大量発生最前線≪スタンピードフロントライン≫


 エフォート大陸 アールヴヘイム地方 ヴァン大森林


 ヴァン大森林は針葉樹が群生する穏やかな土地だ。透明な川が流れ、澄んだ空気を求めて多くの観光客が訪れる。


 その大森林に危機が迫っていた。


 ・・・・・・


 ヴァン大森林 地方境界


 『大量発生』が確認され、マリーナは直属の部隊『剣豪衆』とエルフ族の軍隊を引き連れ、ビクトールとビクトール直属部隊『ゴールデンマッスル』、アラクネ族と昆虫族の混成部隊『インセクター』と合流し、前線基地で会議を行っていた。


 会議用の浮遊テントには、マリーナ、エル、ビクトールを始め、ゴールデンマッスル隊長でクワガタ型甲虫族の『ウィナー』、インセクター隊長でアラクネ族の『メリッサ』がいた。


 会議の進行をマリーナが取り仕切っている。


「現在大量発生を起こした魔獣『アーミーウルフ』、『メタリカグリズリー』、『ストライダーモンキー』、『ローホーンボア』はヴァン大森林の中を進行中。目標はユグドラシルだと推測されている」

「数は?」


 ビクトールが険しい顔で質問する。


「おそらく合計で1万以上かと」


 エルの返答にウィナーとメリッサが息を飲んだ。恐る恐るウィナーが発言する。


「勝算はあるのですか?」

「ある。まずはヴァン大森林の地形を説明しよう」


 マリーナはヴァン大森林の地形図をテーブルに広げる。


「ヴァン大森林は大小様々な山で形成されている。先行隊の報告によれば、魔獣は谷になっているエリアを優先して進行している。そこで我々は魔獣の進路に待ち伏せして迎撃する」


 地形図に駒を置いて詳しく説明を始める。


「魔獣たちはおそらくヴァン大森林の南第1区に入り、平地森林エリアへ進行してくる。ここで両サイドに罠を張り、奇襲を仕掛け、進行方向を狭める。そして袋状になるように攻撃し、一気に叩く」

「そう簡単に誘導されるでしょうか?」

「奴らは中途半端に賢い。危険だと思えば安全な経路を選ぶが、その先に敵が待ち構えているとは想像できない」

「引き返そうにもこの数では容易に引き返せない。だから前進して安全な経路を選ぶしかなくなるわけです」

「なるほど……」


 マリーナとエルの説明でウィナーが納得した所で、ビクトールが挙手する。


「配置は?」

「罠と奇襲はインセクターとエルフ軍2中隊に。進行してきた魔獣の正面はビクトールとゴールデンマッスル、そのサイドから私と剣豪衆、エルフ軍2大隊、後方待機でエルフ軍2小隊です」

「了解した。正面からの食い止め役は任されよう」

「頼みます。異議が無ければこの作戦で進めます。よろしいですね?」


 異議を唱える者はおらず、作戦の内容が決まった。


「作戦決行は3日後の明朝! 必ず成功させる!! 解散!!」


 

 ・・・・・・



 そして3日後。各自配置について魔獣の到着を待つ。


 まだ日が昇り切らない森は薄い霧で覆われており、遠くまでは見渡せない。そのため先行隊が各ポイントで、小型通信魔道具『マイクロテレパス』を使って進行状況を報告する。


 マイクロテレパスは【念話】よりも通信距離が長く、混線する事による雑音が無い。こういった複数の相手と長距離連絡を取るには必須ともいえる魔道具だ。


『こちらポイントアン、魔獣の進行を確認。現在南下中』

『こちらポイントドゥ、魔獣の進行を確認。魔獣はポイントキャトルに進路変更しました。どうぞ』

『こちらポイントキャトル、魔獣の進行を確認。トラップポイントへの進行を確認』


 マリーナは魔獣の進行情報を確認し、


『全軍に告げる。私から作戦前に言う事は一つ、死ぬな』


 そして、大きく深呼吸して、


『作戦、開始』



 ・・・・・・



 アーミーウルフは群れで行動する魔狼で、一つの標的に複数で襲い掛かる習性を持つ一般的な下級魔獣だ。


 ストライダーモンキーは手足が異様に長い魔猿で、その手足に付いている爪は石をも砕く危険な代物だ。群れで行動するため、単独でいる所を集団で襲撃する下級魔獣だ。


 その2種類が大量発生の先陣を切っている。何故なら、どの魔獣よりも進行速度が速いからだ。他の魔獣はそれに便乗して安全確認として利用している。

 明朝になってから進行を再開し、先陣を切っていた。

 

