交渉という名の一方的な取り決め

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交渉という名のパワーゲーム


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 スラーパァは交渉という名の要求により、詳しく事情を聴かれる羽目になった。


 彼女は魔王の前で正座させられていた。


「で、何故この世界に転移転生者を入れる必要がある?」


 スラーパァは恐る恐る答える。


「えっとですね、世界の崩壊の一つとして、一つの種族の過剰な魂量の増加があります。魂は死んでも長い年月残る為ドンドン溜まっていき、それが限界を超えると天変地異が起こり世界が崩壊し始めるのです。なので定期的に異世界に飛ばして調整しているのです」


「それで受け入れて欲しいと?」


「はいそうです」


 完全に委縮してプルプル震えている。言葉遣いも丁寧になっている。それほどまでにクラウソラスの一撃が恐ろしかったのだ。


「こちらの世界では人類が少ないので受け入れて貰えると大変ありがたいのです。他の種族も良い感じでバランスが取れていますので世界崩壊の原因になりにくいのです」


「魂量と言ったな、何故総量ではない?」


「えっと、それはまだ解明できていなくてですね……」


 口ごもるスラーパァを『真偽眼』で覗くが、嘘をついている様子はない。


「……そうか。ならば分かり次第報告しろ」


「はい……」


「で、予定では何人この世界に転移転生させるつもりだったのだ?」


「えっと、……1000人です」


 魔王の表情が明らかに嫌悪感を現していた。


「…………月1人のペースなら許可する」


「分かりました……」


「あと、どのような人物なのかも報告せよ。与えたスキルや能力も事細かくだ」


 後半の言葉にスラーパァは驚いていた。


「え? 与えてもいいんですか?」


「戦力増強や発展に役立てるためだ。我に勝てそうだと思う能力を持たせても構わんが、意図的に我や我の民に危害を加えようものなら、分かっているな?」


 魔王の言葉に無言で首を縦に振りまくる。


「転移転生する場所はその都度相談で決める。他の神族がこの世界に干渉しようとするならすぐに教えろ。いいな?」


「はい……」


「次だ。こちらの人族が異世界から転移転生させる行為は止められないのか?」


「形式が全く違いますし、気付いた時には完了してるので対策は無理ですよ」


「(……嘘では無い、か)」


 『真偽眼』で逐一確認し、事実確認をしていく。


「お前が呼んだ転移転生者が異世界召喚をする可能性がある。こちらに呼ぶ前に異世界召喚は絶対しないよう言い聞かせろ。した場合は即刻処刑だ」


「分かりました……」


 要求内容を次々提示しては認めさせる。まるで単純作業の様に交渉は進んだ。


「さて、ここまではあくまでお前の要求を決めてやったわけだが、ここから先はお前が我に何を提供できるかを話し合おうか?」


「え」


 スラーパァは素っ頓狂な声を出してしまう。


「誰がさっきの条件で成立などと言った? さっきまでのは我が唯一異世界からの転移転生を認める条件を決めたまでにすぎない。何の利益も無いのに応じると思うか?」


「うぐ、確かに」


 苦い表情で魔王の言葉に納得してしまう。


「で、お前が我に提供できる利益はなんだ?」


「え、えーと……」


 何の準備もしていなかったスラーパァは答えに困っていた。


「じゃあ、スキル作成の能力とかは?」


「欲しいスキルは既に手に入れている。不要だ」


「なら魔導系の」


「それもある。不要」


「それなら神族への昇華……」


「我は魔王だ。神になぞ興味は無い。不要」


 提案するものをことごとく却下され、他に何を差し出せるか頭を悩ませる。一生懸命考えるが中々いい案が出てこない。


「…………」


 魔王は無言の圧力でスラーパァに迫る。


「じゃあじゃあ! 『権能』はどうですか?!」


「権能。さっき言っていた能力か」


 魔王が食い付いたのを機に、一気に畳みかける。


「そうです! 権能があれば世界のルールを書き換えることができます! 条件として『矛盾が発生しない事』、『相応の魔力消費』をクリアするだけでいいんです!!」


「…………」


 魔王は少し考える。この権能の能力はメリットが大きいのはいいが、その分のデメリットがある可能性もある。


「世界崩壊の可能性は?」


「私達神族が使うと世界崩壊の危険性があるのですが、そうでない者が使えばその危険性が無いです。おそらく世界線外の神族と世界線内の種族では干渉形態が違うので影響に差があると言われています」


「世界で生まれた者と世界の外で生まれた者の隔たりか。とりあえず納得しておこう」


「あと、神族以外の権能は最大で5級神族程度という制限があります。本来神族だけが使える物なのでそれ以外の者では順応できないせいだと考えられてます」


「多少の制限、というよりは限界か。よく分かった」


 魔王はスラーパァの視線と高さを合わせる。


「それを我が貰えるのだな?」


「は、はいそうです」


「うっかり神族なぞにしないだろうな?」


「しませんしません!!」


 首を全力で左右に振りまくる。


「いいだろう。約束だ」


「ありがとうございます!」


 スラーパァは地面である雲に頭を付ける位下げた。いわゆる土下座だ。


「では追加で他の異世界に行けるようにしてもらおうか」


 唐突な魔王の提案にスラーパァは目を丸くした。


「え、それは」


「漂流者を異世界へ返すにはどうしても特定の異世界への時間軸、事象軸、認識軸、存在軸の座標観測が必要でな。我のいる世界ではそれが非常に難しい。だが神族であるお前達はそれができる。つまり神族のいる仮の世界空間を利用し他の異世界を正確に座標観測が必要になるのだ。神族で無ければ影響が無いのだから好都合。これで漂流者を返せる」


「ちょ、ちょっと待ってよ?! さっきの条件で……!」


「何を言う。これくらい追加してもらわねば割に合わない。安心しろ。そちらから危害を加えなければこちらからも何もせん」


「で、でも」


「もし嫌ならそれでも構わん。その代わり、他に話の通じる神族に死んで代わってもらうことになるがな」


 手に持っているクラウソラスをゆっくりとスラーパァへ向ける。


「わ、分かりました! その条件で結構です!!」


「……約束するな?」


「はい! します!」


 完全に怯え切った表情で震え上がっていた。


「……いいだろう。大体固まったが、細かい所は改めて誓約書に書いて持ってくる。それまで勝手な事はするな」


「はい……」


 すっかり意気消沈したスラーパァはがっくりと肩を落としていた。


「さて、そろそろ起床する時間のはずだ」


「何で起きる時間分かるの?!」


「この領域は掌握したからな、構造は完全に理解している。ここは夢の延長に当たる精神世界。実体の無い不安定な世界が故にあらゆる事象を引き起こせる。中々できた世界だったぞ」


「ま、マジか……」


 更に魂が抜けた状態になり、真っ白になっていた。


「だから嫌だったんだよお~、こんな規格外な怪物のいる世界の担当なんてえ~。あ~普段から怠けてないでちゃんとしておけば良かったあ~……」


 半泣きで愚痴を言い始め、完全に折れてしまった。


「ではまた来る」


「もう来ないで……」



 ・・・・・



 魔王が目を覚ますと、いつもの寝室だった。


 上体を起こし、周囲を見渡す。現実かどうか再度確認し問題無いことを確かめる。


「(転移転生者達が来る前に、解決せねばならない事がある。まずはそこからだ)」

 

 


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お読みいただきありがとうございました。


次回は『孤独戦艦の涙』

お楽しみに。


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