魔王達

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第一陣、アズラエル


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「第一陣は我、というわけか」


 小さくぼやいていたのは、七つの冠の一柱『魔后・アズラエル』だ。


 真夜中の上空から地を見下ろし、自身が今まで調査してきた遺跡から多数の亡者達が這い出ている。おそらく歴代の魔王達だろう。現場のスタッフ達は真夜中だったため、誰もおらず、被害は0だ。


(実力は……、今の魔王よりは確実に下。我自身とは魔力量だけ言えば同等か)


 【ステータスチェック】で実力を確認して、数値的に言えばアズラエルと同等だった。しかし知能の方がまるでなっていない。これでは宝の持ち腐れである。


(魔王が言っていたのはこの事だったのだな。まるで意思の無いスケルトンと何も変わらぬではないか)


 アズラエルはあまりにもおざなりな死者蘇生に心の中だけで文句を言い続けた。これ以上愚痴を漏らしても仕方ないので、溜息を零しながら普段使わない翼を広げた。


 翼は蝙蝠の様な形をしており、青色を基調としている。その翼に魔法陣が展開される。魔法陣に魔力が溜まり、あまりの魔力量に魔力の電流が周囲に撒き散らされる。


 

 アズラエルは基本魔術や魔法を使わなくても魔力量だけで周辺に現象を起こす事ができる。


 その彼女が唱える魔術は、法則を捻じ曲げ、全てに干渉し、『否定』する物だ。


 故に、形成されたそれは本来視認出来ず、世界が補填のために生み出した暗黒の塊が誕生する。


 その術の名は、




 【拒絶術式】【黒鎧】




 【拒絶術式】。アズラエルだけが持つ固有術式であり、魔導にもスキルにも属さない代物だ。


 【黒鎧】は球状の【拒絶術式】が対象に向かって高速で飛んで行く。


 直撃した亡者は、細胞の芯まで崩壊し、【黒鎧】に呑まれて消滅していった。


 一度に20射出された【黒鎧】は次々に亡者達を消滅させ、片付けていく。その中で、


「……当たっても意に介さずな奴がおるのお……」


 術式を耐え、未だに動いているのが数体いた。アズラエルは仕方なく地上に降り、直接対決を試みる。残っていたのは、髭面で巨躯な如何にもな風貌の者、頭が3つある者、巨大な角を誇示し筋骨隆々な肉体を持つ者、引き抜くのに苦労していた剣を片手で扱っている鎧姿の者達だった。


 アズラエルは思わず舌打ちした。


「その剣、本人以外では抜けずらい使用だったのか。それなら抜けぬ筈だ」


 今までの苦労は何だったのかと本気で考えさせられる状況に悪態をつく。


 直後、髭面の者が咄嗟に手をかざし、何も言わずに炎の魔法を発射してきた。一瞬でアズラエルを炎で包み、周辺の地面はあまりの高温で溶け始めていた。放出を終えた時には、真っ赤に燃える様に赤々と明るくなり、昼間よりも明るい位燃えている。


