フィッシング・アンド・クッキング


 魔族領 ザバファール大陸 ダイガン灰諸島


 元々は噴火により火山灰が固まって出来た大きな1つの島だったが、長い年月を掛けて削られ、今では海面に凸凹と出た小さな岩が大量にあるだけの場所となった。


 周囲には大きな建物も生物もいないため、海鳥達がけたたましく鳴き、波の音だけが後から響いて来る。



 そんな何にもない岩場に魔王が独りでいた。

 しかもラフな薄着の格好でだ。



 波の飛沫が当たる岩の上に立ち、自身が座れる大きな岩を見つけて、そこへ移動する。『収納空間アイテムスペース』から丈夫な金属と布で出来た簡易椅子を取り出し座った。さらに『収納空間』からある道具を取り出した。


「ふむ、今日はこれでいいだろう」



 まじまじと見ながら決めたのは、釣竿だった。



 他にも餌や籠、ウキに釣り針、魚用の網竿などなど、そこそこの量の道具を用意する。


 早々にセッティングを始め、【加速アクセル】を使って高速で釣竿を組み立て上げる。さらに餌を団子状にした物を釣り針に付ける。周囲の安全確認を行い、竿を振りかざし、海目掛けて真っ直ぐ振り落とした。釣り針が重りになって綺麗に弧を描きながら海面に着水する。糸を慎重に伸ばし、魚が掛かるのを待つ。


 その時、釣りをしている魔王の後ろに影が近付く。


「何の用だクトゥルー?」

「あら~、バレちゃった?」


 そこにいたのはクトゥルーだった。しかし、いつもと着ている服装が違う。


 華やかな物では無く、茶色のジャケットにシャツとベスト、白いロングパンツと運動用ブーツを履いた地味な狩猟スタイルの服装だ。


「こんな所で何してるのかしら~?」

「見れば分かる。釣りだ」


 竿を揺らしながらクトゥルーの方を見ずに答えた。


「それは見れば分かるけど、何もこんな辺鄙な所でやらなくてもいいんじゃな~い?」

「分かっていないな、ここは昔からの穴場だ。よく釣れるぞ」

「え~? ここ魚なんていたかしら~?」


 クトゥルーが疑問に思うのも無理は無い。何故なら


「よしヒットだ」

「え?」

「離れてろクトゥルー」


 

 何故ならこの真下には、侵入禁止の迷宮があるからだ。



 魔王が勢いよく釣り上げたのは、超級魔獣『ジェノサイドホエール』という超大型の魔獣だった。


 おそらく50mはある巨体が宙を舞い、魔王達を睨みつけて来る。


「ちょっとぉ~!!? これ魔法使ってくる魔獣じゃな~い!! しかも異常にタフな奴!!」

「今日の獲物は生きが良い。速攻で仕留めてやる」


 そう言って【収納空間】から取り出したのは一本の長剣だった。


 10mという長さの割には細い刀身の両刃剣で、柄頭に虹色の宝石が埋め込まれ、柄自体は金色に輝いていた。



 その名は『巨神剣きょしんけん』エッケザックス


 魔王の持つ剣の最高峰の一振りである。



「貴様を斬るには丁度良かろう」


 ジェノサイドホエールは【浮遊魔法】で態勢を整えた。さらに口を開き、複数の魔法陣を展開する。


 魔王は片方に持った竿を引っ張って強引に口先を逸らし、そのまま体の向きを変えてしまう。首の部分がしっかりと見える態勢になった。


「そこだ」



 握った長剣で空を切った。


 

 否、ジェノサイドホエールの首を両断したのだ。


 

