其の拾壱

「む~」

「どうした? そんなに拗ねて?」

「拗ねてません。ミキがミキらしく無いことを言うのが悪いんです」


 復讐の手伝いを約束したミキは、その足で王都行きの隊商の護衛の仕事を破棄して貰う手続きまでした。

 この一件が片付くまでダンザムに残る覚悟を決めたのだ。


 そこまですると相手が本気であると理解し、レシアは終始不満げな態度を見せる。


 時は夜、グーズン兄弟はたまの贅沢だったらしく今宵の宿はもっと安い場所へと移動していた。

 多少揺らしても苦情など来ないはずだが、不満全開なレシアは一緒のベッドに寝てても彼に近づかない。


「らしく無いか……そうかもな」

「ぶ~」


 拗ねる彼女の頭を撫でてやると、一瞬迷った様子を見せたが素直に甘えて来る。

 相手には態度でなく言葉で伝えないと理解出来ないと知るミキは、心の内を語ることにした。


「彼らの復讐を手伝えば、シャーマン集めのことを知ることが出来ると思うんだ」

「……また無理やり聞くんですね?」

「素直に話してくれれば何もしないさ。相手次第だろ?」

「そうですね」


 束ねている髪を解いていたレシアの頭は撫でやすく、ミキは心行くまで撫で続ける。


「詳しく聞いて集めたシャーマンたちに酷いことをしているのなら助けてやらないとな」

「……」

「たとえお前とは関係ない人たちと言っても同じシャーマンだ。お前だって心のどこかに『助けてあげたい』って言う気持ちはあるだろう?」

「はい」


 擦り寄って来たレシアが彼の胸に顔を乗せる。


「なら決定だ。俺は復讐の手伝いをするついでに『何故シャーマンを集めるのか?』を調べる。そして理由によっては王都に乗り込んで彼女たちを助け出す方法を考える」

「国王様を斬るんですか?」

「それはあくまで最終手段だ。最初からそのつもりで行く気は無いよ」


 それに実際できるとも思っていない。

 たった一人で相手の懐に飛び込んで命を狙う……自殺行為でしかない。


「ならミキはシャーマンを助けるために手を貸すんですね?」

「そのつもりだ。ただしそれが理由だとあの二人に対して悪いだろう? だからあくまで理由は復讐の手伝いだ」

「ミキはいつもそうやって嘘で言葉を固めるんだから」


 ウリウリと彼の胸に顎先を擦り付け……フニャッとレシアは笑った。


「でもそれだったら私も何て言うか手伝いたいって気持ちになります。いいえ手伝います。やりますよ~っ!」


 両手を胸の前で握り締めレシアは体を起こしてやる気を見せる。


「ああ。お前は何もするな」

「ですよね。分かってましたよ? って分かるか~っ!」


 ポカポカと握り締めた拳を振り下ろし彼の胸を打つ。

 面倒臭くなって彼女の手握ってミキは黙らせる。


「下手なことしてお前がシャーマンだと知られる方が厄介だ。とりあえず南部に居る限りお前は黙って踊らず静かにして居ろ」

「私に死ねと?」

「本当に殺されるかもしれないんだ。我が儘を言わずに静かにしててくれ」

「ぶ~」


 結果として始まりに戻り彼女は拗ねて膨れた。

 それでもミキとしたら大切な者を喪うよりか遥かに良い。


「拗ねるなよ」

「ぶ~です」

「……怒った顔は可愛くないぞ?」

「どうせ私は可愛くないです」


 クスッと笑いミキは上半身を起こすと、彼女を腕の力で運び自分の腹の上に座らせた。

 息も届く距離でジッと見つめられるレシアは……段々と恥ずかしくなって顔を背けた。


「全くお前は……本当に見てて飽きないな」

「何ですか、も~」

「飽きないよ」


 ギュッと抱き寄せて相手の横顔にキスをする。

 頬に押し付けられた唇の感触にレシアは軽く微笑むとその顔を彼に向けた。


「ほら可愛い顔が見えた」

「……ミキはズルいです」

「そうだな。だからお前の色んな表情を引き出せるんだろうな」

「ぶ~です」


 また拗ねてレシアは相手の胸に手を置くと彼を後ろへ倒した。


「踊れない分、ミキに頑張って貰います」

「部屋の隅で踊れば良いだろう?」

「ダメです。それに……ごにょごにょ……」

「何だって?」

「何でもありませんっ!」


 また怒って軽く相手の胸を叩く。

 結局レシアは彼の上で踊り続け……しばらくすると満足して眠りこけた。




「護衛が居るらしいんです」

「そりゃそれぐらい居るだろうな」

「そうじゃ無くて……凄腕の護衛が」


 そんな話を持って来たのはカムートだった。


 二人は今回の為に、今まで小さな街を周り芸の腕を磨きながら独自の人脈を作って来た。

 何でもその人脈の一つから『凄腕の護衛』と言う話が来たらしい。


「ならその護衛は俺が引き受ける。それで文句は無いだろう?」

「そりゃ文句は無いですけど……平気ですか? 話だと西から来たそうです?」

「西だろうが北だろうが東だろうが別の場所だろうが……人の形をしていれば文句は言わんよ。ああ。巨人とかなら止めてくれ。あれは刃が届きそうな気がしない」

「そんな化け物は南部には居ませんって」


 ミキの本気を冗談として受け取ったのか、カムートは呆れた様子で肩を竦めた。

 それからは雑談がてら適当に話しつつ色々と話を詰めていく。


「最悪は相手の屋敷を強襲するしかないな」

「ですね」

「流石に壁を越える方法を考え無いとな」

「そっちは兄さんがどうにかします」

「どうにかなるのか?」

「はい」


 自慢気に弟が頷く。


「俺の兄さんは本当に凄い人なんですから……今度見せてあげますよ」




(C) 甲斐八雲

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