 倒したと確信した髭面の者はニヤリと笑う。


 しかし、炎が突然消え、アズラエルが無傷で立っていた。


「多少はやるようじゃが。熱いだけで何も効かんぞ」


 ヒラヒラと顔を手で仰ぎ、余裕を見せつける。


 髭面の者はまるで効いていないことに驚き、数歩後退した。アズラエルはそれを見て、すかさず手を向けた。



 【拒絶術式】【無穴】



 アズラエルの術式で、髭面の者の全身を穴だらけにする。


 穴だらけになったせいで身体を維持できなくなり、その場で崩れ落ちた。


 横で見ていた三頭の者が魔法陣を展開する。更に、大角の者も角の間に魔力の球を作り出した。


 数秒で巨大な形となり、アズラエルに向けて発射する。三頭の者はそれぞれ種類の異なる魔法を吐き出し、大角の者は地面を抉りながら前進する強力な魔力弾が飛んで行く。


 アズラエルは手を薙ぐ様にして、振る。



 【拒絶術式】【捨断】



 目の前に黒い壁が出現し、攻撃を防いだ。否、吞み込んで見せた。


 徐々に壁に埋まっていき、貫通することも音を立てることも無く、消滅した。


 それを見て2名が怯んでいるのをアズラエルは見逃さなかった。もう片方の手を向け、パチン、と指を鳴らした。



 【拒絶術式】【圧壊】



 刹那、上下から『否定』の力が押し潰してくる。


 三頭の者と大角の者は数秒耐えたが、すぐに影も形も残らず潰れて消えてしまった。音もたてずに消えて無くなり、辺りに血肉を撒いただけで終わった。


 アズラエルは大した事無いと残念そうに鼻息を漏らした。


(そういえば、もう一体いたはずだが……)


 視界から消えてしまった残りの一体を【探索】で周囲を探すと、アズラエルの背後にいるのが分かった。


 すぐに視線を向け、その姿を確認する。剣を下段に構え、斬り捨てようと斬りこむ寸前だった。


 アズラエルは手を出し、先制しようと動く。だが、それよりも先に斬撃が飛んで来た。


 アズラエルの魔力の厚みが鎧となり、腹に向かって斬りかかる剣を減速させる。


 それでも十分に速く、直撃は不可避だ。


 アズラエルは致し方無し、と割り切り、致命傷にならない肋骨付近に当たるよう調整した。調整が上手くいき、肋骨と肺が切り裂かれた。


 切れ味が良過ぎたのが功を奏した。肋骨と肺は見事にせん断され、中途半端に砕けることも潰れることも無く、ただただ斬れて出血した。


「こほ……」


 強烈な痛みとそれなりの出血が起き、つい声が出てしまったが、そこまで慌てるほどではない。


 アズラエルにはスキル『自然治癒』があり、この程度ならすぐに治ってしまう。


(特に毒も阻害も無いようじゃし、数十秒で治るじゃろ)


 ここまで僅か3秒。


 鎧の者は斬り返しでもう一撃入れようとしてくる。アズラエルはそんな事は許さず、すぐさま跳躍して敵の攻撃範囲から華麗に離脱した。


 着地したアズラエルはすぐさま【無穴】を発動する。だが、鎧の者は高速で動き、攻撃を躱した。続けて【圧壊】で潰すが、若干速さが落ちただけでまだ動き回っている。


 アズラエルは舌打ちをして、


「しぶとい」


 悪態をつくと同時に、手を鎧の者に向かって振り上げた。



 【拒絶術式】【幽世】



 風景ごと鎧の者の体が真っ二つになる。


 地面が割れ、雲が裂け、空気がずれた。常人が見れば死んだと思うだろう。


「…………ダメか」


 それでも鎧の者は死なない。ずれた体が元に戻り、何事もなかったかのように襲い掛かる。


 1秒の間に何十回の斬撃が押し寄せるが、『見切り』、『加速』で全て躱していく。周囲にある基地や機材が一撃で破壊されていった。


(これ以上は直すのが面倒じゃな……。仕方あるまい)


 アズラエルは再び大きく後退し、鎧の者から距離を取る。更に【捨断】の壁をいくつも作った。鎧の者は剣で【捨断】を切り裂き、確実に前進してくる。


「実践では初めてじゃが、やってみるかの」


 アズラエルの周囲に魔力が集まり、アズラエルを中心に魔力の渦が出来上がる。自身からも魔力を放出し、あっという間に黒い竜巻に変貌した。


 呼吸を整え、新たな術を解放する。


「〈領域〉、侵略」


 アズラエルを起点に、新たな『世界』が周囲を侵略した。





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お読みいただきありがとうございました。


次回は『絶対魔后侵略領』

お楽しみに


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