1問い、正しい本物の愛とは何か。

 暑い夏の青空の下。八月の五日。五日間の補習の最期の日。補習を迫られ、学校に足を運んだのは高二になった俺と隣のクラスの彼女だけだった。

 腹が餌を欲した頃、ようやく補習は終わった。

 カバンを持って、だるい足を引きずりながら、学校を出る。学校が坂の上あるせいで、百段階段なんてものがある。嗚呼、地獄だ。なんでこんなとこに学校なんて作るのか。東京のくせに。東京とは言えど、都市からは離れている。学校や、学校の隣にある病院からは海も望める。風がまだあるだけマシか。BGMの蝉の声にも苛立ちながら、階段に足を伸ばした。のろのろと階段を下りる。

 残りが十段くらいになった時、ふと後ろに影ができた。必然的に振り返る。一緒に補習を受けていた彼女が視界に入る。

 五月蝿かった蝉の声は、空気を読む様にフェードアウトされてゆく。蝉も、風も、太陽も、演出のように、先に口を開いた彼女の味方をした。

「ねぇ、本当の愛ってどうやったら知れると思う?」

 逆光のせいで彼女の表情は窺えなかったが、哀しく泣いているような、そんな感じがした。

「何?いきなり。」

 構わず、愛想のない声を突きつける。汗が頬を滑る。

「ふふ。じゃあ、聞き方を変えるわね。君は、本物の愛……いや、正しい愛ってなんだと思う?」

 言葉に詰まる。どうして、突然そんなことを。何故、俺に?何故、今?何故。

 暑さで頭が回らない。いや、補習で疲れているからか。

 混乱する俺をそっちのけして、彼女は歩むことを再開した。涼しい顔のまま、スタスタと俺の隣を通り過ぎていく。そのまま最後の段を下りきった彼女は、一度振り返って告げた。

「答えは、本当にわかった時でいいわ。ずっと、いつまでも、待ってる。そうそう、この近所で行われる明日の古本市、付き合ってよ。君、どうせ、暇なんでしょ?うーんとじゃあ、十三時にここ集合で。それじゃ。」

 彼女は俺に有無を言う暇さえ与えず、台風のように去っていく。

 蝉は役目を終えたかのように、叫ぶことを再開した。でもそれは、俺の耳にはもう届かなかった。

 歯車は音もなく動き出した。

 これが俺、左東波瑠(さとうはる)と右京瑚珀(うきょうこはく)の始まりだった。

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