目の前の景色は本物ですか? Ⅰ

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目の前の現実は本物ですか?


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 アトゥラント地方 アステリア城


 ラディオンは城内の治療施設内にいた。


 あの激戦を終えて、体中に大怪我してしまったので念の為の治療だ。


「全く、無茶するわね」


「ははは、面目ない」


「笑い事じゃないわよ」


 ラディオンの看病をしているのは妻の『パシーパ』だ。赤髪褐色肌のミノタウロス族の女性で、かなりの筋肉をつけており、その上胸もミノタウロス族の中ではかなり大きい。しかも見た目はかなり若く見える。


 パシーパは見舞いの果物と着替えを持って来るためにここに来た。今はラディオンと歓談中だ。


「他の十二魔将さん達も大変ねえ、こんなにボロボロになって戦わなきゃならないんだから」


「安心しろ。こんな風になるのは俺くらいだ」


「威張って言わない。……そう言えばリリアーナさん、戦えないって聞いたけど本当?」


「何の話だ?」


「いやねえ、前に私の同級生から聞いたんだけど、リリアーナさんって戦う魔法やら魔術やらを一切持っていないって聞いたのよ。だからあなたみたいにボロボロになるんじゃないかって」


「……パシーパ、念の為に聞くが」


「何よ」


「お前、リリアーナがどんな姿か知ってるか?」


「馬鹿にしないでよ、もちろん知ってるわ」




「あんないい男、中々いないじゃない」




 ・・・・・・



 ヘリドット大陸 ミクトラン地方 ミストリ


 薄暗い空、荒野が広がる大地に奇妙な建造物が立ち並ぶ場所がある。


 まるで現代アートの様な奇抜な建物ばかりで、とても人が住める形では無い。



 奇妙な建築物の群の中を歩く3人の女子がいた。


 一人は紺色のブレザー制服を着た女子高生、ショートヘアで黒髪、これといった特徴の無い少女だ。


 二人目は昭和時代に流行った真っ赤なスケバンの特攻服を着た長身の女性で、金髪のロングヘアとサングラスが特徴的だ。


 三人目は他の2人よりも明らかに小柄な少女だった。歳相応な服装にツインテールが特徴だが、それ以上に片手で持っている機関銃が目立っていた。全長164.5㎝、銃身114.3㎝、重量約40㎏、装弾数110発、12.7㎜弾を音速の3倍で発射する威力を持っている。その銃の名称は『ブローニングM2重機関銃』。


 彼女達は建物を見ながら歩いていた。


「なあショウコ。やっぱり邪魔されてねえか?」


 ショウコと呼ばれたブレザー女子高生は無表情のまま振り向く。


「そうみたいね。間違いなく妨害されたわ」


「かー! 使えねえ! 通信も繋がらねえし転移もできねえ! どうすりゃいいんだよ!!」


「うるせえですよアカネ。今はとにかく本来の目的地に侵入する事が重要です」


 ツインテール少女『サンディ』は不良女子『アカネ』を睨む。


「そうは言われてもなあサンディ、あの街どう見てもでっかい壁で守られてるだろ。どうやってバレずに入れって言うのさ」


 3人は【飛行フライト】で本来転移する筈だった巨大な街を偵察した。しかし、想像以上に厳重な守りにどう侵入するかで行き詰っていた。とりあえず近くにあったこの場所に降りたというわけだ。


「あたしの『闘気解放』で壁をぶち壊すのが却下ならサンディの鉄砲もショウコの『否定』も厳しいだろ?」


「そうです。私のスキル『機関銃生産』を使って攻め入るだけなら簡単ですが、敵の戦力が分かっていない以上ハイリスクでしかありません」


「相性の悪い相手がいたら、返り討ちに合う。それなら、侵入するのが一番」


「それができるスキルを持ってるのが誰もいないとか詰んでんじゃん! マジでどうすんのさ!? いって?!」


 アカネが頭を抱えながら悶絶していた。その拍子で腰掛けていた建物に頭をぶつけてしまった。


「っ~~!!」


「何やってるんですか全く……」


「んな事言われてもよお、これ超変な形してるせいで背中付けづらいんだよ」


 アカネがぶつかったのは、螺旋状の赤い建物で、変な所にいくつも窓の様な物が付いているが、全く生物の気配はしない。


「この、アートって言うのか? どうやって建ってんだ? 地面に付いてる部分めっちゃ小さいぞ」


「こっちの常識は一切通じないようですね」


「本当に異世界来ちまったんだな。未だに信じられねえけど」


「ここの空もそうですね」


 サンディが見上げると、空は紫、赤、緑、銀など、通常ではありえない色をしていた。雲も見た事の無い形になりながら変形を続け、見ていて飽きる事は無い。


「本当に摩訶不思議です。常識外れもいい所です」


「……とにかく、食料や水は持って来ていたからこれで凌ぐとして、雨風を凌げる場所を探そう」



 ショウコ達はとりあえずキノコ型の建物の下に入り、休憩を取る。


 各々好きな食べ物で腹を満たし、焚火を焚いて体を温める。


「サンディ、そっちの通信繋がったか? こっち繋がらねえんだ」


「ダメですね、ずっと雑音です。ショウコは?」


「こっちも、全然繋がらない」


「ちっくしょうあの博士、使えねえもん渡しやがって」


 アカネが軽く伸びをして遠くを見る。


「ふああ……、ちょっと眠くなってきた……」


「緊張感を持ってほしいですね。ここは敵地、いつ攻撃されてもおかしくないんですよ?」


「そうだけど、そんな気配も反応も全く無いじゃん」


 『気配察知』と『周囲感知』のスキルを持つアカネは、周囲3㎞にネズミ一匹でもいれば気付く事ができる。そのアカネが全く無いと言うのだから本当にいないのだろう。


 ショウコもサンディもアカネ程広範囲ではないが、それに類するスキルを持っている。


「まあ、そうですけど。あまり気を抜かないで下さい」


「はいはい」


「全く……」


 


「あら♥ お嬢さんはとっても真面目なのね♥」




 サンディが振り返った瞬間、すぐ隣で見知らぬ声が聞こえた。



 銃を構え、周囲を警戒する。しかし、2人の他に誰もいない。



「(いない? さっきのは一体何だったんです?)」


「ど、どうしたサンディ? 急に銃なんか振り回して?」


「何か、いたんですか?」


 いきなりサンディが銃を構えた事に驚き、急いで立ち上がる。


「今、すぐ横で声を聴いたんです。ただ、姿が無いんです」


「なるほど、それじゃあ」


 ショウコが手をかざした。


「気配遮断、『否定』」



 ショウコのスキル『否定』。


 対象にしたモノを否定し、無効化することができる。それは異能力だけではなく、ステータス、身体能力など何でも対象にできる。



 しかし、『否定』を発動しても反応が無い。


「気配遮断じゃない。じゃあ、他の方法で姿を隠してる?」


「サンディ、声はもう聞こえないのか?」


「そうですね。今は全く聞こえません」


「離れて行動するのは危険、固まって行動しよう」


「おう。サンディもそれでいいな?」


 

 だが、サンディからの返事は無い。


 

 サンディの姿が、どこにも無いのだ。



「サンディ? おいサンディ!?」


 アカネがキノコ型の建物の下から飛び出してサンディを探す。


「サンディどこだ?! 返事しろ!!」


「サンディ!!」


 2人が大声で呼ぶが、返事は無い。


「アカネ、反応は?」


「無い!! 『気配察知』も『周囲感知』にも反応が無いんだ!!」


「(アカネの3㎞にも及ぶ索敵系スキルに引っ掛からない。『否定』で気配遮断も無効化していた筈なのに、どうして……)」


 ショウコが考えている間に、アカネが先走って走り出してしまう。


「あたしはこっちを探す! ショウコはそっちを!」


「待ってアカネ、今は一緒に探そう。一人になった所を狙われるかも」


「だけど2人で手分けした方が……!」


「落ち着いてアカネ、敵はもうすぐ傍にいる。なら一緒に対処できるようにしといた方がいい」


「っ……。……分かった。一緒に探そう」


 ショウコは微笑んで頷いた。


「それじゃあまずはこのキノコ型の建物の下から探そう。もしかしたら何かあるかも」


「でもよ、スキルで引っ掛からないなら遠くに行ったって可能性が高いんじゃねえか?」


「灯台下暗し。意外とこういう所にヒントがあるもの」




 再びキノコ型の建物の下に入ろうとした瞬間、地面が抜けた。




「っ?!!!」


「うおあああああ?!!」


 2人共真っ逆さまに穴に落ち、ドンドン下に落ちていく。


「【飛行】! 【浮遊】!」


 飛ぶ魔法を使っても飛べず、そのまま加速しながら落ちていく。


「落ち、落ちるううううううううう!!!!!」


 アカネも手足を必死にばたつかせながら壁に捕まろうとするが、既に壁まで距離があり過ぎて届かない。




 アカネは絶叫しながら、ショウコは険しい表情で、穴の底へと落ちていった。



 

 ・・・・・・



「おわあ?!」


 アカネは落下した衝撃で頭を打った。


「いってえ……」


「おい真車まぐるま。寝るなら静かに寝ていろ」


「はい?」


 周囲を見渡すと、そこは見覚えのある場所だった。


 

 自分が通っていた、高校の教室だ。



 そして目の前にいるのはいかつい顔をした古文担当の先生だ。


「…………え?」


 あまりの事に、呆然としていた。


「起きたのなら授業を受けろ。もしくは黙っていてくれ」


 そう言って授業に戻ってしまった。




「(何が、どうなってんだ?)」



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