エロティックワンデイ


 ヘリドット大陸 シバルバー地方 メーフォ


 サキュバス族の街であるメーフォは性に対してかなり緩いせいか、トラブルが多発する。最悪犯罪に発展する事もある。


 それを阻止するのもこの街を治めるリリアーナの役目だ。


 正確に言えば、彼女の率いる直属部隊『ゾーン』と共に治安維持に務めている。

 

 ・・・・・・


 リリアーナは会談が終わった後、必ずシャワーを浴びる。


 彼女のルーティンで、気合を入れる意味合いもあると同時に、これから行う仕事では身綺麗にしておかなければいけないからだ。


 念入りに身体を手洗いし、柔らかく美しい肌を丁寧に手入れする。



 シャワーを浴び終えたリリアーナは身体を綺麗に拭き、特注のクリームでスキンケアを、特注のオイルでヘアケアを、パックでフェイスケアも行う。その傍で秘書の『ファリハ・アーミー』が一日の予定を読み上げる。


「以上が今日のスケジュールになります。ここまででご不明な点はございますか?」

「全く無いわ♥ 予定通り進めましょう♥」

「かしこまりました」


 ケアを終えた後、衣服を着替え、放送室におもむき、放送室担当の職員に軽く挨拶してからハーデス城に務める職員向けに挨拶の放送を入れる。


『皆さんおはようございます♥ 今日もエッチで安心安全な一日を心掛けましょう♥ 以上♥』


 特に政も無かったので手短に終わらせる。放送室の面々に手を振って部屋を後にした。


「それじゃあ午前の見回りに行ってくるわ♥ 午後からの会議の準備をよろしく♥」

「かしこまりました。お気を付けて」



 ハーデス城を出て、城下すぐにある建物へ入る。見た目は豪華な風俗店なのだが、こここそがリリアーナ直属部隊『ゾーン』の本拠地なのだ。


 リリアーナは控室の扉を開けて、ゾーンの部隊員が揃っている事を確認する。


 ゾーンはサキュバス族、インキュバス族、妖魔ようま族を主とした混成部隊で、日々治安活動に励んでいる。


「皆揃ってるわね♥ 今日は報告のあったB3地区を巡回するわよ♥」


 インキュバス族の『セス・ルーレット』が手を挙げる。


「リリアーナ様、その地区はこの間巡回したばかりです。何故また巡回を?」

「それはね、新しい入街者がいるからよ♥ 監視を付けているけど、ちょっと怪しいのよ♥」

「怪しい、ですか?」


 リリアーナは不定形影型妖魔族の『チェチェ』に視線を向ける。チェチェは視線の意図を察し、発言する。


「対象は獣耳じゅうじ族の男性。4日前に入街してから街にいるサキュバス族と毎日性交を行っている。しかし昨日から暴力的な行為をしようとしたため駆け付けた警官に止められましたが、その場で厳重注意だけで終了しました。その時は反省の態度を取っていましたが、一時的な物でしかありませんでした」

「なので、今回はその獣耳族の男を見張る意味も兼ねて巡回するの♥ 分かったかしら?♥」

「なるほど、分かりました」

「この地区を回った後も他の地区も軽く見るから♥ 午後からは各自持ち場で見張りをお願い♥」

「「「「「了解しました」」」」」


 全員が支度を整え、街に繰り出した。



 ・・・・・・



 獣耳じゅうじ族。


 ザバファール大陸の諸島に住んでいる固有種族で、人族の体に動物の耳と尻尾が生えた様な種族だ。


 ほとんど人族の見た目だが、動物の能力を色濃く受け継ぎ、固有スキル『獣化』で大型の動物に姿を変えられる。その種類は多数存在し、ザバファール大陸を代表する種族でもある。