 エッケザックスの能力は、魔力を込めるとその分伸ばす事が可能で、切れ味も増して軍隊を丸ごと切る事ができる。


 今回はジェノサイドホエールの太い首を一撃で切ってみせた。


 しかし相手は超級。そう簡単にはやられない。


 『核』が残っているため、首と身体がくっつこうと断面から筋繊維が触手の様に伸び始め、連結し、引き寄せ合い始める。


 下にいた魔王には切った際に噴き出した血が雨の様に降り注いでいた。


 それを物ともせずに竿を引っ張って首が付かないように抵抗する。そして【探索サーチ】で核を探していく。


「……見つけた」


 核の位置を補足し、エッケザックスを構える。


 回復を邪魔されている事で全く動けないジェノサイドホエールも【探索】に気付き、無理矢理魔法を発動する。


 飛ばしてきたのは【氷槍砲アイスランスキャノン】という氷の塊を尖らせた物を弾丸にして音速で射出してくる魔法だ。


 飛んで来た氷の槍を【局所防壁ピンポイントガード】で防ぎ、態勢を保ち続ける。


「これで、終わりだ」


 エッケザックスを振り下ろし、ジェノサイドホエールの身体をさらに輪切りにする。


 輪切りにした位置に核があり、そのまま真っ二つになっていた。そこで、ジェノサイドホエールの絶命が確定した。


 魔法が切れ、三等分になったジェノサイドホエールは、そのまま海へ落下した。大きな水飛沫を上げ、海面に浮いた。血が海に漏れ出し、一面が赤色に染まった。


 同じ赤色に染まっていた魔王は死生眼で死亡を確認し、回収に移る。


「これだけあればいいだろう。後は血抜きだけだ」

「……魔王様」


 クトゥルーが重い雰囲気で話しかける。


「どうしたクトゥルー? まさか血塗ちまみれになった訳ではあるまい」


 魔王の言う通り、クトゥルーは『防御結界』を展開して血を一滴も浴びる事は無かった。問題は、


「これ釣りじゃなくて狩りよ~!! もっと詳しく言ってちょうだい!!」

「何を言う。この程度釣りの範疇であろう」

「どう見ても釣りの範疇超えてるわよ~!」

「それとクトゥルーよ、後ろだ」

「え?」


 後ろを振り返ると、上級魔獣『リッパーシザークラブ』がいた。


 蟹型の魔獣で、体長は10m前後、両手にある大きなハサミであらゆる物を切り刻む。

 そのハサミをクトゥルー目掛けて振り下ろした。



 しかし、ハサミが途中で木端微塵に砕けてしまった。



 クトゥルーの腕から大量の触手が飛び出し、ハサミを打ち砕いたのだ。



「簡単に触れさせてあげないわよ~?」


 触手はみるみるうちに太くなり、あっという間にリッパーシザークラブを飲み込んだ。


「スキルは、無さそうね。じゃあ潰れて頂戴」

「待てクトゥルー。そのまま生け捕りにしろ」


 魔王は輪切りにしたジェノサイドホエールを【収納空間】に入れていた。


「え~何でよ?」

「そやつらは食材だ。言っている意味は分かるな?」


 その言葉の意図を察し、リッパーシザークラブを『電気ショック』で気絶させるだけに済ませた。


「分かりました魔王様。それじゃあ向かってくる敵は全部生け捕りでいいのかしら~?」

「そうだ。我は釣る故、上がって来るのを頼んだぞ」

「は~い」


 魔王は【洗浄ウォッシュ】で全身を綺麗にした後、竿を振り下ろし、海面に着水させた。しばらくして、また魚が食い付いた。


 次に釣り上げたのは、中級魔獣『ミサイルランスフィッシュ』だ。


 体長1m程度。顔の先端に鋭い槍が付いており、餌や敵を見つけると高速で突っ込んでくる魚だ。


 魔王は陸に素早く上げて、頭を掴む。


「『ノッキング』」


 竿を脇に挟んで、ミサイルランスフィッシュに指一本を突き刺し、気絶させる。そのまま【収納空間】に入れた。


 後ろにいるクトゥルーも海から上がって来る魔獣を片っ端から取り押さえていた。


 下級魔獣『ダンシングクラブ』、中級魔獣『イーターシェル』など、大して強くない魔獣が大量に押し寄せ、触手で全て捕まえていく。


「最初の魔獣以外は大した事ないわね~」


 それからしばらくは入れ食い状態で魔獣達を捕まえて行った。


 ・・・・・・


 魔王達は魔獣を大量に捕獲する事に成功した。そして出てこなくなったのを確認し、その場を後にする。


 【浮遊魔法】で移動中、クトゥルーが話しかけて来た。