 それを確認したインセクター達は、木の上で待ち構えていた。

 それに気付いたストライダーモンキー達は、一斉に襲い掛かる。


 が、身体が動かなくなる。

 訳も分からず暴れてみるが、一向に動ける気配が無い。

 そしてそのまま、首を刈り取られた。

 

 首を刈り取ったのは、アラクネ族の兵士だった。


「まずは一匹」


 ストライダーモンキーが動けなくなったのは、アラクネ族の糸に引っ掛かったからだ。


 アラクネ族の糸は魔力が通っており、鍛錬を積んだものであれば、不可視に近い細さの糸を生み出せるようになる。


 その鍛錬を積んで前線に出ているのが、インセクターのアラクネ族の兵士達だ。


 次々にストライダーモンキー達が糸に捕まり、首を確実に落とされていく。


 だが、首の落とされたのを足場にして襲い掛かろうとする。


「っ!?」

「させん!!」


 突如、アラクネ族の兵士の後ろから槍が突き出された。槍は見事にストライダーモンキーの頭を貫通し、そのまま落下する。


 インセクターはアラクネ族だけではない。


 インセクターは昆虫族の混成部隊。その中には、標準筋力が高い『蟻族』、空中を飛んで攻撃に特化した『蜂族』、緑に擬態し奇襲を掛けるのを得意とする『蟷螂族』など、攻撃力の高い昆虫族が集まった部隊なのだ。



 アラクネ族の背中から攻撃したのは、蟻族の兵士だ。



 アラクネ族兵がもし攻撃されることがあれば、それを守りフォローするのが彼らの役目だ。


「助かったわ」

「背中は任せな!」


 次々飛んで来るストライダーモンキーを突いては落とすを繰り返す。



 後に来るストライダーモンキー達は進路方向をアラクネ族達が手薄の方へ進路変更する。


 ・・・・・・


 地面を走るアーミーウルフは上の状況を知っても、構わずに森の中を走り抜ける。

 

 しかしこちらにも待ち受ける影がある。


「【土防壁】!!」

 

 突然土の壁が出来上がり、アーミーウルフの行く手を阻む。


 壁の高さは5m以上。そう簡単に飛び越えられる高さではない。その上棘が出ており、下手に突っ込めば串刺しだ。


 アーミーウルフ達も最初は驚いたが、すぐに進路方向を変えて進行を続けた。


 しかし、山側に進路変更しようとしたアーミーウルフには、


「【火弾ファイアバレット】!!」

「【石弾ストーンバレット】!!」

「【風刃ウィンドカッター】!」


 魔法攻撃の猛攻撃が襲い掛かり、谷側へ逃げる他無かった。


 

 これで魔獣達が割れる確率は極端に減った。



 ・・・・・・



『こちらメリッサ。東側ストライダーモンキーの誘導に成功』

『こちらヴェヴェオ。東側アーミーウルフの誘導に成功』

『こちらアガサ。西側ストライダーモンキーの誘導に成功』

『こちらアイン。西側アーミーウルフの誘導に成功』


 通信魔道具で連絡を受け、マリーナ達の番がやって来る。


『よし、本隊戦闘準備』


 全員が改めて構え直し、迎撃の準備に入った。


 ・・・・・・


 1万にも及ぶ魔獣達は、大森林でも隆起が無い平地エリアに入った。


 平地エリアは山に囲まれた盆地になっている。


 マリーナ、剣豪衆、エルフ軍は山の斜面に隠れ、ビクトール、ゴールデンマッスルは盆地から出る狭まった道で待機していた。

 

「……来たか」


 ビクトール達は、先頭の魔獣集団を確認した。


「ゴールデンマッスル全員、気合を入れろ! ここから先に一匹たりとも通すな!!」


 せきの声が上がり、ゴールデンマッスルの甲虫族達が肩を組んで一列に並んだ。


「声合わせ!!」

「「「「「「おう!!!!!」」」」」」

「行くぞおおおおおおおおおおおおお!!!!!」



 『黄金のゴールデン大兜ヴァリアント』!!!!!



