大天使長・セラフィム
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第6の魔境、天の光差す天上の国
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天上領
そこは天使族が住まう天の国。
天の光に最も近く、恩恵をどの種族よりも受け続けている最高位の種族だけが存在を許される場所。
魔族領より遥かに発展した技術と圧倒的な力を持っている。
だがそれも1700年前の話だ。
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天上領 エデン
天使族が暮らすただ一つの大きな街で、全ての機能がここに集約されている。
独創的な外見の建物が立ち並び、高い位置に扉があるなど翼を持つ種族特有の構造をしている。
普段は多くの天使族が行き来しているが、今日は様子が違う。誰も外出しておらず不気味なほどに静まり返っていた。
その原因は、魔王だ。
魔王、サクラ、ディアーロはエデンの中を歩いていた。
「大丈夫か、サクラ?」
「魔王様の加護のおかげで問題ありません」
天上領は天の光に近すぎて焼ける様な魔素が降り注いでいる。耐性の無い者が来れば一瞬で丸焦げだ。
ディアーロは全自動買物店でさっさと買い物を済ませてしまう。買った物は全て『収納空間』へしまい常時手ぶら状態だった。
「魔王が来ると誰もいなくて良い」
「ディアーロへの態度は相変わらずのようだな」
魔王は顔をしかめた。ディアーロはとある事情で天上領から離れた場所に暮らしている。その内容が不愉快で以前に意識改善を求め、多少は良くなった。
「目指すは『楽園』か?」
「当然だ。早々に向かうぞ」
魔王達は勢い良く跳躍し目的地へ急ぐ。
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エデン中央 楽園
楽園は上位天使達がエデンを管理するための建物で、外見は逆正四角錘で金属の様な光沢で覆われている。周囲は堀で囲まれており、建物が綺麗に水面に映っている。
目の前に到着した魔王達の前に警護用の球状ゴーレムが浮いていた。
『認証開始。…………魔王様と判断しました。ようこそ楽園へ』
魔王の足元だけ光り、【転移】の魔力に包まれていく。
「お前達はここで待っていろ。すぐに戻る」
「畏まりました。どうぞお気を付けて」
サクラは頭を下げて魔王を見送る。魔王の全身が光に包まれその場から消えた。
魔王が転移したのはエデンの内部、真っ暗な部屋の中だった。見渡す限り暗黒で、光は一切見えない。
「出てこいセラフィム。もったいぶる必要は無いぞ」
魔王の前に突然眩い炎が上がり始めた。周囲は赤い炎に包まれ、凄まじい熱気が襲う。
そして正面から歩いて近付いてくる影があった。
目の前に現れたのは、6枚の翼を持った女の天使だった。
すらりとした細い身体、頭の上に光の輪、虹色に輝く足元まであるロングヘア、白銀のキレのある眼、淡い桃色の厚い唇、健康的な白い肌、背中の6枚の翼は赤色に染まっている。
長くて白い布一つを丁寧に巻き上げた服は彼女の美しさを際立たさせる。
彼女こそが『大天使長・セラフィム』
七つの冠の一柱、天使族の長でもある。別名『熾天使』と呼ばれる炎の最上位天使だ。
周囲の炎は消え、セラフィムは魔王と対面し睨みつける。
「どうしてわざわざ来たのですか?」
「第一声がそれか。拒否しなかったのはそちらだろう」
セラフィムは歯を強く噛んだ。
「だとしても察するべきでしょうこの厄災!! お前が持って行ったクラウソラスのせいでどれだけ被害を被ったか忘れた訳では無いだろう!!?」
怒りでまくし立て魔王に詰め寄った。しかし魔王はあっけからんとしていた。
「クラウソラスの加護を得た我に近付いた邪な天使達が男の面が強かったのに種族特有の両性具有の影響で全て女になった事が被害か?」
「邪とか言うな!! 私もその被害者だぞ!!」
1700年前、天使族が発展する魔族を気に食わないという身勝手な理由で侵攻した。