「ところで魔王様、餌って何を使ったのかしら?」

「何だ突然」

「だって~、超級魔獣が寄って来る餌よ? すっごく気になるじゃない?」

「大した物ではない。他の魔獣をミンチにした肉玉だ」

「……ちなみに何の魔獣?」

「『ジャイアントスワロー』だ」


 ジャイアントスワロー。


 全長20mにもなる巨大な燕で、翼の側面が鋼鉄の様に硬く、触れれば切られる。素早い上に高速で襲い掛かる超級魔獣だ。


「なるほどね~……」

「そろそろ我は到着地点だ。クトゥルーはどうする?」

「ここまで来たらご一緒するわ~」

「そうか、ならばついてまいれ」


 加速して目的の島へ急いだ。


 ・・・・・・


 ザバファール大陸 イカザ島


 その島は数ある中で誰も住まなくなった島だった。


 周辺の環境、海域、海流、迷宮から出て来る魔獣、全てが悪く、住んでいくには難しいと判断し、先住民達は1000年前に自らの意思でこの島を離れた。


 以来、この島には魔獣が跋扈し、誰も寄り付かなくなった。数年前までは。


 魔王達はイカザ島に着陸し、中へ進んでいく。


 島は手つかずになった自然で道が無く、小さな虫が飛び交い、劣悪とも言える環境だった。


 しばらく進むと、急に開けた場所に辿り着いた。地面中央に巨大な穴があり、直径200mはある。整備された穴のため、崩れている所は無い。


 魔王達はその穴に飛び込み、そのまま落下していく。かなり深いため、着地するまで時間があった。魔王もクトゥルーも無事に着地し、目的地に到着した。


 そこは巨大な海底洞窟。洞窟全体は薄く明るく、周囲を見渡せば、溶けた岩が中途半端に固まった物が壁一面に貼り付き、足場をいくつか成形した状態で海水が溜まっていた。


 その海底洞窟の中心に、巨大な神殿が鎮座していた。


「いるか、シヴァ」


 魔王が呼びかけると、神殿の奥からゆっくりと、シヴァが出て来た。


「ふわぁ、魔王様だぁ」


 眠そうな表情でシヴァが返事をする。


「『こちらシステムコード・ラクシュミー、いらっしゃいませ魔王様』」


 システムトリムルティの一つ『ラクシュミー』も出迎えの返事をしてくれた。


「約束通り料理を作りに来た。何がいい?」

「『本日はバランスを考えて魚介類の料理をお願いします』」

「分かった。しばし待て」


 魔王が『収納空間』から取り出したのは、直径20mもある巨大な鍋、フライパンだ。


 さっき捕まえた魔獣達も引っ張り出した。クトゥルーの捕まえた魔獣もまとめて取り出した。出した物は全て【浮遊魔法】で浮かせて地面や海水に付かないようにしている。


 魔王はコック帽子とエプロンに着替え、さらに愛用包丁『オオゲツヒメ』を取り出した。


 長さ2mあるその包丁は、怪しい光を放ちながらも、その凄まじい切れ味を輝きで表現していた。


「では始めよう。料理開始だ」


 最初にジェノサイドホエールをただの輪切りの状態から、内臓を取り出し、三枚おろしにしていく。


 宙に浮かせたまま身と骨を切り分け、硬い皮も剥いでいく。取った内臓は一旦別の場所にまとめておく。


 この作業をたったの2分で終わらせた。



 オオゲツヒメは頭の中で想像しながら魔力を込めると、その通りに刃が伸び、変形する。


 エッケザックスとの違いは、あくまで食材を切る為に特化している事だ。使い手がどんな風に切りたいのか、どんな風に捌きたいのか、それを実現させるためだけに変形する。


 

 三枚おろしにするために伸び、切る際に耐えれるよう刃が太くなり、身と骨を綺麗に分けられる様に切れ味も調整したのだ。勿論、使い手の技量が無ければいけないのが最低条件だ。


 こう見えても魔王は『料理』スキル全般を習得しており、あらゆる料理を一流に仕上げる事も、食す側の要望を全て答える料理を作る事も出来る。


 他の材料も料理に合わせて切ったり刻んだり砕いたりとあっという間に下ごしらえを完了してしまう。


「まずは一品目だ」



 イーターシェルを水の入った鍋に入れ、【時間加速タイムアクセル】で一気に砂抜きする。


 砂が出きったのを確認して、殻から身を外し、別の水の入った鍋に入れて火をかける。そこへ追加でシヴァの一口大に合わせて切った野菜と、身だけにしたダンシングクラブとリッパーシザークラブを入れて茹でていく。その隣でクラブ達の殻を粉砕した物を焼き、茹でて出汁を取って行く。


