3.4.4 生への渇望

――王国歴 301年 初夏 アニュゴンの街


「あたしらが家に住めるなんて、信じられへんな」

ヴェルナはベットに寝そべり、窓から通りを行き交う人々を見ながら呟く。


「ああ、服役軍人の頃とは大違いだ。しかし、まだ始まりにすぎないぜ。俺はもっと出世して豪邸に住むんだ。そして、美女を侍らせて……あはは、笑いが止まらねえ」

隣にいるシルバが興奮気味に喋り、突然笑い出した。


「昨日、あんなにも激しく愛してくれたのに寂しいこと言わんといてや。まあ、あたしは仲間が幸せに暮らせれたらそれでいいんやけど……そういや、ラクシャとアイラはシュバイツ伯爵領に着いた頃やね、元気にしているかな」


「大丈夫だよ。王女と兄貴ザエラのお供なんて楽勝だぜ。今頃、白エルフの美女に歓待されているだろうよ。ラクシャの奴め、羨ましすぎる」


「アイラが心配やねん。あたしらがいないと気持ちが不安定になるやろ……前みたいな事件を起こさなければいいんやけど」

ヴェルナの話を聞くと、シルバの表情が一瞬曇るが直ぐに元に戻る。


「前の戦場では俺たちとアイラは離れていたが、あいつは平然としていただろう?医療班に参加してから成長したんだ。可愛い子には旅をさせろってな。いざとなれば兄貴もいるし安心だよ」


「そうだといいんやけど。戦争が終わった後ほとんど話せなか…うっ」

シルバは話を続けようとするヴェルナの唇を奪う。


 ヴェルナは慌てて窓のカーテンを閉めてシルバに抱き着いた。


――王国歴 301年 初夏 シュバイツ伯爵家 地下牢


「……起き……ださい。ザエラ様、起きてください」

耳元で囁く女性の声で目が覚める。


 アイラが俺に跨り見下ろす姿が目に入る。彼女の一糸まとわぬ姿がランタンの灯りに浮かび上がる。その目は冷ややかでまるで軽蔑しているかのようだ。そう、診療所で口付けをした後に見せた表情だ。


「腕が……身体が動かない……どういうことだ」


‟除痛”リムーブ・ペインの効果ですよ。この魔法は痛覚だけでなく神経を麻痺させます。しばらくは身動きが取れないはずです」

と言うと、自ら唇を合せて来た。冷たい感触が唇に残る……顔の神経は麻痺していないようだ。まるで俺を堪能するかのように、唇を吸い、舌を絡ませる。


「ふう」、彼女は満足したように顔を上げる。そして、指を口に加える。唾液を絡ませた指を股へと這わせると俺の下半身に擦り付けて来た。


 顔は紅潮し瞳が潤む。喘ぎ声を押し殺しながら腰の振りが激しくなる。波打つような快感に襲われ、俺の男根が首をもたげる。


「貴方のここも神経は残しているわ。どうしようかしら」

俺の男根を手で握りしめると自らの秘所に擦り付ける。彼女のひだに包まれる快感のあまり俺は思わず喘いだ。


「ふふ、入れてはあげないわよ。貴方なんて男なんて大嫌いよ」

と耳元で囁くと再び腰を振り始め、両手で俺の首を絞める。


「私たちが絶頂に達する瞬間に絞め殺してあげるわ」


 アイラは瞳から涙をこぼしながら笑みを浮かべる。普段の大人しく真面目な面影は全く見られない。目の前には彼女の闇が広がる……彼女が過去に強姦されたとジレンが話していたことを俺は思い出した。


 首の骨が音を立てる……鬼人の力は女性でも侮れない。意識が朦朧としてきた。このままでは確実に死んでしまう。


 体は動かない、魔法も使えない、藁にもすがる思いで辺りを見渡すと――相部屋の囚人のベットから見開いた瞳がこちらを凝視していることに気づいた。


 なんだ?こいつ目を覚ましていたのか。表情こそ変えないが鼻の下が伸びている。なんて間抜け面だ……しかも、盛大に下半身の毛布が上下に揺れているじゃないか。い、いやだ、こいつのおかずで死ぬのは絶対に嫌だ。


 俺は顔から魔力糸を伸ばし、自らの男根を縛る。そして、彼女の腰の律動リズムを頭の中で数える。一、二、三、二、一 、二、三、今だ――彼女の下半身が振り子のように手前に来た瞬間、俺は魔力糸を操作し男根の角度を変えた。


 「あ、あぁん」、彼女の喘ぎと共に男根は熟れた肉の塊に包まれる。すかさず、俺は男根から彼女の膣内なかに魔力を放出する――彼女は背中を覗けらせて絶叫した。


 よし、後は彼女が気を失えば腕の力は抜けるだろう。これで一安心と思いきや、首への締め付けは緩くなるどころかますますきつくなる。やばい……目がかすんで来た。意識が飛びそうになる瞬間、腕から力が抜け、彼女の体が覆いかぶさる。


◇ ◇ ◇ ◇


《おい、兄やん、起きろ。まもなく衛兵がこちらに来るぞ》

念話の声に目を覚ました。気を失ってからどれ程経つのか?


《まだ、数分程度だ。お嬢ちゃんの絶叫の後、衛兵の鎧の音が近づいて来た》

慌てふためく俺の心を見透かしたように念話が続く。


 直ぐに全裸のアイラを抱き抱え、簡易ベットの上へと寝かせる。毛布を肩まで掛けて肌の露出を防ぐ。そして、ベットに戻ると毛布を深くかぶり寝たふりをする。体が動くのは彼女が失神して‟除痛”が解除されたためだろう。


 衛兵が現れ、牢屋の中を覗き見る。しばらく、こちらを見つめた後、首を傾げながら離れていく。鎧の音が遠くなるのを毛布に包まり静かに聞いていた。


《危機一髪だったな。それにしてもいいもの見せてもらったよ》

囚人が手をこちらに上げ、澄んだ瞳で微笑む。


 やはり、相部屋の囚人からの念話か……すっきりした顔しやがって……機会を見つけて殺しておくか。それにしても、なぜ、念話が繋がるのだろうか。


《どうして念話ができるんだ。魔力波長を特定したのか?》

《人族で念話ができるとは只者じゃねえな。まずは俺の話を聞いておくれよ》

彼は俺の質問には答えず、身の上話を始めた。

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