だが強さの秘密を解明され、天上領まで押し返された挙句、天使も神も葬る伝説の剣クラウソラスまで奪われてしまった。
クラウソラスの加護を得た魔王の光を浴びた邪な心を持った天使達(男)が全て女になってしまったのだ。
元々両性具有で男女どちらの性器も持っていたのだが、クラウソラスは邪な者に罰として性別を女にさせたのだ。
若い者は全員身も心も女に、歳を行った者は心だけ女になり、しばらく出生率は悪くなってしまった。寿命の長い種族のためそこまで影響は続かず、今では元通りになっている。
魔王が来た際には厳戒令が発せられ、誤って女にされないよう細心の注意を払っている。
セラフィムは子供の様な敵意を剝き出しにして魔王に迫る。
「お前のせいで幹部の七大天使全員オネエだしその下の位の天使達は皆女で男の天使が入りづらいと言われているんだぞ!! それがどれだけ大変か分かるか?!」
「実力ある者が女と言うだけで何の問題がある」
「男女平等が無いんだよ!! 分かれ!!」
地団駄を踏んで自分の苦労を八つ当たりし、それを冷静にあしらっているという図になっていた。
「それはともかく、礼品を持ってきた。受け取るがいい」
「話を簡単に流すな! 受け取るが!」
魔王が取り出したのは小さな黒い箱だ。
「何だこれは?」
「しいて言うなら、神の残骸だ」
「っ!!!!!」
セラフィムは目を見開き食い入るように箱を見て驚いていた。それもその筈、天使族は神に最も近いと言われたが、その神が何なのか未だに解明できていない。その足掛かりになる代物を渡されたのだから衝撃そのものだろう。
「た、確かにこれは神の魔力!!? い、いいいいい良いのか貰って???」
動揺を隠せずに全身が震えていた。魔王は肩に手を置いて落ち着かせる。
「我が持っていても意味の無い物だ。存分に役立ててくれ」
魔王の笑みにセラフィムのハートが撃ち抜かれた。
「ハアウ!!!!!」
セラフィムは倒れそうになるが直前で踏ん張る。少し震えた後、態勢を戻した。軽く咳ばらいをして魔王に向き直る。
「ま、まあ私の苦労を労うには十分な報酬です。ありがたく頂きましょう」
魔王に背中を向けて緩んだ顔を見られないように懐へ仕舞う。
「(……さて、どんな結果になるか)」
神の残骸。その正体は先日殺した女神の内臓や骨、筋肉の一部を押し固めた物だ。
【永遠牢獄】から少しだけ取り出し、ミンチにして問題が無い事を確認して箱詰めにしたのだ。
魔王は神に対して相当力を入れている天使族に任せれば何か他の情報も出るだろうと推測している。
「しかし、神を殺す我を何とも思わないとは、変わっているな」
「勘違いするな。前にも言ったが、我々は神を信仰したいのではない、解明したいだけだ。神に縋るだけの下等な人族と一緒にしないでもらいたい」
フン、と鼻息を鳴らし魔王の方へ向き直る。
「用が済んだのなら早々に帰ってくれ。いつまでも厳戒令を出しておく訳にはいかないんだ」
「分かっている。ではな、セラフィム」
「ああ、あまり来ないでくれ」
魔王を外に転移させ、セラフィムは自室へと戻るのだった。
・・・・・・
天上領での用事を済ませた魔王とサクラはディアーロと別れ、魔王城へと帰還していた。
時刻は既に就業時間を過ぎ皆が仕事を終わらせて帰宅した後だった。
魔王とサクラは書斎に追加の仕事が無いことを確認し、帰宅の途に就いていた。
「サクラよ今日もご苦労だった」
「仕事ですので、当然です」
他に誰もいない暗くなった廊下を歩き、魔王は自分の居住区前に到着する。
「次で
「はい」
魔王は振り返ってサクラと向き合った。
「最後の
七つの冠最後の一柱『サクラ』
「いや、今は仕事の時間では無いな」
彼女は魔王の秘書であり、
「何か希望はあるか、サクラ」
「はい、
元人族の転生者で、魔王の娘である。
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お読みいただきありがとうございました。
次回は『魔王の娘・サクラ』になります。
お楽しみに。
桜咲き、舞い踊るは可憐な娘
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