犠牲の上に成り立つ平和って言葉が、詭弁じゃなかったためしはない。――10

 リバーサルストライクのクールタイムは5分で、アブソーブウィスプは10分だ。


 5分後、10分後、15分後にリバーサルストライクを、10分後に2発目のアブソーブウィスプを放ち、俺たちはタイラントドラゴンのHPを着実に削っていった。


 すでに3つのHPバーを消失させ、残りは2本。4本目のHPバーも、1/4を切っている。


 そして20分後。


「MPポーションが、切れた」


 悔しげな面持ちでエリーゼ先輩が告げた。


「回復スキルもガーディアンシップも、もう使えないのですね……」


 レイシーが下唇を噛む。


 タイラントドラゴンのHPバーはあと2本。されど2本。このままのペースでは、こちらの全滅が先だ。


 そして、クロたちが倒されれば、俺たちの命はない。


 しかし、俺は言い切った。


「わかった、あとは俺に任せてくれ!」


 牙をくように笑い、クロに指示する。


「『分裂』開始!」

『ピィッ!』


 ゲオルギウスのHPはまだ半分。インフェルノはクールタイムの途中。


 残された時間で、クロの分身を生み出せるだけ生み出す!


『ピッ!』

『ピ!』

『ピィッ!』


 ゲオルギウスが踏ん張ってくれているあいだに3回のHP吸収が行われ、3体の分身が現れる。


『GYAAAAAAAAAOOOOOOHHHH!!』


 これまで耐えてくれていたゲオルギウスだったが、タイラントドラゴンのニードルレインを食らい、ついに片膝をついた。


 傷だらけの鎧。HPバーは1/8以下。もはや限界だ。


「ロッドくん!」

「マサラニアくん!」


 ふたりが心配そうに俺を見やり、


「大丈夫だ! どデカいのぶち込んでやる!」


 俺は咆えた。


「行ってこい、分身たち!」

『『『ピィッ!』』』


 3体の分身が、ピョインピョインとタイラントドラゴンに向かっていく。


 今回の戦闘では、タイラントドラゴンが『連続攻撃』持ちであるため、テンポラリーバリアは使えない。


 当然ながら、テンポラリーバリアは別のスキルに置き換えてある。


 そのスキルは、260レベルで修得する、ブラックスライムの奥の手。


「『サクリファイスボム』!!」

『『『ピィィィィ……』』』


 タイラントドラゴンのもとにたどり着いた分身たちが、体からまばゆい光を放ち、


『『『ピィ――――――ッ!!』』』


 轟音を響かせて爆発した。


「きゃあっ!」

「くうっ!」


 吹き荒れる爆風に、レイシーとエリーゼ先輩が、スカートと髪を押さえる。


 サクリファイスボム。自身が戦闘不能になる代わりに、超弩級ちょうどきゅうのダメージを与える、回避不可の物理スキル。早い話が自爆だ。


 扱いが難しいスキルだが、分身を生み出せるブラックスライムとはめっぽう相性がいい。『サクボム型』というスキル構成があるくらいだ。


 もうもうと砂煙が立ち込める。


 タイラントドラゴンのHPバーがギュインと減少。


 4本目のHPバーが消滅し、5本目のHPバーも削れ――




 7/8、残った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る