 高さ20mにもなる黄金に輝く壁が出現し、魔獣達の進行を阻んだ。


 これこそがゴールデンマッスルと呼ばれる所以ゆえんであり、魔族領最高峰の防壁なのだ。


 平地エリアの端から端まで形成され、迂回しようにも距離があり過ぎる。ストライダーモンキー達が爪を立てるが、傷が付くどころか、爪が折れる始末だ。


「いざ行かん! 突撃ィィィィィ!!」


 ビクトールは壁をすり抜けて魔獣の群れに突っ込んだ。



 『標的集中ターゲット』!!



 『標的集中』は敵の注目を集め、攻撃対象を発動者のみにするスキルだ。ビクトールの『標的集中』は半径1㎞の敵全てを対象に取れる程広範囲で強力だ。


 『標的集中』にかかった魔獣達は、一斉にビクトールに襲い掛かる。


「むん!!」


 ビクトールは右拳で一薙ぎすると、パン、という空気が破裂する音が響いたのと同時に、アーミーウルフ達は潰れてしまった。


「この程度で負ける私ではない……!」


 風を切る音と共に、ビクトールの姿が消える。



 『無限残像・蹂躙演武』!!!!!



 次に姿が見えた時には、無数のビクトールが現れ、魔獣達を粉砕していた。


 高速移動による残像攻撃、それによる蹂躙。ビクトールの対集団攻撃の一つだ。残像が放つ技はそれぞれ違い、一度に防御することは至難の業だろう。



 ビクトールが先頭集団を相手取る間に、魔獣達の最後方が平地エリアに入り終えた。


 ここで、マリーナ達も動く。


『エルフ軍、剣豪衆。突撃せよ!!』


 エルの合図で山の斜面に隠れていた兵士達が一斉に飛び出した。喊声を上げて一気に襲い掛かる。


「進め! 進めえええ!!」

「一匹たりとも生かして返すな!!」


 剣に槍、魔法での攻撃で地上のアーミーウルフを次々に倒していく。頭上にいるストライダーモンキーは弓と魔法で確実に落としていった。


 アーミーウルフとストライダーモンキーは抵抗を始め、腕や足に噛みついたり、馬乗りになって襲い掛かろうとする。


「先を急ぎ過ぎるな! 囲まれて死ぬだけだぞ!!」

「確実に各個撃破だ! 無理をするな!!」


 各隊長が指示を出し、魔獣の数を減らしていく。



 ・・・・・・



「うわあ!?」


 独断専行したエルフ軍の兵士が声を上げた。


 目の前には体長6mを超す巨大な熊だった。名はメタリカグリズリー。全身は鉄の鎧の様な外殻に包まれ、並みの武器では歯が立たない中級魔獣だ。


「グオオオオオオオオオオ!!!!!」


 咆哮を上げ、エルフの兵士に襲い掛かる。何とか剣で一撃目を防御するが、身体ごと吹き飛ばされてしまう。そして間髪入れずに二撃目が来る。


「うわあああああ!!?」


 防御姿勢に入るが、それごと引き裂く勢いで迫る。


 死の覚悟を決めた時、



 『壱転・一閃』




 回転しながら放たれた一撃が、メタリカグリズリーの攻撃ごと切り捨てる。その攻撃を放った者の正体は、エルだった。


 エルは尻餅を付いたエルフの兵士を蹴り飛ばす。


「ぐえ?!」

「力量を見誤るな!! 死にたいのか貴様?!!」

「も、申し訳ありません……」

「ならばとっとと下がれ! アーミーウルフ討伐にだけ集中しろ!!」

「は、はい!」


 慌てて戦場を移動し、その場を後にした。


 エルはアーミーウルフとストライダーモンキーを切り捨てながら、メタリカグリズリーとローホーンボアに向かって行く。合わせて3体が近い場所に集まっていた。


