黄金獅子流
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黄金の獅子、絶対の拳
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アズラエル達の報告があった翌日
魔王城では魔王、ディアーロ、セラフィムの三名が顔を合わせていた。
「なるほど。話は分かった。未知のエネルギーの解析、大いに興味がある」
セラフィムは不敵な笑みを浮かべながら話を聞く。隣にいるディアーロは目を閉じ、黙って聞いていた。
「現在魔王城の者達で解析を進めている。おかげで観測できるまでにはなった」
魔王はセラフィムに資料を渡す。セラフィムは分厚い資料を流し読みで読む。
セラフィムは記憶力が良く、一度見た物をしっかりと記憶できる。それを理解できる程の学も持ち合わせているのだ。
一通り見終わったセラフィムは資料を魔王に返す。
「よく分かった。これなら天上領にある器材を使えば進捗状況が改善できる。すぐにでも持って来させよう」
「そうか。ならば明日中に持って来るよう手配しろ。あまり時間に余裕は無さそうだからな」
「ああ、善処しよう」
「…………あの、よろしいでしょうか?」
魔王達が真剣に話し合っている最中に、サクラが意見する。
「何だサクラ? 今大事な会議中だぞ」
「はい、分かっております。ですが……」
サクラはワナワナと魔王達に指を差す。
「大事な会議は、コタツなんかではしません!!」
そう、魔王達はコタツ(緑茶と茶菓子のヨーカン付き)に入って会議をしていたのだ。魔王のサイズに合わせてはあるが、翼で丁度いい感じに詰まっていた。
セラフィムは緑茶をすすり、一服してからサクラに視線を向ける。
「この時期の地上は寒い。具合を悪くしたらどうする?」
「た、確かに天上領はずっと高温ですから、地上と比べたら寒いでしょう……。だからといって、何もコタツに入る必要は無いかと……」
サクラは半分呆れながら指摘する。
「別に、しっかりと万全な態勢で会議が出来ればどんな場所でも問題無いだろう。何が不満なんだ?」
セラフィムは反論してヨーカンを頬張る。
「むしろ堅苦しい上に環境の悪い会議室で話し合う意味が分からん。何をするにしても最高のコンディションで臨めるようにすべきなのだ。分かるか?」
「うう……、前にもこんな会話をした気が……」
セラフィムのマウントが始まりそうだったので、魔王が割って入る。
「話はまとまった。早々に連絡をせよ、セラフィム」
「…………分かっているさ」
そう言ってセラフィムは【念話】を始める。
不意に、隣にいたディアーロが目を開ける。まだ熱い緑茶を飲み、ヨーカンを食べる。あっという間に全て食し、
「ご馳走様。少しばかり席を外す」
コタツから立ち上がり、その場から立ち去ってしまった。その背中を見るセラフィム。
「何なのだアイツは。大事な会議中ずっと黙り込んで」
「ディアーロなりに考えて聞いていたのだろう。あまり責めるな。あと、喋れるのなら次の件だが……」
不満そうなセラフィムを宥めつつ、新たな議題に入るのだった。
・・・・・・
魔都から少し離れた海域に、ディアーロは着水した。
着水、と言っても、水面の上に立っているのだ。ディアーロ程になると、感覚だけで水面の上に立っていられるのである。
目を閉じ、静かにその時を待つ。
海風を浴びながら、しばらくして、
「……来たか」
ゆっくりと目を開け、空を見上げる。
見上げた先に、空にゆっくりと禍々しい穴が開き始めたのだ。
中はドロドロとした状態で見える事は無く、状況を確認することができない。
その中から、産まれ落ちるようにして手が落ちて来た。
手から腕、腕から上半身と徐々に姿を現し、その全貌が明らかになる。
二足歩行型の機械の様な兵器だ。
大きさは6m前後、全身に目玉の様な意匠を身に纏い、ギチギチと奇怪な音を上げながら宙に浮いていた。
ギリギリと音を上げながらディアーロの方を向く。生物なら無理な態勢で全身を捻じりながらディアーロに近付く。
ディアーロは足を肩幅まで広げ、一方の手を上に、もう一方の手を下に配置する『天地の構え』を取る。
「来い」
短い言葉に反応し、兵器はディアーロに襲い掛かる。
ディアーロは襲い掛かって来たタイミングに合わせて、下段からの突きを放つ。
水面の上で足に力が入らないにも関わらず、踏み込みがしっかりと水面に均等に力を伝播させながら拳が兵器に直撃する。
ドオン!! という爆発にも近い轟音が周囲に響き渡り、一瞬光に包まれた様な錯覚に襲われた後、兵器は一撃で木端微塵になってしまった。
兵器の全身に隈なく力が伝わったため、貫いたというよりも、破裂したように吹き飛んだ。数㎝も無い残骸達は綺麗に空を舞い、海の藻屑となった。
あまりにも呆気なく散った兵器にディアーロは残念そうな顔をしていた。
「…………弱い」
あれだけ仰々しい登場をしておいてこんなにも弱いと、失望ものである。
「力を感じ取ったから来たというのに、とんだ無駄足ではないか」
ディアーロは武を極める過程で、感覚で特定の物質、気配を感じ取れるようになった。
今回のハイネス因子も近くで感じ取り、それと同じ気配を他所でも感じ取ってみせたのだ。
今、こうやって敵の出現位置に先回りできた理由がそれだ。
ディアーロは開いている穴に近付く。
(これで打ち止めな訳が無い。……もう少し楽しめなければ何の面白みも無いぞ……?)
拳を何度も握ったり離したりを繰り返し、戦闘準備を整える。
それに答えるように、さっきと同じ二足歩行型兵器が何十体も落ちて来た。
更に、他の個体とは明らかに型が違う兵器も現れた。
人型ではあるが、胸の部分に何やら宝玉みたいな物を3つも埋め込んでいる。
全機、ディアーロに狙いを定め、一斉に襲い掛かる。
ディアーロは敵が手に持っている武器、剣や斧を見て、格闘戦に持ち込もうとしているのが一目で分かった。
「甘い」
『黄金獅子流奥義・流水球圏』
ディアーロが滑らかに手を動かし、その場に動かずして敵の攻撃全てを受け流して見せた。
流水球圏は、自身の行動範囲を球状にまとめ、その範囲に入った攻撃を全て受け流すという技だ。ディアーロなら範囲に入って来た攻撃は目を瞑っていても流せる。
躱された兵器達は崩された態勢を立て直すために一瞬動きが止まる。
その隙をついてディアーロの拳が放たれる。
『黄金獅子流奥義・正拳突き』
たった一撃。
その一撃で全ての兵器に数十発の拳が叩き込まれる。
叩き込まれた瞬間、衝撃波が先に伝わり、その衝撃で全てが砕け、吹き飛んだ。
またしても藻屑と化した兵器達に目もくれず、ディアーロは次々と湧いて出て来る兵器達に視線を向ける。
「来い。全てこの拳で砕いてみせよう」
敵の数は10万。それでもディアーロに敗北は見えない。
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お読みいただきありがとうございました。
次回は『獅子に敗北は無し』
お楽しみに。
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