獅子に敗北は無し

―――――――


 黄金の獅子は、敗北を知り、敗北から強くなった


―――――――



 その拳は産まれた時から握っていた。



 物心ついた頃には拳を突いていた。



 幼少には自分よりも体躯の大きい相手を倒せる拳を撃てるようになっていた。



 少年になった時にはあらゆる物を砕けるようになっていた。



 青年になった時には遠くにある物が撃てるようになっていた。



 成人した時には地面を割り、空を割くことができるようになっていた。



 誰もが我を拳聖と崇め、唯一無二の存在だと称えていた。



 そんな時、魔王と出会ったのだ。



 

 魔王に最初は善戦していたが、その内押され始め、最後には我が膝をついていた。



 それまで敗北を知らなかった我には、あまりにも衝撃的だった。



 そんな我に手を伸ばし、魔王はこう言った。




「我と共に来い。世界を見せてやろう」




 もし、魔王と出会っていなければ、我は真の拳聖にはなれていなかっただろう。




 ・・・・・・




 10万の大群がディアーロに襲い掛かる。



 ディアーロはゆっくりと拳を構え、襲い来る敵に敢然と立ち向かう。



 『黄金獅子流奥義・千拳散華』



 腰を回転させながら拳を放つ。


 拳は絶対に打ち砕くという概念となって数多の敵を木端微塵にする。


 放った拳の流れを利用し、反対の拳から一撃を放つ。


 そして敵を打ち砕く。


 更に放った拳の流れを利用しまた拳を放つ。



 この動作を僅か0.2秒で繰り返す。


 ディアーロは残像で千に増えたかのように見え、敵は華が散るように粉砕されていく。それがこの技の由来だ。


 たった10秒足らずで千の敵を葬り、迫りくる敵も絶え間なく消し飛ばしていく。

 

 だが敵は新たな個体、全長10mにもなる巨人型の兵器を投下してくる。


(出て来るのは当然か。ならばそれも倒すのみ)


 ディアーロは一度千拳散華を止め。両拳を腰の位置まで下げる。深く息を吸い込み、瞬間、拳を握り直す。



 『黄金獅子流奥義・巨腕双突』



 ディアーロが爆発的な速さと威力で両の拳を撃つ。


 すると、ディアーロの両隣から半透明で輝く巨大な拳が現れる。


 その拳はディアーロの突きを追うようにして真っ直ぐに打ち放たれる。放たれた拳の一撃はディアーロの力を受け、概念として必中となり、全てを砕いてみせた。


 あれだけ空一面無数にいた敵の真ん中に二個の大穴を開けた。


 ディアーロは撃った拳を即座に戻し、今度は少し角度を広げた方向に撃つ。


 敵の大群からは、何度も弾ける音が上がり、さっきよりも数を減らす速度を上げていく。


 さっき出て来た大型の兵器もことごとく砕かれ、何も出来ずに散っていくのだった。


 

 敵もディアーロの危険性を察知して、更に強化した兵器を導入してくる。


 幾重にも装甲を纏い、防御に特化したタイプだ。


「その程度で我が拳を受け止めきれると思うな!!」


 

 『黄金獅子流奥義・合拳ごうけん



 拳同士で合掌するようぶつける。


 概念攻撃により兵器は拳によって挟み撃ちとなり、無惨にも圧壊した。


 それは一機だけではなく、複数の敵に同じ現象が起き、ただの残骸となった兵器達は海へと落下した。


 兵器達は休む間もなく溢れ続け、ディアーロの後ろに回り囲い込む。接近は危険だと学習したのか、近付く気配はない。


 近付かない代わりに、目の様な部分が光り始め、ディアーロに向かって一斉に光線攻撃を放ち始めた。


 赤い閃光は超高熱を帯びながら飛んで行き、四方八方から一直線にディアーロに向かう。


 ディアーロは腕を交差し、一気に壁を叩くようにして空気に拳を叩きつけた。



 『黄金獅子流奥義・無空拳壁』



 拳から大気中に衝撃が伝わり、衝撃が空間を歪め、防壁となった。


 全ての光線は歪んだ空間では威力を失い、消滅する。


 ディアーロは正拳突きの構えを取った。そして、



 『黄金獅子流奥義・猛虎正拳突き』



 突きは爆発の様に周囲に伝わり、数千の敵を一瞬にして葬った。


 しかし、敵は未だに増え続け、その数は100万に近い。


「……もう少しゆっくり相手をしたいが、そろそろ魔王達が来てしまう。終わりにするとしよう」


 ディアーロはゆっくりと天地の構えを取り、深く呼吸する。自身にエネルギーを貯め、気力を高めて拳に込める。


 天地の構えから素早く腰を落とし、拳を引き、捻る様にして拳を放った。




 『黄金獅子流対界奥義・獅子王大正拳』



 

 ディアーロが放った拳は瞬間見えなくなり、黄金の輝きを発生させた。


 輝きは周囲一帯を吞み込んでいき、兵器の大軍団に一瞬で浴び尽くさせる。


 黄金の拳から溢れ出した光を浴びた兵器達は、増していく光に徐々に影を失い、蒸発していく。


 強まる光で姿が見えなくなるようにして兵器達は次々に塵も残さず消失したのだった。



 これがディアーロの最大奥義の一つ、『対界奥義』である。



 例え世界が相手であっても拳で打ち勝つことの境地に達した技であり、概念事象だ。


 ひとたび起これば絶対に逃れらることはできず、その概念を受けなければならない。



 黄金拳聖ディアーロが拳で至った『極地の果て』の一つである。



 光が収まった頃には、周囲にいた兵器の大軍団は何も残っておらず、平穏な海の小波の音だけが響いていた。


 ディアーロは目を閉じ、小さく息を吐いた時に魔王とセラフィムが飛んで来た。


「何だ、もう終わったのか」


 セラフィムが不満げに文句を言う。


「そう言うなセラフィム。ディアーロが先に気付いたのだから、敵をどうするのかはディアーロが決める。当然の権利だ」


 魔王が冗談めかしにセラフィムを宥めた。


 この2名、ディアーロが気付いた事に気付いていたのだ。


 好戦的なディアーロの事だから、必ず気の済むまで戦うだろうと踏んでギリギリまで放置していた。しかしサクラに急かされ、渋々ここまで来たのだった。


 当然、ディアーロもその事に気付いており、フッと微笑む。


「そうだな。生殺与奪は一番早く見つけた我が決める権利である。セラフィムにどうこう言われる筋合いは無いな」

「嫌味か貴様。……まあ映像や観測はできているから良しとするか」


 セラフィムは遠距離からディアーロの戦闘を観察し、観測記録していた。こういうところはちゃっかりしている。


「では私はこのデータを元に敵の場所を割り出す。おそらく別のエネルギーで別の次元位相に逃げているからな、少々手間だぞ」

「元より安易に行かないと分かっている。頼むぞ」

「任された」


 セラフィムは【転移】で天上領へと戻って行った。


 魔王は残ったディアーロに視線を向ける。


「ご苦労だった。盛大には労えんが、代わりに茶をご馳走しよう」

「ありがたき幸せ」


 魔王とディアーロは空へと舞い上がり、魔王城へと戻って行くのだった。


 



―――――――


お読みいただきありがとうございました。


次回は『次元超越』

お楽しみに。


もし気に入って頂けたなら、☆☆☆からの評価、♡の応援、感想、レビュー、ブックマーク登録をよろしくお願い致します。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る