黄金拳聖・ディアーロ

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第5の魔境、拳聖の島


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 リングネル大陸の奥地には天にまで続く塔がある。


 この塔を登った先には空中に浮かぶ大陸『天上領』が存在する。そこには天使族だけが住んでおり、独自の文化を築いてきた。


 その天上領から少し離れた場所に存在する小さな浮遊島『アルバノ』。


 ここに七つの冠の一柱が暮らしている。



 ・・・・・・



 魔王とサクラは【転移】でアルバノまでやって来ていた。


 果物の木々が立ち並び、心地よい川のせせらぎが聞こえてくる何とも穏やかな場所だ。


 しばらく木々の中の小道を歩き続け、抜けた先には開けた草原が待っていた。その中心に小さな家が一つ存在している。簡単な造りの柵、花が植えられた小さな花壇、5羽の鶏が入っている鶏小屋、とても長閑な景色だった。


 魔王達は家の扉を叩いた。


「ディアーロ、いるか?」


 中から返事は無く、隣から鶏のコココと細かい鳴き声だけが聞こえる。


「留守でしょうか?」


「ふむ、時間を間違える性格ではないはずだが」


「我ならここにいるぞ」


 勢い良く振り向くと、そこには黄金に輝く男がいた。



 燃える様な朱色と橙色の大きく広がったロングヘア、深く焦げた黒肌、切れた水色と琥珀色のオッドアイ、常に睨みを利かせているかのようないかつい表情、背丈は魔王よりも少し低いが、魔王にも引けを取らない筋骨隆々の身体で、背中には自身の身体並みの大きな翼が生えている。


 今は半裸だが、下半身に付けている黄金の鎧は濁りの無い一級品だと分かる輝きを放っていた。



 黄金拳聖・ディアーロ


 その拳から放たれる一撃は全てを凌駕する真の『拳聖』。七つの冠の一柱であり、格闘系最強の存在である。



 ディアーロは手に持った野菜の籠を見せつける。


「もてなすために食材を採っていたのだが、魔獣の群れと遭遇してな。退治ついでに修行を始めたら遅くなってしまった」


「ディアーロらしい理由だ。とりあえず着替えてくるといい」


「お言葉に甘えよう」



 ・・・・・・



 ディアーロは緩やかなデザインの服に着替え、魔王達を家の中に上げた。中は外見同様質素な造りだった。


 魔王とサクラは椅子に腰掛けて休んでいた。


「それで、今日はこの間の礼をしに来たのだろう?」


 魔王達に茶を出し対面する形でディアーロも座る。


「事前に連絡を入れた通りだ。今回はこれを……」


 魔王が礼品を出そうとすると、ディアーロは掌を前に出した。


「品は結構だ。我が所望するのは」


 前に出した手を力強く握り拳にする。


「魔王との拳と拳の一騎打ちだ」


 真剣な顔で魔王を見る。魔王もまた同じ様にディアーロの眼を見た。


「……いいだろう。久し振りに拳闘をするのも悪くない」


 その返事に笑みを浮かべる。


「ならば早速始めようか」


 互いに立ち上がり、家を出ようとする。


「すいませんが、拳闘のルールをここで決めさせて頂きます」


 それを止めたのはサクラだった。茶を音を立てずに飲み、静かに器を置く。


「試合エリアは指定する100m四方のみ、試合時間は1時間、勝敗はつかないでしょうから具体的に決めませんが、エリアから出たら即終了。以上でよろしいですね?」


「「ええ、狭い短い……」」


 両者明らかに残念そうな表情でガッカリする。


「ちゃんと決めないと休憩無しで1ヶ月戦いますよね? それで苦労したの誰か分かってますか?」


 こめかみ辺りがヒクヒクと動き、どれだけ大変だったかを思い出して少し怒りに震えていた。魔王とディアーロは当時を思い出して申し訳ない顔になる。


 その後、誓約書を書いてキッチリ決めるのだった。



 ・・・・・・



 3名は広い草原の真ん中に移動し、拳闘の準備を始める。


 サクラは試合エリアを【結界魔術】で展開し、魔王とディアーロは半裸になって準備運動を始める。半裸になるのは『何の仕込みも無いちゃんとした素手』という意思表示のためだ。


 両者共に向き合い、軽く拳を合わせ拳闘前の挨拶の儀を行う。


「何年ぶりだ?」


「魔族武闘会以来だから9年だ」


「来年は武闘会があるのか、楽しみだ」


「そうだな」


 軽く談笑した後、互いに所定の位置まで移動し、構える。


 サクラは両者の準備が整ったのを確認し、審判として間に立ち、手を天高く上げた。


「試合時間1時間のワンラウンドバトル! レディ!」


 魔王とディアーロの全身に力がみなぎり始める。


「ファイ!!!!!」


 サクラの手が一気に下ろされ、魔王とディアーロの拳闘が始まった。



 ・・・・・・



 魔族領上空 天気庁


「……あら?」


 仕事が一段落したティターニアは中庭で紅茶を飲んでいた。


 ふと、持っていたティーカップに何もしていないのに波が立っている事に気付いた。数回波を眺めて、原因が何なのかに気付く。


「これは、魔王様とディアーロ様の拳闘、かしら」



 過去に両者の戦いを見た事があるティターニアはこの衝撃に見覚えがあった。


 天上領は魔族領に最も近い『異世界』だ。その為物理的に干渉する事は普通出来ない。


 だがあの2名の戦いは話が別。次元を超える衝撃を生み出す特殊なエネルギーを持っているのだ。



 ティターニアは紅茶を飲んで一息つく。


「七つの冠、本当に次元違いですね」


 どこか諦めに近い独り言を呟くのだった。



 ・・・・・・



 1時間後


「そこまで!!!!!」


 サクラの試合終了の宣言と同時に拳が止まった。


 周囲の草原は吹き飛んで丸裸になり、地面は拳闘の衝撃に耐え切れずクレーターができていた。


 互いに息は上がっておらず、汗を数滴流しただけだった。


「ここまでか」


「そうだな」


 魔王とディアーロは握手をして互いを称えた。



 ・・・・・・



 ディアーロの家の風呂で汗を流し瓶詰めされた冷えたミノタウロス族の乳を飲み干した。


「これからどうするんだ?」


 不意にディアーロが質問する。


「このまま天上領へ行ってセラフィムに会いに行く。事前に連絡は入れている」


「そうか。ならば我も行こう」


 ディアーロは立ち上がって黄金の鎧を装着し始めた。


「日用品が少々不足してきてな、買い出しついでに同行と言ったところだ」


「そうか。好きにするといい」


「寛大な心に感謝しよう」


 こうして3名は【飛行】で次の目的地、『天上領』へと向かうのだった。




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お読みいただきありがとうございました。


次回は『大天使長・セラフィム』の登場です。

お楽しみに。


最上の天使、聖炎の主


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