 その獣耳族で狼種の『バンド』は無理矢理サキュバス族と行為をしようとしていた。手を引っ張って目の少ない場所へ連れて行く。


「ちょっと、あんまり力を入れなくても逃げないわよ」

「いいから来い」


 地面に押し倒して着ている服を剥ぎ取ろうとする。


「待って。今脱いであげるから……」

「俺はな、無理矢理剥ぐのが好きなんだよ!」


 サキュバス族の服を盛大に破り、肌をあらわにする。


「ちょ、ちょっと! 流石に荒っぽ過ぎるんじゃない?!」

「お前らはこれくらいされても平気なんだろ? セックス大好きな種族なんだからよ」



 突然、バンドはサキュバス族の首を絞め始めた。

 サキュバス族はあまりの力で首を絞められて声が出せなくなり、苦しみ始める。


「--------?!! ------!!?」

「いいぜその表情、このまま犯してやるよ!!」


 バンドの身体が大きくなり始め、服が破れて、中から毛むくじゃらの狼男が現れた。


「安心しな。もし死んでも喰って証拠なんて残さないからよ……!!!」

「------------!!!」


 掠れた呼吸音を出しながら、身体をばたつかせて必死に抵抗する。しかし、あまりの力の差がありびくともしない。股間の物を擦り付けて、入れるべき場所に入れようとしてくる。


「このままあの世に逝かせてやるよ!!」



 【意識幻惑コンソースミラージュ



 刹那、バンドの視界が暗転する。

 何が起こったのか理解する事もできず、意識が途絶えた。


「げっほ、げっほ!!」

「もう大丈夫だから。今治療するわ」


 ゾーンの部隊員でサキュバス族の『サンライト・アダムス』が【回復ヒール】をかけて治療する。



 その傍では脱力して動かなくなったバンドがいた。



 リリアーナの【幻覚魔術】の一つ、【意識幻惑】は対象の脳に【幻覚】をかけ、意識を昏倒させる。


 この他にも、臓器、手足、感覚器官に限定してかける事もできる。誰でもできる技ではなく、リリアーナの天性の才能と努力によって到達した領域なのだ。


 バンドを拘束して、妖魔族の部隊員が秘密裏に連れて行く。無用な騒ぎを起こさないためだ。


 保護したサキュバス族はその場で治療した後、精神的に問題無いか確認する。当事者は、


「あはは、まあこういう時もあるよね。でも大丈夫! 心配しなくていいよー」


 と言った感じでその場は良しとなったが、念のため後日ゾーンの本拠地まで来るように伝えた。被害に合ったサキュバスはその場を後にした。


 リリアーナ達は状況が終息したのを改めて確認し、巡回へ戻った。



 ・・・・・・



 ところ変わって中央街


 とある風俗店で、入街者の女がフラフラになって退店した。


「ふ、ふふふ。次は、向かいの店に行かなくちゃあ」


 この様に、『性行為中毒者』になるケースは珍しくない。


 快楽に溺れ、普通の生活ができなくなる程はまってしまい、例え寿命を削ってでも性行為を続けてしまう。最悪腹上死する。


 それを食い止めるのもリリアーナ達、ゾーンの仕事だ。


「は~いお姉さん♥ ちょっと寝ててね♥」



 【夢幻ゆめまぼろし



 女はゆっくりと目を閉じて、そのまま眠ってしまった。どこか幸せそうな表情だ。


「これで次に目覚める時は中毒症状は緩和されるわ♥ 彼女が泊っているホテルまで連れて行ってあげて♥」

「かしこまりました」


 ゾーンの部隊員に預けて、女が出て来たインキュバス族の風俗店に入る。


「お邪魔するわよ♥」

「いらっしゃいまうおわ?! リリアーナ様!!?」


 出迎えた店員が驚いた。それと同時にリリアーナは店全体に【拘束幻覚バインドハルス】をかけて動けなくした。


「さっき出た彼女、中毒状態だったけど、どうして止めなかったのかしら?♥」


 リリアーナは笑みで問いかけているが、その裏には威圧感があった。


「も、申し訳ございません! 常連様で、普段とお変わりなかったので、つい……!!」

「今から審査するから♥ よろしくね♥」


 指をパチン、と鳴らすと、ゾーンの妖魔族達が一斉に乗り込み、店中を這い回る。


「私はこれから午後の会議の準備をしなきゃならないから、後は任せるわね♥」

「かしこまりました」


 ゾーンの部隊員にその場を任せ、ハーデス城へと戻って行った。


 ・・・・・・


 午後

 ハーデス城 会議室


 ここに集まっているのは、街を部門別に管理している者達だ。


 観光部門、商業部門、エネルギー部門、街民部門、健康福祉部門、総務部門、環境部門、整備部門など、街の維持に必要な部門を担当している。その長を『部門担当長』と称されている。


 最後に到着したリリアーナを合図に、部門担当長達は起立する。秘書のファリハが会議の挨拶をする。


「皆さんお集りですね。これより、第136回メーフォ部門担当長会議を行います。まず最初に、観光部門から報告をお願いいたします」


 観光部門担当のサキュバス族『リン・カーグニー』が報告を始める。


「観光部門担当のリンです。まずはお手元の資料をご確認下さい」


 

