弱小モンスターが大器晩成型なのは、育成ゲームではよくある話。――8

 訓練場が沈黙に包まれた。


 カールもレイシーもほかの生徒たちも、一様いちようにポカンと口を開けている。


「だから、つまらないマウンティングはやめようぜ? ののしったところで誰かが得するわけじゃないだろ? その子はマジメに頑張ろうとしているじゃないか。少しは大人になろうぜ?」


 苦笑しながらさとすと、カールが顔を真っ赤にした。


「僕を愚弄ぐろうするつもりか、落ちこぼれ風情ふぜいが!」

「愚弄しているわけじゃない。事実を口にしているだけだ」

戯言たわごとを……!」


 冷静に指摘すると、カールが低くうなるような声を出す。


「ブラックスライムしか授かれなかった落ちこぼれが、この僕に御託ごたくを並べるな!」


 参ったな……このままじゃらちかないぞ。


 どうしたものかなあ、と頭を捻っていると、俺は妙案みょうあんを思いついた。


 待てよ? カールが反抗するのは、俺が落ちこぼれだと決め付けているからだよな? なら、その認識を塗り替えればいいんじゃないか?


 俺が落ちこぼれじゃないと理解すれば、カールの態度も改まるだろう。そうすれば、レイシーがバカにされることもない。


 加えて、クロへの弱小モンスター扱いも払拭ふっしょくできる。一石二鳥どころか、三鳥も四鳥も得られるぞ!


 自分のひらめきに手を打ちたい気分になりながら、俺はカールに提案する。


「じゃあ、俺が落ちこぼれじゃないって証明すれば、その子をバカにするのをやめてくれるか?」

「なに?」


 怪訝そうに顔を歪ませるカールに、俺はニィッ、と好戦的な笑みを向けた。


「三日後に模擬戦の授業があるだろ? そこで白黒つけようぜ」


 ス、とカールを指差して、俺は言い放つ。


「勝負だ、カール・ヒルベストン。クロの強さ、思い知らせてやるよ」


 カールが憤怒に顔を染め、ギリリ、と歯軋はぎしりをした。


「ほざいたな、落ちこぼれが! いいだろう、身のほどをわからせてやる! 首を洗って待っていろ!」


 カールが背を向けて、訓練場から去っていく。


 突如とつじょとして、優等生(仮)と落ちこぼれ(仮)の勝負が決まったことで、訓練場の生徒たちがざわめき立つ。


 そんななか、カールに罵られていたレイシーが、俺の元に寄ってきた。


「あ、あの、助けてくれてありがとうございます」

「礼なんていらないよ」


 ペコペコと何度もお辞儀するレイシーに、俺は手のひらをヒラヒラさせながら苦笑した。


「えっと、レイシー・シルヴァンであってるか?」

「は、はい。レイシーとお呼びください」

「じゃあ、レイシー。俺がカールを倒すから、もう大丈夫だ。訓練でもなんでも好きにやったらいい」


 俺が励ますが、レイシーの表情は晴れない。


「ですが、カールくんはサンダービーストの使い手ですし……本当に、巻き込んでしまって、なんと謝ればいいか……」

「心配すんなって、勝算はあるからさ。あと、謝る必要なんてないぞ? むしろ感謝したいくらいだ」

「え?」


 キョトンとするレイシーに、俺はニカッと笑ってみせる。


「ちょうどいい実験相手ができたんだからな!」

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