4人目 ガイア・ヤマダ Ⅱ
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少年は現実を知って
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天上領 アルバノ
ディアーロは草原でティータイムを楽しんでいた。
小さなテーブルと椅子を草原の真ん中に置き、黄金のティーポットとティーカップで優雅に過ごしている。
その目の前で、ガイアが1人魔物の群れと戦っていた。相手は上級魔獣『スライスマンティス』、体長3mあるカマキリだ。
高速で攻撃を躱し、高速で攻撃を仕掛けるヒット&アウェイ戦法を取り、例え頭だけになっても死ぬ数十秒まで襲い掛かり、何より両腕の鎌で切られれば人間の体なぞ一撃で真っ二つになる。
一匹だけなら大した魔獣ではないが、200以上の群れとなったら話は別だ。
「ぎいいいいいやあああああああああああ!!!??」
ガイアは猛スピードで逃げるが、スライスマンティスはすぐに追いつく。
「くんなあああああ!!」
咄嗟にパンチを放つが容易に躱してしまう。スライスマンティスは躱した直後に鎌を突き出してくる。ガイアも上体を逸らして躱すが、躱した所に反対方向から攻撃される。躱そうにも目の前の鎌に遮られ、しゃがむ以外の回避方法が無かった。
その結果大幅に減速し、後方から来ていた群れに一斉攻撃されるのだった。
ガイア、本日5度目の死亡。
・・・・・
「……はっ!?!」
目が覚めるとディアーロの横に倒れていた。
慌てて起き上がり、身体の状態を触って確認する。死ぬ直前身体が細切れにされたはずだが、傷一つ無い。
「我が治しておいた。2分休憩したら再開だ」
「も、もう勘弁して下さい……!!」
来た頃にあった純粋で強気な姿勢は完全に無くなっていた。今では弱気丸出しのへっぽこ少年だ。
「世界最強になりたくばこの程度で喚くな。まだ序の口にも立っていないぞ」
「そんな無茶苦茶な……」
ガイアはここに来てからディアーロの下、修業の日々を送っていた。
最初の数日はディアーロに挑戦したがまるで歯が立たず1000回は死んだ。死ぬ度に【蘇生】させられ殺されるを繰り返し反抗心が折れて塵芥になった。
それからディアーロの指示に従い修業に励んでいた。しかしその内容は地獄よりも恐ろしく、上級の群れや超級、災害級を単身で討伐して来いという内容だった。修業開始から7日経過した今日まで3000回死んだ。
故に、ここまで弱気な状態になってしまったのだ。
ガイアがウジウジしているので、ディアーロはガイアをつまみ上げた。
「えっと、師匠。これは一体……?」
「今から山へ投げる。今日の夕餉まで帰って来なければ100回組み手だ」
「ちょ、ま
全部言い切る前に山へ投げられ、山頂付近(標高1000m弱)に激突した。これくらいで死なないのは分かっているので心配などせずティータイムに戻る。
「…………」
優雅に楽しんでいると、目の前にスライスマンティスの群れが来ていた。さっきガイアを食い殺した群れとは別の群れだ。その数500。
「ほう、向かってくるか。この我に」
ティーカップを置き、ゆっくりと立ち上がる。スライスマンティスは動いたことに反応して一斉に突撃を開始する。
「その勇姿を称え、この一撃を与えよう」
足を肩幅より大きく前後に開き、左手をかざすように前に出し、右手を腰の位置まで引く。呼吸を整え、ゆっくりと息を吐き出す。
残り数mまで迫る中、ディアーロはたった一回の正拳突きを空に撃つ。
『黄金獅子流奥義・猛虎正拳突き』
拳が空を撃った瞬間、スライスマンティスの群れは一斉に吹き飛んだ。
見えない攻撃がされた訳でも無く、目にも止まらぬ連撃が撃たれた訳でも無く、強力な衝撃が放たれた訳でも無い。
ディアーロの正拳突きにより、スライスマンティス達に『吹き飛んだ』という『事象』が起きたのだ。
これがディアーロの『黄金獅子流』。スキルでも魔導でもない『概念武術』である。
天性の武才に研鑽を重ねた結果、ディアーロの武術は当たらずとも直撃したという事象が起こるようになった。それは複数の相手に同時に作用できるため、存在を把握できていれば世界の果てにいようとも攻撃を当てられる。『七つの冠』として申し分ない力の一つだ。
衝撃により、スライスマンティスは森へ返され一匹残らず草原からいなくなった。
ディアーロは再び椅子に座り、ティータイムを楽しむ。
・・・・・
数時間後
日は暮れ、夕飯の準備を完了したディアーロはガイアの帰りを待っていた。
家の扉が叩かれ、ガイアがボロボロの血塗れで帰って来た。
「た、ただいま戻りました……」
「遅刻だ。夕餉を終えたら100回組み手だ」
ガイアはその場で白目をむいて気絶した。
・・・・・
100人組み手を終え、ガイアが外の小屋で寝た頃にディアーロは魔王と連絡を取っていた。
「こちらは順調だ。懸念することは無い」
『世話をかける』
「気にするな。お主と我の仲だ」
ガイアは言っても理解できない節があると踏み、身体で分からせることにしたのだ。十二魔将よりも強かったため、ディアーロに任せることにした。
「天上領の光に耐えられる人が来るのは久し振りだった。おかげで退屈せずに済む」
『そう言ってもらえると助かる』
ディアーロは背もたれに寄りかかる。
「…………その内手に負えなくなるぞ?」
『七つの冠』が監視下に置かなければ持て余す存在が溢れれば、いずれ飽和状態に陥り崩壊する。そうなれば魔族領は破滅するだろう。
『だろうな』
魔王は即答した。
「何か策があるのか?」
『今は言えん。次の『魔族武闘会』で教えてやろう』
「魔族武闘会、もうそんな時期か」
『お前にも出席してもらうぞ。戦えるかどうかは別だがな』
「構わん。たまには外の空気を吸わねばな」
椅子から立ち、窓から夜空を見上げる。
「(しかし、この胸騒ぎ。何を予見している……?)」
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お読みいただきありがとうございました。
次回は『5逾樒岼縲 ?繝?え繧ケ縲?繧ィ繧ッ繧ケ縲?繝槭く繝』
お楽しみに。
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