たとえゲーム廃人でも、女の子に好かれたらやっぱり嬉しい。――3

 昼食後、俺とレイシーはセントリアの街を散策さんさくしていた。


「よかったら、このあとも付き合っていただけませんか?」


 とレイシーにお願いされたからだ。


 俺ももう少しレイシーといたかったから、二つ返事で快諾かいだくした。


 そのときレイシーが浮かべた笑顔は、大輪の花のように美しくて、俺はまたしても見惚れてしまった。


「見てください、ロッドくん! 『シルフィーキャット』がお手玉されてます!」

「上手いなあ、あの曲芸師!」

「それに可愛いです! モフモフです!」


 曲芸師が4匹の猫型モンスターをひょいひょいとジャグリングする様子を観覧しながら、俺とレイシーははしゃぎ合う。


 可愛いものに目がないレイシーは、完全にシルフィーキャットに魅了みりょうされていた。


 ほっこりするレイシーを眺めながら、俺もまた頬をゆるめる。


 シルフィーキャットに負けず劣らず、レイシーも愛らしいからだ。


「きゃっ!」

「おっと」


 そんな折り、曲芸を見ようとやってきた人集ひとだかりに押され、レイシーが小さく悲鳴を上げた。


 咄嗟とっさに俺は、レイシーの手をとる。


「大丈夫か?」

「は、はい、ありがとうございます」


 俺がホッと息をつくかたわら、なにやらレイシーが頬を赤らめてモジモジしている。


 そこで俺は、レイシーと手を繋ぎっぱなしでいることに気付いた。


「わ、悪い、いきなり握って」


 慌てて放そうとした俺の手を、レイシーが追いかけて捕まえる。


「レイシー?」

「は、はぐれたらいけません。繋いでいて、くれませんか?」


 エメラルドの瞳で上目遣いしながら、レイシーが俺の手をキュッと握った。


 胸が甘くうずく。


「そ、そうだな。はぐれたら、マズいしな」


 不思議とこのままでいたかった。


『はぐれないため』という免罪符めんざいふを設け、俺もレイシーの手を握り返す。


「ありがとうございます」


 嬉しそうにはにかむレイシーの横顔に、俺はしみじみと思う。


 ゲームさえあれば、ほかになにもいらないと思ってきたけど、こうやって女の子と遊ぶのも、いいものだな。

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