ!』


 ブルブルと体を振ってトゲを払いのけ、「こんなものなんともないぞっ!」と言うように、クロがミョイーン、と伸び上がる。

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