魔王VS歴代十二魔将達
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その姿、その思い、故に思う
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山から下りてくる群れは生気の無い亡者の塊、奇怪な音を上げながら一歩一歩と前進し続ける。
その正体は埋葬されたはずの歴代十二魔将達。その数、100名になる。
山小屋にいる登山客達と管理者は身を小さくして見つからないようにしていた。正面から立ち向かって対抗できる相手では無いからだ。
息を殺し、外から見えない様物陰に隠れる。
(まさか、噂が本当だったとは……!)
最近になって山頂に十二魔将達の亡霊が出るという噂が立っていた。疲れた登山客の見間違いだと思っていたが、本当に現れるとは想像もしていなかった。
(頼むからこっちに来ないでくれよ……!!)
管理者は心の中で静かに願いながら去るのを待つ。登山客達も必死に身を潜め続ける。
山小屋の隣を亡者達が通過する。不気味で不揃いな足音を響かせながら行進を続け、徐々に近付いて来る。
しばらくして、足音が聞こえなくなり、管理者はゆっくりと窓から外を覗く。外には行進していく亡者たちの後ろ姿だけが見えていた。
「…………ふう、危なかったぜ……」
管理者が安堵の息を漏らす。
次の瞬間、爆音が山小屋を襲った。
衝撃と音で小屋全体が震え、地震の様な揺れが起きる。
管理者と登山客達はあまりの振動に耐え切れず、床を転がった。
「ななな何だ?!」
「何が起きた!?」
慌てて外を見ると、向こうの方で煙が上がり、金属同士がぶつかる音が聞こえる。戦闘だ。
「一体、何が起きてるんだ……?」
・・・・・・
十二魔将達の亡者達が山小屋を通過して数分
亡者たちは突然足を止めた。空を見上げて武器を構えだす。
直後、上空から凄まじい速さで何かが落下してきた。
地面に着地した衝撃で、周囲に空気が震えるほどの衝撃と地面を揺らす振動が発生した。着地地点には大きな陥没が出来ていた。
そして、着地したモノはゆっくりと立ち上がり亡者達の前に立ち塞がる。
その正体は、魔王だ。
マントを翻し、その手に武器を取る。手に取った武器は大剣、巨大生物の牙と骨を混ぜ合わせた様なデザインで、研がれた片刃はあらゆる物を斬る意志を持っているかのように見える。
魔王は大剣を片手で振り、亡者達の前に突き付ける。
「死した我が同胞よ、ここを通りたくば、我を殺してみせろ」
放たれる重圧、吹き出る黒い魔力、明確な殺意は、何も訓練を受けていない者が受ければ意識なぞ保っていられないだろう。
しかし、亡者達は一切構わず突撃してくる。
魔王は小さく歯噛みし、大剣を握る力を強める。
「そうか、我が分からぬか。ならば」
大剣を両手で持ち、大きく振り上げる。
振り上げただけで周囲に雷が発生し、空気が震え、歪み始める。
そして、
「死して後悔せよ」
大剣を振り下ろした。
振り下ろされた一撃は突撃してきた十二魔将達を飲み込み、猛獣が骨を噛み砕くが如く圧殺していく。
それは地面、森、光景すらも巻き込み潰し、木端微塵に破壊しつくしていく。
現象が終わった時には、超巨大な猛獣が乱暴に噛み砕いた後の様な状態だった。巻き込まれたモノは全て乱雑に砕かれ、あちらこちらに散乱していた。
魔王は大剣を持ち上げ、周囲を見渡して亡者の正体を知る。
「…………機械仕掛けの死体か」
亡者の中身は、異世界人が使っていた機械によく似たパーツで組み上げられていた。血もなければ肉も無い、ただの機械人形だったのだ。
魔王はゆっくりと息を吐き、
「我を覚えていなくて当然か。模倣された機械人形に記憶があるはずがない」
少しだけ笑い、感情が急激に冷める。
「だが、我の逆鱗に触れるには十分過ぎた。一つ残らず粉砕してくれる……!!」
八つの眼を見開き、機械仕掛けの亡者達に突進する。
大剣を薙ぎ払い、また多くの亡者達を粉砕していく。
魔王が見て来た顔を破壊するのは、例え魔王でも気分のいい物では無い。その一名一名に、出会いがあり、思い出があり、別れがあった。そんな彼らを己の手で殺めているのだから、どんな感情なのかは想像に難しくない。
