其の弐
「ミキ?」
「どうした」
「はい。こうしてのんびりするのも嫌いじゃないですけど……ずっとこのままって訳にはいかないですよね? これから何するんですか?」
「お前……」
「あれれ? どうして頭をっ! 痛い痛い!」
横で寝そべっていたレシアの頭に腕を回し固定するなり、ミキは拳をグリグリと彼女の頭に強く押しつけた。
「当初の目的地は?」
「……王都です」
「そこで何をするんだ?」
「……知りません。痛い、痛いですって!」
全力で暴れる馬鹿に躾をし、ミキは深くため息を吐いた。
「集めて保護しているらしいシャーマンをどうするのか確認をする」
「……それで悪い感じだったらどうするんですか?」
「ファーズンと喧嘩する前に練習するのも悪くない」
「ミキ~」
彼の腕を潜り抜け、レシアは相手の背中に登ると馬乗りになった。
「もう! 危ないことをどうして楽しそうに言い出すんですか! このこのこの!」
「背中の上で暴れるな」
「ミキが悪いんです」
「……もう少し右が良いな」
「ここですか? ってマッサージじゃありません!」
憤慨しつつもグイグイと言われた場所を押すレシアだった。
その絶妙な押し具合に感心しつつも、ミキは少し真面目に思案し始めた。
「ファーズンは何かしらの企みを持ってシャーマンを集めている。だがアフリズムがシャーマンを集める理由などあるんだろうか? そう考えると王都に行く前に少し話を集めた方が良さそうだな」
「ちょっミキ~」
急に彼が立ち上がったせいで、レシアは背中の方からコロンとベッドの上に転がり落ちた。
起き上がった彼は窓の外に目を向け、日が沈んでいるのを確認する。
「飯に行くか」
「……」
「少しは慎ましさを覚えろ?」
「……ミキ~」
両足を開脚してひっくり返っているレシアが、その無駄に優れた身体能力を発揮し立ち上がると彼に向かい襲いかかった。
「鳥さん」
「こけぇ?」
「共食いですね」
「ごげぇ~」
プンプンと頬を膨らませて不満げなレシアが押し込むように、七色の球体に鶏肉を押し込んで行く。自身は羊の肉を皿に山と盛って口に運んでいる。
拗ねた相手はとりあえずそのままで、ミキはカップを手に酒を振る舞い話を拾い続けている。
そんな彼を終始目で追いながら……レシアは膨れっ面で5人前の肉を全て食べきった。
「結果としては……どう判断するべきかって具合だな」
ベッドを椅子にして足を伸ばして思案する彼の隣で、レシアは膨れたままユラユラと左右に揺れ動く。
付いては離れてを繰り返す相手にイラッとしたミキは、黙って彼女の尻に手を置いて動きを止めた。
「言いたいことは口にしろ」
「……」
「何だ。あの日か」
「違います!」
ガバッと体を起こしてレシアは相手の目を見た。
「最近のミキは私に対して優しさが足りません。もっとこう……甘やかしても良いとおっ! いたひっ!」
ガシッと馬鹿なことを言う正面の顔を掴んでミキは黙らせた。
「どんなふざけたことを言い出すかと思えば……お前は甘やかせば甘やかすほどつけあがるだろう?」
「うにゃにゃ~。でもでも最近は冷たいです! 優しかったのは昨日ぐらいじゃないですか!」
「……つまり甘えたいと?」
「うな~っ!」
ジタバタと暴れる相手に息を吐き出し、ミキは顔を掴んでいた手を動かし頭を掴む。
膨れっ面の彼女は、ひと目で不満そうだと理解出来る。
「……本心を言え」
「…………最近旅をしているだけで面白くないです。私はもっと色々な物が見たいです。人助けが大切なのも分かってます。分かってますけど面白くないです」
「確かに前回の砂漠の一件は面白さも何も無かったしな」
「はい。でも鳥さんが最後に見せてくれた光の雨は綺麗でした」
そっと手を放すと彼女はそのまま抱き付いて来る。
特に見る場所が少ない南部は……レシアを満足させられる出来事が少ない。
「王都に行けば踊りが盛んらしいからお前も見応えがあると思うが……」
「が?」
「さっき拾い集めた話から考えると、何となく王都に行く気が失せて来た」
「ミキ?」
体の上に乗って来てレシアが彼の顔を覗き込む。
自分も刺激を求め愚痴を言った都合、相手に強く言えないが……少なくても今回はシャーマンたちを救い出すのが目標の人助けである。
「分かってはいるんだがな……お前の厄介事を引き寄せる能力も知っているからな」
「ミキだって色々と呼んでいると思います」
「否定はせんよ。ただ今回は間違いなくお前が厄介事を呼び寄せるはずだ」
言ってミキは彼女の肩に手を乗せ、クルッと体勢を入れ替える。
組み敷いた相手をミキはじっくりと観察する。
伸びて来た髪は長く清らかで、何よりその顔の形は整っている。可愛らしい振る舞いが多いが基本彼女は美形だ。
「あの……ミキ? 何か視線が……ミキ?」
首筋から下へ視線を向ければ、仰向けになっても形の良い胸の膨らみが分かる。そしてその下に行くとくびれた腰と女性特有の肉感のある臀部へと繋がり最後は白く細い足だ。
何処に出しても恥ずかしくない一級品の容姿を誇っている。
「ミキミキミキ……黙って見られているのは恥ずかしいです」
頬を紅くして恥ずかしがる姿など本当に愛らしい。
それだけに余計王都に連れて行くのが怖くなる。
曰く……『王都に居る王弟とやらは、とにかく無類の女好き』らしい。
それを知ったミキは、厄介事が手ぐすねを引いて待っているように思えた。
(C) 甲斐八雲
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