異世界からの侵略者
プロローグ:人族領にて
人族領 モルジオナ連邦
人族領で2番目に人口の多いこの国では、魔族領からの領土奪還に向けて尽力していた。
しかし、立て続けに作戦が失敗。周辺国からの協力も限界に近かった。何より、勇者を失った事が一番の痛手だった。モルジオナ連邦に残っている勇者は僅か4人。全員が支援型で戦闘に全く向いていない。魔族領からの攻撃が無いのが救いだろう。
この事で緊急招集された連邦議会の議長、副議長、そして軍の最高司令官と副司令、政府の各部門の責任者達が会議室に集まっていた。
今回の作戦も失敗したという報告を受け、全員が沈黙していた。
「……まさかあの3人まで死んでしまうとは……」
重い空気の中、最高司令官が口を開いた。その言葉に反応して、副議長がテーブルを握り拳で力一杯叩いた。
「あの役立たず共め!! 何のための勇者だと思っているんだ!!」
「落ち着きたまえ副議長。彼らの実力を過信した我々にも責任がある」
それを皮切りに、他の責任者達も口々に文句を言い始めた。
「あれだけ支援したのに何も持ち帰れないとは、一体どれだけの資金を無駄にしたか……」
「全くだ。もう少し役に立ってから死んでほしかったよ」
「国民へのいい看板でしたのに……。また新しい勇者を指名しなければいけませんね」
その言葉を聞いた副指令は心の中で悪態をついた。
「(こいつら、勇者だって人間なんだぞ! それを物みたいに……!)」
最高司令官は副指令の表情で胸中何を思っているのかを察し、話題を切り替える。
「今後についてですが、軍部としてはこれ以上戦力を捻出することは困難です。魔族領からの領土奪還計画は一時中止すべきかと」
「それは容認出来ない。我々が偉業を成し遂げ、後世に豊かな暮らしをもたらすには今行動しなければいかんのだ。何としてでも魔族領から領土を奪還せねばならん」
「議長の言う通りです。そもそもあの土地は元々人類の領土でした。それを魔族が武力行使で奪ったのです。そんな理不尽を許したままにするわけにはいきません」
「聞けば、大量の資源を独占しているとの事だ。それを人類にも共有しないというのは不平等極まりない」
「だからこそ最大国家であるモルジオナ連邦が奪還しなくてはいけない。分かるな、最高司令官?」
「しかし、周辺諸国からの勇者派遣も望めません。軍事力もかなり厳しい状況です。もう首が回らないんです」
「そこをどうにかするのが君の役目だろう? もう少し考えたまえ」
流石の最高司令官も眉間にシワが寄った。
軍の状況は厳しい。全ての軍人をかき集めても10万人程度。その内非戦闘員は8万人だ。機動部隊は殆どいない。その上勇者が死亡したという報告が入って士気も落ちている。そんな状態で作戦を続けても上手く行く確率は低いだろう。
最高司令官が心の中で頭を抱えていると、会議室の扉が勢いよく開かれた。
「何事だ!?」
副議長が立ち上がり、警備員を呼ぼうとする。
「待ちなさい副議長。教皇様だ」
議長が制止し、席を立って首を垂れる。
「教皇ステファーリット様。どうなされましたか?」
扉から入ってきたのは、豪華な白い服を身に纏った老人だった。その表情は平穏で、瞳からは優しい気配を感じられた。
「会議中に申し訳ない。皆様にどうしてもお伝えしたい事があって入室させてもらいました」
「……お聞かせください」
「今しがた、天にいらっしゃる神から啓示がありました。我ら人類のために使者を降臨して下さるとの事です」
会議室にいる全員が騒めいた。
神からの啓示だけでも大騒ぎだが、その上使者まで寄越して下さるとなれば、前代未聞の事だ。
「それは本当ですか、教皇様?」
「神に誓って真実です。これで皆さまも救われることでしょう」
議長や各部門の責任者達は喜んでいた。しかし、最高司令官と副指令はどこか浮かない顔をしていた。
互いに近付いて小声で話す。
「……どう思われます?」
「あの方がここまで来て嘘を言うとは思えない。とりあえず様子見だ」
「了解しました」
それから数日後、モルジオナ連邦の各地の教会に使者が降臨した。
そう、異世界からの転移者達だ。
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