今この状況は、魔王と歴代十二魔将達の思い出を踏みにじらせているということだ。
一体、また一体と次々破壊していく。
「『鋼鉄の盾壁』『連槍』『蝗害将』『大伐採』…………。本当によく出来ている点に関しては称賛を送るが、それ以外はまるでなっていない」
過去の十二魔将の姿や武器は本物と見間違うくらい良く出来てるが、戦闘力はまるで無い。魔王から言わせれば木偶人形そのものだ。たった一撃すら耐えられない程脆く、反応も遅い。
全体の半分まで減らし、残りを片付けようとした時だった。
一瞬で距離を詰め、斬撃を入れてくる存在が現れたのだ。
魔王は大剣で受け止め、その姿を目に止める。
「ほう、『螺旋槍師』イスか。確かに速い、が」
剣で振り払った直後の斬り返しで両断した。視認できない速さだったため、反応できなかったのだ。
(やはり遅い。だが、何故今になって本格的な反撃を……)
魔王はもう一度亡者達を見渡す。
そして、亡者達の視線が魔王に集中しているのに気付いた。
(……なるほど、個であるように見えて全であったか)
中身が機械の時点で予想は付いていたが、これで確信に変わった。
亡者達は見ている物を共有し、情報を集め、研究しているのだ。行動を観察分析し、弱点を探っているのだろう。
今まで積極的に攻撃してこなかったのは観察を優先していたからだろう。
(故に、余計に腹立たしい)
まるで捨て駒の様に旧友達を使われたことが、魔王の感情を逆なでした。
模倣とは言え、個々が強者であった十二魔将達をこんな風に使われたことが許せなかった。
「情けはここまでだ。次の一撃で終わらせてくれる」
魔王は勢いよく空へ舞い上がり、残りの亡者達を一望できる高さまで上る。空いている手を掲げ、魔法陣を展開する。魔王の身体より巨大な魔法は、強力な魔法が放たれる前兆だというのが分かる。
(近隣の住民と動物の避難は完了したか。これで心置きなく撃てるというものだ)
魔法陣から巨大な火球が現れる。あまりの熱量に遠く離れた森の木々が燃え始める。何度か不自然に膨張と伸縮を繰り返し、魔王の掌サイズまでになる。それは太陽よりも眩しく輝き、全てを焼き尽くすエネルギーを誇示していた。
魔王は火球を放つ様にして構え、狙いを定める。
「今一度眠るがいい、我が友よ。これは手向けである」
【
放たれた火球は、亡者達に到達する寸前で炸裂した。
火球は一瞬で爆発となり、膨大な光と熱の爆心地へと一変した。
塵一つ残らない一撃は周囲の森、地面、山肌を巻き込み、全てを焼き尽くした。
亡者達はほんの少し耐えたが、すぐに燃えカスとなって消えて行った。
巨大なキノコ雲を起こしながら、まだ肉体を簡単に焼く熱量を撒き散らすのだった。
・・・・・・
数時間後
全てが焼き尽くされ、灰と焦土しかなくなった場所へ降り立った。亡者が残っていないか確認し、1体だけ形が残っているのを見つけた。
「……そうか、お前が残ったか」
そこにいたのは、『結界公女』マーブルの姿を模った亡者だった。
「マーブルは歴代の十二魔将の中で随一の防御魔術を持つ存在だった。……偶然とは言え、残るべくして残ったというべきか」
亡者は風に乗って崩れ、跡形もなく消えて行った。
(この姿は、サクラには見せられないな)
マーブルは当時サクラの世話もしてくれた。サクラにとって母親代わりの存在だった。マーブルが死んだ時は誰よりもサクラが泣いて悲しんでいた。
全ていなくなった亡者達の跡に、魔王は胸に手を当て、哀悼の意を示した。安らかに眠れるように、と。
ゆっくりと顔を上げ、
「久し振りだぞ、ここまで侮辱されたのは……。覚悟して待っていろ。機械仕掛けの神」
怒りの感情を露にし、打倒を決意した。
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お読みいただきありがとうございました。
次回は『七つの冠、始動』
お楽しみに。
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