 ローホーンボアは一本角を持つ大型猪型で、突進力も強いが、角の貫通力も相当だ。皮膚も厚く、並みに攻撃では簡単に倒せない中級魔獣だ。


「(メタリカグリズリーとローホーンボアの数は比率としては少ない。今回はそれらを狩るのが剣豪衆の役目……!)」



 エルの持つ剣、『霊剣・アヴァリィ』。


 長さ1mの片刃剣で、軽量でありながら頑強、折れる事の無いと言われる業物だ。魔力伝達率も高く、切れ味も最高レベル言える。しかし、この剣には『意思』があり、所有者を選ぶという欠点がある。



 エルはアヴァリィに選ばれた剣士であり、『アース神剣流』師範、そして剣豪衆でもあるのだ。


 エルは呼吸を整え、剣を握る力を緩める。そして、メタリカグリズリー達に向かって跳躍する。その高さは10mを軽く超えていた。空中で体を大きく捻り、



 『壱転・一閃 三回斬』



 三回転しながらメタリカグリズリー3匹の頭を撥ね飛ばした。


 切られた断面から鮮血を吹き出しながら巨体が倒れていく。エルはそれらに目もくれず、他の魔獣を片っ端から切り捨てながら中級の魔獣を探す。


 その周りでは、他の剣豪衆達も猛威を振るっていた。


「切り捨て御免……」


 『断首離だんしゅり


 老エルフの『不見』ジンモンは、目を開ける事無く魔獣達の首を一瞬で切り落とし、


「砕けろ! ぶちまけろ! 挽肉になりやがれえええええ!!!!!」


 『狂騒曲ラプソティ第5番! 満開円舞ボラヴィート・ポルカ!!』


 ヤンキーエルフの『騒音大剣』ベルバルディは、回転する刃を持つ大剣『霊剣・回転破刃スピネル』を振り回して魔獣を漏れなくミンチにし、


「ソードオープン! ロック!!」


 『双刃・圧斬シザープレス』!!


 ドワーフとエルフのハーフの『工具剣流』アッシェンは、巨大なペンチに変形する大剣『圧剣プレッシャーソード』で掴み、そのまま掴み潰して両断し、


「華麗に舞って魅せろ!」


 『白鳥の舞』


 イケメンエルフの『舞踏剣流』ヴァーツラは、刃が分かれる蛇腹剣『霊剣・荊ノ罪』を鞭の如く操り、八つ裂きにし、


「……抜刀」


 『網切り』


 強面エルフの『沈黙』グリルは、愛剣『霊剣・零閃』を持って、一瞬で魔獣をさいの目切りにしてしまう。

 剣豪衆は総数30人しかいない剣術集団であり、その全員が規格外の『怪物』揃いなのだ。


 ・・・・・・


 マリーナは単独で魔獣達が通ってきた道を歩いていた。


 平地エリアの方はインセクターと残りのエルフ軍が合流して、魔獣の数を順調に減らしていた。


 そして、平地エリアから数km離れた場所で足を止めた。


「いるのは分かっている。出てこい」


 マリーナは剣に手を掛けた。


 

 背後からいきなり見えない一撃が飛んで来た。



 悠々と躱し、見えない敵と対峙する。


「なるほど、【隠密】系スキル持ちか。通りで確認出来ない訳だ」


 【隠密】スキルにはいくつか種類がある。


 ただ姿を隠す【透明化】、気配をも隠す【気配遮断】、そもそも存在自体を認識させない【認識阻害】、これらは全て【隠密】系スキルに属する。故に、全ての【隠密】系スキルが使える可能性もある。


 今回の魔獣はそれらを持ち合わせたユニークタイプだ。


 分かるのは巨大な足音と攻撃してくる風を切る音だけで、視覚は完全に役に立たない。連続して放って来る攻撃は一発で岩交じりの地面を粉砕し、直撃した衝撃波で周囲の木が大きく揺れた。



