古代覇龍・サザーランド
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第4の魔境、龍が住まう極限の山
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リングネル大陸の最北に位置する場所には
その名は『龍宮』。高高度に作られ、魔素が薄過ぎて碌に魔導が使えなくなる環境にある土地だ。
100万を超える龍達が生まれ育ち巣立っていくこの場所に、七つの冠の一柱が在住している。
・・・・・・
「去れ!! 矮小の存在よ!!」
「貴様達が踏み入れる領域と思うな!」
到着早々手荒い歓迎を受けていたのは魔王とサクラだった。
若い龍族の連中が入り口で数体待ち伏せしており、魔王達の進路を阻んでいた。狭い岩の道に体長が大体15m前後の龍族が合計9体。無理矢理進めば通れる事も無いが、彼らがそれを許さないだろう。
サクラは魔王の前に出た。
「貴方達、この方を魔王様と知っての所業ですか?」
龍達はそれを聞いてゲラゲラと下品な笑いを飛ばした。
「そんな小さな体で何が魔王だ! 笑わせてくれる!」
「龍の方が圧倒的に強いのに弱小連中にヘコヘコする義理は無いわ!」
頭の悪い返しに思わず魔王の眉間にシワが寄った。
「龍族の中にもいるのだな、教育がなってない阿保の集まり」
「誰がアホだ!!」
リーダーと思わしき龍が口を開いた。だが、
「黙りなさい。身の程知らず共」
サクラの低く、高圧的な声が遮る。
それと同時に魔力が重圧となって周囲に放出される。龍達は魔力の桁が尋常ではないことに気付き、驚きで目を見開いていた。
「体格だけで優劣を計る愚か者共、今ここで痛い目を見たくなければ即刻立ち去りなさい」
この溢れ出している物が怒りの感情からだというのは嫌でも感じ取れた。魔王はサクラの肩に軽く手を乗せる。
「そこまでにしておけ」
「ですが魔王様、不敬を働いたこの者達を野放しには……」
「分かっている。だから久し振りにあの手を使う」
魔王は口元だけで笑い、龍達の前に出る。
「そこまで言うなら貴様らの実力を見せてもらおうか」
「何?」
「あれだけ豪語しておいて弱いなんてことは無かろう?」
龍達は牙を鳴らして大きく翼を広げた。龍で言う臨戦態勢だ。
「後悔してももう遅いぞ?」
「御託は良い。来い」
龍達が一斉に魔王達を襲撃する。
直後、戦闘による轟音が響き渡るのだった。
・・・・・・
「…………なるほど、遅れた理由は分かりました」
『精霊龍・フェアリア』が溜息をつきながら納得していた。
今日龍宮に魔王が来ると連絡を受けて龍宮本殿前で待っていたが、約束の時間から2分過ぎてから到着した。いつもなら5分前くらいに姿を現していたので質問して今に至る。
「申し訳ございません。私達の一族がその様な無礼を……」
フェアリアは頭を下げて謝罪した。
「構わん。それよりもサザーランドは起きているか?」
「はい。龍帝様は既にお待ちになっておられます。どうぞこちらへ」
フェアリアは巨大な龍専用の建造物『本殿』へ魔王達を案内する。本殿は高さ2000mにもなる巨大な建造物で、最上階は雲に隠れて見えない。中に入ると、広いエントランスを中心に仕切りの無い部屋で龍達が事務仕事をしていた。【書類作成】で書類を作り、仕事を続けている。
魔王はフェアリアに案内されながらその姿を見渡していた。
「しっかりと仕事をしている者はしているようでなによりだ」
「恐れ入ります。ところで、魔王様を襲った者達は?」
フェアリアは少し不安げに質問する。
「ああ、入り口の壁画にしたぞ」
「…………はい?」
・・・・・・
龍宮 入り口
「おいおい、なんだこりゃ?」
偶然通りかかった龍族は壁を見て驚いていた。
壁に龍の形に凹んだ跡が残っていたからだ。しかも跡にはボコボコにされた龍族がしっかりと
「た、助けて……」
嵌っている龍は掠れた声で助けを呼んだ。
・・・・・・
フェアリアに案内され、【飛行】で最上階まで向かう。
龍族には翼があるので昇降機の様な装置は必要なく、飛んで上まで移動するのが基本だ。
魔王とサクラはフェアリアの速度に合わせて並んで飛んでいる。
「流石に長いな」
「申し訳ありません。速度を出し過ぎると衝撃波が出て周囲に迷惑がかかりますので」
「構わん。そろそろ到着だ」
最上階の巨大な扉の前に着地し、フェアリアが扉を魔術で開ける。扉はゆっくりと重々しい音を上げながら開いていく。扉が全開になったのと同時に中へと入る。部屋には靄がかかっており、1m先も見えずらい状況だ。
