見ている分には羨ましいだろうけど、ハーレムって結構大変。――1

 セントリアの4つの競技場は、1ヶ所に固まっている。


 それぞれの競技場は東西南北に位置し、通路で行き来できるようになっている。


 選手権に参加する学生は、4つのブロックに分かれ、それぞれの競技場で勝ち抜き戦を行い、勝ち抜いた4名が、本戦への参加資格を得るんだ。


『続いては、セントリア従魔士学校所属、ロッド・マサラニアくんと、ソリン従魔士学校所属、エッジ・コンフォールくんの試合です』


 サイキックラビットが審判の声を拾い、拡張して競技場に響かせる。


 ステージに上がった俺は、金髪碧眼きんぱつへきがんの、気が強そうな青年と対峙した。


「行ってこい、クロ!」

『ピィッ!』

「来い、ランス!」

『ガルッ!』


 俺とエッジは、それぞれの従魔を呼び出す。


 エッジの一番手は、銀色の毛並みと、槍のように前に突き出た2本の牙を持つ、2メートルほどの体長の、とら型モンスターだった。




 ジャベリンタイガー:95レベル




 STR、AGI、DEXが高く、HPとINTが低い、鋼属性のモンスター。


 固有アビリティは、『攻撃スキルのチャージタイム開始時から、相手にダメージを与えるまで、STRが20%上昇し、VITが20%減少する』効果を持つ『勇敢ゆうかん』。


 ステータス、固有アビリティともに、物理アタッカー向きの性能だ。


 それから、装備品は『ちから鉤爪かぎづめ』か。


 俺は、ジャベリンタイガーことランスが装備している、赤銅色しゃくどういろの鉤爪に注目した。


『力の鉤爪』は、装備しているモンスターのSTRを、15%上昇させる装備品だ。


 ジャベリンタイガーの長所を伸ばす、無難な選択と言えるだろう。


「まさか、ブラックスライムが相手だなんて……」


 俺が相手の分析をしていると、エッジが溜息ためいきをついた。


「Fランクのモンスターで選手権に挑むなんて、お前、正気か?」


 見るからに落胆らくたんしている様子だ。まあ、この世界ではブラックスライムの評価が低いし、妥当だとうな反応だろうな。


 エッジに呆れられ、俺が抱いた感情は、怒りでも悔しさでもなく、懐かしさだった。


 セントリア従魔士学校では、クロを舐めるやつはもういないからなあ。


 それもそのはず。入学してもなく、Sランクモンスターとされるサンダービーストを下し、四天王であるエリーゼ先輩から認められ、学生選手権の参加資格である70レベルを超えたクロを、侮れるはずがない。


 だから、こうして見下されるのは久しぶりだ。


 おそらく観客の大半も、エッジが圧勝すると思っているだろう。いわばアウェイの状況だ。


 けど、こういう展開こそ燃える。大番狂わせジャイアントキリングのお膳立ぜんだてがされているのだから。


 よっし! いっちょう、クロの真価を見せつけてやるか!


 俺はニヤッと口端くちはしをつり上げた。


「ひとつ警告しておくぞ?」


「警告?」とエッジが眉をひそめる。


「クロを舐めてたら痛い目を見る。注意することをオススメするぜ?」

「……参考にしておく」


 もう一度、エッジが嘆息たんそくした。


 微塵みじんも警戒していないが、それならそれでいい。


 警告はしたし、あとは全力で叩き潰すだけだ。


『それでは、両者かまえ!』


 審判が右手を挙げ、競技場が静まり返った。


 エッジの目付きも真剣なものに変わる。


『――はじめ!』

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