第197話 ここは俺に任せて先に行け!
カズキの魔法により強制的に進化させられた『リントヴルム』は、普通のヒュドラと変わらない見た目をしていた。
『な、なんという事を・・・・・・』
気力だけでカズキの【スリープ】に抗っていたクロノは、その存在が内に秘めた膨大な魔力に心を折られ、その一言だけを残し、意識を失う。
『・・・・・・』
同じドラゴンであるロイスも、『リントヴルム最終形態』を見て絶句していた。
「「「「「「「・・・・・・」」」」」」」
ジュリアンやソフィア。そして、他者の魔力を感知できない筈のカズキのパーティメンバーもまた、膨大な魔力に中てられている側だった。今、目の当たりにしている存在から、カズキやエルザ、クリスのような、圧倒的な力を持つ者特有の気配を感じたからである。
「キシャアアアアアアアア!」
『リントヴルム最終形態』が吠えると同時に、九匹の大蛇からブレスが放たれる。
その威力は凄まじく、今まで彼らを魔界の魔力から守っていたカズキの有する最高の防御魔法、【アイギス】を貫通する程だった。
「そんなっ!」
その光景を見たラクトが叫ぶ。皮肉にも、絶対防御を誇る【アイギス】の守りを突破された事が、彼を正気付かせる結果となったのだ。
「【アイギス】を貫通したか。これはちょっと予想外だな」
尤も、【アイギス】を破られた本人に、ラクトのような悲壮感はない。それどころか興味深そうな顔をしている始末である。どうやら初めての経験に、好奇心が疼いているようだった。
「【ホーリーシェル】!」
エルザが高らかに詠唱すると、【アイギス】を貫通したブレスが彼女の張った障壁に阻まれ、次の瞬間には消滅していた。神の力で構成された聖なる繭が、空間をも破砕するブレスを見事に防ぎ切ったのだ。
カズキが余裕だったのは、いくらでも打つ手があった事と、エルザが魔法を使う気配を見せていたからである。
「ありがとう、ねーさん」
「構わないわ。私も今の自分の実力を知れた事だし」
以前の悪魔騒動の際、魔王どころか伯爵級の悪魔にも臆した事がある。それが許せなかったのか、エルザはカズキやクリスに倣い、密かに魔力操作を鍛え始めた。カズキやクリスの強さの一端が、魔力操作を極めている事にあると、二人と一緒に旅をしていた頃からエルザは知っていたのである。
結果、あっという間にカズキやクリスの領域(カズキの言う変態)に踏み込み、『リントヴルム最終形態』を見ても動じなくなってしまったのだが。
「時間がないとか言ってなかったか?」
そこへ、クリスが楽しそうな顔で歩いてきた。カズキの『
「ああ。ルルの出産が近いんだ」
カズキがそう答えたところで、『リントヴルム最終形態』が再びブレスを放つ。その威力たるや、先程のブレスがそよ風に思える程であった。
「そうか、そりゃあ一大事だ。なら――」
そう言いながら、エルザの結界の外にいたクリスがブレスの矢面に立つ。そして――、
「ここは俺に任せて先に行け!」
そう叫んだと同時に迫りくるブレスに向けて斬撃を放ち、たった一振りでブレスを消滅せしめたのだった。
「さて、これで憂いは無くなったな」
『リントヴルム最終形態』のブレスを一刀両断にしたクリスが、自分以外の人間がいなくなった魔界を見回した。
これからの戦いの経過次第では、魔界その物が崩壊する危険がある。とカズキが脅した結果だ。
「とっくの昔に思い付いていたんだが、なかなか試す機会がなくてな。ああ、安心してくれ。最初は普通に戦うから」
「シャアアアアアア!」
最終形態になるのと同時に、知能も獲得した『リントヴルム』は、クリスの言葉に威嚇で応えた。魔力は小さいのに、先程までいたカズキやエルザのような脅威をクリスから感じた事が、不気味に思えたからである。
「何故かって? お前の皮って、未発見の魔法金属で構成されてるんだろ? カズキがそれを持ち帰ったら、剣を作るときの素材の提供をしてくれるって言うからさ」
「シャアアアアアア!」
それは、カズキが『リントヴルム』を強制進化させるため、『時空魔法』で未来を見た時にわかった事実だった。
その魔法金属は、ミスリルよりも魔力との親和性に優れ、アダマンタイトの数十倍硬いという夢のような金属で、ミスリル、オリハルコン、アダマンタイトの三種類の魔法金属を食べた『リントヴルム』が、10000年以上生きた時、生成されるというもの。
そして今、クリスの目の前にいるのは、そこから更に10000年生き、これ以上はない状態の魔法金属をその身に纏う存在。即ちそれが、『リントヴルム最終形態』の正体だった。
「ま、そういう訳だから。恨みはないが、俺の為に死んでくれ」
身勝手な言葉と同時に、クリスの姿が『リントヴルム』の視界から消える。その瞬間に『時魔法』を発動した『リントヴルム』だったが、クリスの動きを捉えられず、胴体に斬撃を喰らった。だが—―、
「いいね」
狙った胴体に傷一つ付けられなかったにも関わらず、クリスが笑顔を零した。本気を出しても刃が通らなかったのに嬉しそうなのは、将来、『リントヴルム』の皮を使った武器が自分の物になる事と、これから試す技の実験台に『リントヴルム』が相応しいという、二つの理由からだった。
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