フェアリアは身を低くして首を垂れた。
「龍帝様、魔王様をお連れしました」
次の瞬間、靄が全て吹き飛び、目の前に本来の景色が現れた。
そこは空の青が黒に見えそうな高さに位置し、見渡せば山脈が周囲を取り囲む巨大な盆地である。
その盆地を埋め尽くすほどの超巨大な龍が存在する。
動く背中は両側に存在する山脈よりもそそり立ち、背中の翼は山を全て覆う事ができる程広く、大地を踏む4つの足はそれぞれ大きな街一つを容易く踏みつぶせそうで、鋭利な棘が付いた尻尾は一振りで大地を薙ぎ払えそうな大きさで、全てが規格外のスケールの身体の龍だった。
鱗は深緑、翼は白。魔王よりも大きすぎる眼は光り輝く青色を放ち、全てを嚙み砕けそうな牙が綺麗に生えそろっていた。
古代覇龍・サザーランド
全長5000mもある超巨大龍。七つの冠の一柱。龍族最年長の1万歳であり、実力も龍族最強の存在だ。
サザーランドは黒目を動かし魔王達を見る。
「やっと来たか、魔王」
高圧的な低い声で話しかける。
「来たぞ、サザーランド」
魔王も圧を掛けた口調で返す。
「今回は礼品があると聞いている。この儂に何をくれるというのだ?」
あまりにも巨大過ぎるため片目だけでこちらを見ている状況だが魔王は臆せず話をする。
「礼品はこれだ」
魔王が【収納空間】から取り出したのは、サザーランドの頭並みの大きさの肉塊だった。宙に浮かせながらサザーランドに見せつける。
「超級魔獣『山脈肉牛』の肉だ。希望があれば調理もするぞ?」
「ほほお、迷宮産の高級肉か。良い品を持ってきたな」
サザーランドの眼が笑っているように見えた。しかし、
「だが足りぬ。これだけでは儂は満たされぬぞ?」
すぐに睨みをきかせ圧をかけてくる。圧だけで実際に圧し掛かれた様な感覚に襲われる。サクラとフェアリアの表情が少し苦しくなっていた。
魔王はそんな中でも平然としていた。それどころか微笑んですらいた。
「そう言うと思っていたぞ」
魔王は【収納空間】から酒瓶を取り出した。それもサザーランドに合わせたサイズの超巨大サイズだ。
「災害級魔獣『無限葡萄怪樹』で作った葡萄酒だ。好きだろう?」
酒を見たサザーランドは大きく首を動かし、見下ろす態勢に入った。動くたびに空気が震え、凄まじい突風が巻き起こる。
「ハハハハハ!!! よく分かっているではないか!! それでこそ魔王だ!!」
大笑いで発せられた声は鼓膜を破ろうとするほどの爆音となる。サクラは思わず耳を塞ぎたかったが、我慢して下唇を噛んだ。
魔王は肉と酒瓶をサザーランドの傍に【座標固定】で宙に浮かせたままにする。
「久し振りの豪勢な食事だ。感謝するぞ」
「当然の報酬だ。あと、これは礼品ではないが目を通しておいてくれ」
そう言って置かれたのはサザーランドのサイズに合わせた巻物だった。
「これは何だ?」
「山脈修復の計画書だ。2ヵ所破壊しただろ」
サザーランドは魔王から視線を逸らした。
「どうだったかのお?」
「しらばっくれるなよ。一つ目はフェニーチェのせいだからまだ許すが、2つ目は調子に乗って破壊したと調べが付いているからな?」
魔王の発言にサザーランドは渋い表情をしていた。
「仕方無かったのだ。許せ」
「次やったら自分で直せ。いいな?」
「…………いいだろう」
渋々了承して、その場はお開きになった。
・・・・・・
その日の夜
サザーランドは焼いた肉に食らいつきながら酒を飲んでいた。肉に噛みついて肉汁ごと食い、それを酒で流し込む。
「んぐ、んぐ……、あああああ!!」
酒気を天に向かって吐き出し、食事を満喫する。
魔王と出会う前は例え同族だろうと近くにある物全てを貪り尽くして空腹を紛らわしていた。今では龍族の長として龍族をまとめ、仕事をする報酬として定期的に食事が支給されるようになった。おかげで空腹になることは無くなり、体も更に成長して大きくなった。
サザーランドは空を見上げて酒を飲んだ。
「(次に向かうとすれば、天上領か)」
遠い目で山脈の先にある天へと続く塔を見た。塔の先は常時雲に隠れて見える事は無い。
「あ奴らからしたら魔王は天災よな。ハッハッハッ!」
高らかに笑って独り楽しい夜を過ごすのだった。
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お読みいただきありがとうございました。
次回は『黄金拳聖・ディアーロ』の登場です。
お楽しみに。
その拳で全てを成す黄金の猛者
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