 数分煮たら、出汁と具のスープを巨大なカップに移し、調味料とゼリー状に固まる材料『ゼーラチルン』を入れる。


 だまにならないように高温を保ちながら混ぜていく。


 混ざったら、【氷結フリーズ】で一気に冷やしていく。そして、



「完成。シェル&クラブのコンソメゼリー」



 ゼリーの中に肉厚のイーターシェルとプリプリとした身のダンシングクラブとリッパーシザークラブが入って、食べ応え抜群の一品に仕上がった。出汁の香りでより一層味わいを楽しめる。


「いただきまーす!!」


 シヴァはゼリーの容器を持ってそのままかきこんでいく。


「んふう~! 美味しい!!」


 その美味しさのあまり、一気に食べきってしまった。


「これ、美味しい~!!」


 クトゥルーにも釣りを手伝ってくれたお礼で、料理を振る舞っていた。


「あのイーターシェルとクラブ達がここまで旨味を出せるだなんて驚きだわ~!! 少し濃い味だけど、十分過ぎる程の出汁の旨味! 美味しさ乱れ打ち~!!」


 あまりの美味しさに感想を全て口から言ってしまっていた。その間にシヴァは事前に用意されていたパンを食べ終えていた。


「美味しかったけど~、これじゃシヴァちゃん物足りないんじゃな~い?」


 魔王はその言葉に不敵な笑みで返した。


「言ったであろう? まだ一品目だと」


 次に取り上げたのは、ジェノサイドホエールの切り身だった。


「ここからがメインだ」



 まずはジェノサイドホエールの切り身に塩をまぶし、【状態加速ステートアクセル】で下味を素早く馴染ませる。出て来た水気を拭いていく。


 【収納空間】から大量の小麦粉を取り出し、ジェノサイドホエールの切り身に満遍なくまぶしていく。


 そして最初に出していたフライパンにオイルを塗り、皮があった面から入れ、その後から火を付ける。火は【着火イグニッション】で付けたため、宙に浮いたままフライパンを熱する事が出来ている。


 ジェノサイドホエールの肉は濃い赤身と脂身が特徴で、焼いていくと香ばしい匂いがしてくる。


 弱火でじっくり焼いたら、スキル『念動力サイコキネシス』で身の面に裏返す。そこへミノタウロスのバターを投入する。ミノタウロスのバターは油分が少なく、濃厚な旨味成分が豊富に含まれている。焼いたパンに乗せて食べるだけでも美味しい。


 バターが溶けたら焦げない様に温度を一定に保つ。細かい泡を立たせながら焼いていく。


 バターの匂いが立ち、洞窟一帯に広がっていく。良いバターのおかげか、油っぽさは無く、バター本来の風味豊かな香りだ。


 数分してから裏返し、溶けた焼き油を巨大なスプーンですくい上げてかけていく。


 こうする事で、よりバターの風味が切り身にまとわり、美味しさが増していく。


 程よく焼き色が付いたら【分離】で余分な脂を落としていく。


 そしてシヴァに合わせて作られた巨大な皿に盛り付け、特製ソースをかけたら、



「完成。ジェノサイドホエールのソテー」



 ジェノサイドホエールの上質で濃厚な肉と、ミノタウロスの香り豊かな焦がしバターが合わさって、食欲をそそる一品に仕上がる。まだ幼いシヴァに合わせたフルーツが数種類入った濃い目のソースが更に味の奥深さを演出する。


「いただきまーす!!」


 シヴァはフォークを切り身に突き刺して、丸ごと口に持って行ってかぶりつく。


「~~~~~!! おいし~い!!」


 満面の笑みでジェノサイドホエールのソテーに食らいついて行く。


「んまあ~、本当に美味しいわ~!!!」


 その一部を貰ったクトゥルーも感激していた。


「ジェノサイドホエールのお肉から溢れる濃厚な旨味、それをミノタウロスの焦がしバターが増幅させる役割を果たしているのね~! さらにこのソース! お子様向けだと思っていたけど果実の酸味と甘味が相性抜群!! それぞれが邪魔する事無く引き出し合って最高の四重奏だわ~!!!」


 クトゥルーとシヴァはウットリしながらも一気に平らげてしまった。


「では三品目と行こうか」



 ミサイルランスフィッシュを切り身にした物を、塩、胡椒、はちみつ、食用オイル、果汁を合わせた調味料液と合える。


 シヴァ用に収穫した大量の彩り豊かな野菜をサラダにし、その上にさっきの合わせた切り身を乗せていく。それを皿に盛り付ければ、



「完成。ミサイルランスフィッシュのマリネサラダ」



 ミサイルランスフィッシュのオレンジ色の切り身が調味料液で輝き、緑色のサラダを華やかにしている。



 シヴァは出されたと同時にサラダを混ぜて、味を均一にする。混ぜ終えたらフォークで突き刺して頬張って食べた。


 クトゥルーも同じ物を頂く。混ぜずに上品に食べる。


「これは、ミサイルランスフィッシュの脂が果汁の酸味と甘味でしつこさを中和しているのね~! 味を損ねずサラダと一緒に食べる事を計算して作られているから丁度いい味加減だわ~!!」


 魔王は食べ終えたのを確認し、最後の料理を取り出す。


「本日最後の料理だ。とくと味わうといい」 



 魔王が最後に【収納空間】から出したのは、デザートのプリンだ。


 ミノタウロスのミルクと上級魔獣『カラドリウス』の卵をふんだんに使い、濃くて甘いがしつこくない上品な一品になっている。



「わーい! デザート!」


 これにはシヴァも大喜びだ。高さ4mにもなるプリンをスプーンですくって食べ進める。


 クトゥルーには高さ4㎝の物が用意された。早速一口。


「お、美味しいわ~!! 濃厚だけど後味スッキリ! それでいてとろける食感! さっきのサラダの塩味から一転してプリンの甘味が際立つわ~!」


 お腹も気分も満足し、笑みが零れていた。


「今回の料理はこれまでだ」

「「ごちそうさまでした」」


 ・・・・・・


 それから、お腹が落ち着いてシヴァは久し振りに会ったクトゥルーとお話して、少し遊んだらまた眠りについてしまった。


「『シヴァの体調、問題ありません。本日もありがとうございました』」

「よい。部下の健康管理も上に立つ者の役目だ」

「私も大満足よ~。本当に美味しかったわ~!」

「こう見えても料理は1500年以上やっているからな。当然だ」

「そうね~、納得したわ~」



 クトゥルーが十二魔将に就任し始めの頃、魔王の不意を突いてスキルを奪おうとした事がある。


 しかし、料理スキルから派生したスキルがレシピ、調理法、包丁の切り方に至るまで事細かにあり、その数だけで1万を超えていたため、重要なスキルをすぐに見つける事が出来ず、その間に魔王に気付かれて失敗に終わった。


 現在はそれらを潜り抜けて攻撃系、防御系のスキルにすぐ辿り着けるようになった。ただ、取れた試しは無い。


 そんな事を思い出しながら、魔王を見つめていた。


「さて、そろそろ帰らせてもらうわ~。シヴァちゃんによろしくね~」


 手をヒラヒラさせながら【浮遊魔法】で飛んで行ってしまった。


「では我も失礼する。シヴァの事を任せたぞ」

「『言われなくても、全力を尽くして守り通します』」


 魔王は【転移テレポート】で魔王城へ戻り、シヴァはシステムトリムルティの【浮遊魔法】で神殿に戻って行った。

 

 ・・・・・・


 【浮遊魔法】で戻っていたクトゥルーは、最後に島の全容を空中から見ていた。

「……これは、何度見ても凄いわね~」


 島にはいくつものクレーターが存在していた。

 システムトリムルティが島に野放しになっていた『災害級魔獣』を消し飛ばした後だ。


 この島はシヴァの神殿『アトランティス』に繋がる場所だが、それと同時にシステムトリムルティが迷宮から出て来る魔獣を間引きしている場所の一つでもある。


 システムトリムルティはこれを一日でやってのけ、神殿も作ったのだ。


「(私、システムトリムルティには勝てそうにないかも)」


 そんな弱気な事を思いながら、クトゥルーは自分の拠点へ帰るのだった。


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