4告白という名の爆竹を、

「それで、君は父親が遺した筈の名誉を作ろうとしている、あってる?」

「君はなんでもお見通しなのか。なぁ、それ、どうやって知ったんだよ。そろそろ教えてくれ。」

「まぁまぁ、物事には順序が大切なんだよ。焦りは禁物。とりあえず、波瑠はさ、最後の物語を書こうという意志はある。でも、それを書いてしまえば全てを失う……例え、どれだけ書こうと願っても書けないってところかな。」

「ああ、そうだよ。その通り、って言えば満足?最期の作品が売れなければ、意味がない。売れることにしか意味が無いんだよ。」

「あーあ。それだといつまで経っても書けないね。これだから、利益にしか目がない人は。」

 右京は首を横に振る。それから、コーヒーに救いを求めるように、一口飲んだ。

「お前には関係ないだろ。もう帰っていいか?プロットを用意しないといけないんだ。夏休みが終わるまでに。」

「焦らない、焦らない。君が書けるようにしてあげるって言ってるのに、それはなんだか酷くない?」

「お前に、そんなこと、出来るはずないだろ。」

「……私ねぇ、父さんと弟がいたの。まぁ、どっちも死んじゃったんだけどね。」

 右京は、満開に笑う。

 まるで、好きな人と付き合うことができたみたいに。

 まるで、初めて幸せを理解出来た少女のように。

 俺はこう思った。はぁ?頭おかしいんじゃねえの、こいつ、と。笑顔で父親や弟が死んだことを打ち明けるなんて、狂ってる。そういや、最初に言葉を交わした時も、意味不明なこと言ってたし。そんなことを考えつつも、頭の隅のどこかしらでは、彼女の笑顔が可愛いなんて思ってしまう自分もいた。

「人って死ぬ時は呆気なく一瞬だよね。蝉だって、なんだって、生き物はそうだけど。波瑠はよく知ってるよね。命がどんなに脆いか。その目で、見たもんね。」

「なんで、お前がそれを。いや、最近知り合っただけのお前に、俺の何が判るって言うんだよっ!?」

 バンッ。俺は感情のままに、机を思いっきり叩いた。もう残りも少なくなったコーヒーが零れそうになる。右京は驚きもせず、静かにゆっくりと瞬きをした。それから、揺れるコーヒーを覗き、砂糖を入れてぐるぐると掻き混ぜる。魔法の粉を入れたかのような手つきで。

「ふふ。私は、波瑠のこと、ずっと見てたよ。小さい頃からね。でも、君はもう、忘れちゃったんだね。」

 彼女は、寂しい目をした。その目で、レンズの奥の俺の瞳を直視した。そして、俺もまた彼女の透明な瞳から目が離せなかった、

「私、波瑠の小説、好きだよ。ついでに言うと、波瑠のことはもっと、好き。」

 思いがけない返答が耳を貫く。魔法の粉ならず、魔法の言葉だ。彼女は俺の方を見て、ニヤッと笑った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます