正しい愛の見つけ方

紺碧

プロローグ

 九時四十五分。そろそろ彼が来る時間だ。

「こんにちは。」

 来た。よくもまあ、毎回機械のように時間ぴったりに来るものだと思いつつ、私はすぐに接客へ移る。

 蝉の声に負けないように、いつもの挨拶を。

「いらっしゃいませ〜」

「すいません。これ、予約していたモノで、いつも通りお願いします。」

 素っ気なく、彼は私にメモ用紙を差し出した。

「はい、すぐご用意させていただきますね。」

 そう言って、メモを受け取り、作業場に行く。

 ここは、私が経営する花屋。そして、彼はこの店の常連さん。始まりは今日から二年前。突然訪れるようになった。迷い込んだといった方が正しいのかもしれない。一週間に一度、いつも九時四十五分ちょうどにここへ到着する。

 今日の花は季節外れのスズランだった。準備が終わり、会計に移る。

「いつもありがとうございます。」

 と言って花を渡す。お辞儀をして、彼の遠ざかる背中を見た。

 彼は誰に、何の為に、花を贈ってるのだろう?

 ふと頭を過った疑問は、仕事に追われるうちに溶けていった。しかし、スズランの花言葉だけは脳裏にこべりついたままだった。


 *


 物語を歩む。彼女を連れて。

 二年前の今日にタイムスリップするように。

 出逢いと別れの十日間。

 病室の窓際に座っている、スズランを一瞥して。

 海に潜るように、息を深く吸って。

「────」

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