 しかし、マリーナは躱しながら、



「これは厄介だろうな、私以外なら」



 余裕の発言を行い、剣から手を離した。そして、敵に背を向け、その場を後にしようとする。


 魔獣はそれを好機と捉え、攻撃を仕掛ける。だが、


「やはり魔獣か、その攻撃に気付けていない時点で終わっている」



 魔獣の視界が、分断された。

 それだけでは留まらず、各部位の感覚も無くなっていく。


 

 そこで気付いた。

 



 『瞬ノ剣:雪崩』



 姿の見えなかった魔獣が徐々に姿を現しながら、全身がバラバラになって崩れていく。


 魔獣の正体は『ギガンティックスパイダー』。15mの巨体を持つ大蜘蛛で、全身に猛毒を持っている。足から放たれる攻撃も凄まじい超級魔獣だ。


 マリーナの『雪崩』は、一瞬にして敵の全身を切り刻むため、『核』ごと切っている。その点に関して抜かりは無い。


「私の『思考感知』に引っ掛かった時点で、お前は負けていた」


 ギガンティックスパイダーの残骸と生死、周囲の魔獣反応を確認し、その場を後にした。


 ・・・・・・


 平地エリアでは戦況は終盤を迎えていた。


 魔獣を確実に減らす一方で、多くの負傷者、重傷者が出始めた。体力が切れて動きが鈍くなった隙を付かれ攻撃された者が多数出たからだ。剣豪衆やビクトールは全く問題無いが、エルフ軍やインセクターはそうは行かなかった。怪我を負った者は即座に『黄金の大兜』の内側に逃げ込み、治療を受けていた。


 味方の数が減った事で、残ったエルフ軍の負担が徐々に増え始める。流石のエルも悪態を付いた。


「このままだとジリ貧か、エルフ軍は下がらせるぞ!」

「その必要は無い」


 そこに、ビクトールが現れる。魔獣の返り血で全身赤く染まっていた。


「ここから先は私の独壇場だ。良く見ておくといい」

「っ!! 全員ビクトールの射程から退避!!」


 エルの指示で剣豪衆とエルフ軍が一斉に離れた。


 ビクトールはクラウチングスタートの構えを取り、力を貯める。


「行くぞ魔獣共!! これが私の全力全霊!!!」


 背中の羽を全開にする。そして、貯めた力が最高点にまで達し、一気に放出される。



 『無限特攻・甲鉄超流星』!!!!!



 視認など出来ない速度で突進し、有り得ない軌道を描きながら魔獣達を粉砕していく。後から発生する衝撃は追い打ちとなり、魔獣の原形を残す事も許さなかった。


 残り3000の魔獣は数分足らずで駆逐され、残ったのは血だまりだけだった。


 そして攻撃が終わったビクトールは山の斜面に激突し、大穴を開けて沈んでいた。


 ビクトールはモゾモゾと動きながら、


「か、身体が動かん……」


 そこへ戻って来たマリーナがビクトールの傍に近寄っていた。


「甲鉄超流星なんか使うからですよ。本来20秒しか使えない技を数分使ったんですから、動けなくなるに決まってます」

「ふ、ふふふ、次までにはもっと鍛えておかねばな……」

「出来れば本当にいざという時以外で使わないで下さい」


 ビクトールを引っ張り出していると、空からフワフワと『精霊』が現れた。


『貴方達のおかげでヴァン大森林は荒らされずに済みました。本当にありがとうございます』

「ギガンティックスパイダーは卵を産んで大繁殖するみたいですので、早々に討伐できて良かったです」

『それもありますが、魔獣の大量発生でこの大森林の生態系も大きく崩れるところでした。本当に感謝しています』

「我々は当然の事をしたまでです。よっと」


 何とかビクトールを引っ張り出し、ゴールデンマッスルを呼んでビクトールを搬送させる。


「では我々はこれで、朝からお騒がせしました」

『今度はゆっくり来て下さいね。歓迎します』


 マリーナは一礼して、精霊と別れた後、剣豪衆と合流した。



 こうして、5時間に渡る大量発生スタンピード最前線フロントラインは幕を閉じた。


 負傷者、重傷者多数だったが、死者0名という功績を残したのだった。


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