 そこからは退屈な進行の会議だった。


 多少の変動や変化はあったが、代わり映えの無い内容で、特に変更する点や修正するべき問題も無いいつもの会議だった。


 リリアーナは退屈が表情に出ないように注意しながら会議に臨むのだった。



 最後の整備部門担当の女エルフ族『ヴァイオレット・スノッリ・グラス』の報告で会議は終了し、解散となった。


 リリアーナは自分の書斎に戻り、午前中に溜まった書類仕事を片付ける。


 【加速アクセル】と【書類作成】で一気に片付いてしまうため、ものの数分でまとめ上げた。


「この書類、各部署に渡して頂戴♥ もし緊急の案件があるなら至急報告するように伝えて♥」

「かしこまりました」


 ファリハは書類を持って書斎を後にした。


 リリアーナだけになった書斎に、アロマを焚き始めた。一日の仕事の疲れを癒すと同時に、調子を整えるためでもある。


 インキュバス族への女性集客の案を考えていると、ドアをノックする音が聞こえた。


「は~い♥ どうぞ♥」

「失礼します」


 入ってきたのは、戻って来たファリハだった。


「十二魔将アギパン様からお手紙が届いております」

「……置いておいて♥」

「かしこまりました」


 手紙を机の上に置いて、ファリハは秘書室へ戻って行った。


 リリアーナは手紙を慎重に開けて、中身を確認する。



 紙5枚にもなる長文だったが、要約するとこうだ。


『面倒事を押し付けるな』



「……菓子折り持って行かなきゃ♥」


 知性インテリジェンス武器デバイスを押し付けた一件は魔王の耳にも入り、少々小言を言われる程度で済んだが、もし次も同じ事をすれば本格的に怒られるだろう。



 ・・・・・・



 終業時間となり、問題無く仕事が済んでいるか確認してからリリアーナも退勤した。


 帰りにまたゾーンの本拠地に寄る。


「やっほ♥」


 出迎えてくれたのは、サンライトだった。


「リリアーナ様、お仕事終わりですか?」

「ええそうよ♥ 今日の報告明日にできそう?♥」

「明日の朝までにはまとめて報告できます。追加でご報告する事があれば明日の朝でもよろしいですか?」

「よっぽどじゃなければそれで構わないわ♥ あなたも根詰め過ぎないように♥」

「かしこまりました。リリアーナ様」


 リリアーナの去り際に、サンライトは一礼して送り出した。



 リリアーナは街を歩きながら、自宅へと帰る。その途中、


「あの、そこのサキュバスさん」


 入街者に声をかけられた。ドワーフ族とオーガ族の青年だった。


「もし良かったら相手してもらえる?」


 リリアーナはニッコリと微笑んで、


「もちろん♥ 大歓迎よ♥」


 近くのラブホテルに入り、一夜をしっぽりと過ごすのだった。



 ・・・・・・


 深夜


 2名をガッツリ搾り取った後、自宅へ直帰した。


 自宅は街の中心から少し外れた場所にある住居地区にある。


 一階平屋の一軒家で、何とも似つかわしくない雰囲気の家だった。


「ただいま~♥」


 玄関を開けて、明かりを付けると、奥から飼い猫が出迎えてくれた。


「タマ、ただいま♥」


 抱き上げてキスをし、撫でながら部屋に荷物を置いていく。そして全裸になり、シャワーを浴びに行く。


 一日の汚れを落とし、身を清めた後は、全身のケアをしながら酒を飲み始めた。発泡系の果実酒だ。


「ん~♥ 仕事が終わった後はこうでなきゃ♥」


 搾り取った精をつまみに酒を飲んでいく。その傍でタマが夜食の餌を食べていた。


 リリアーナはある程度酒を飲んだ後、全裸のまま庭に出る。家の周りは塀に囲まれて外からは見えない。


 今夜の天気は晴れ。雨の予報は無し。


 外に出してあるハンモックに寝転がり、スキル『収納空間アイテムスペース』から薄い毛布を取り出す。腹にかけて、そのまま就寝する。


「(明日もお仕事だから、このままゆっくり寝るとしましょう……♥)」

 

 

 こうして、リリアーナの平凡の一日が終わった。


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