3.3.30 東方軍 邪魔者

――王国歴 301年 仲春 ガルミット王国 東方軍 アリエル中将の私室


本陣における軍事会議が終わり、右翼のアルゴン少将、左翼のサムエル少将はアリエル中将の私室を訪れている。


「敵の竜騎士を操るとは、あんたの神威は見事だな。反転して敵本陣へ突撃したのだから、敵も大慌てだろう」

アルゴン少将は、全裸のアリエル中将の青白い乳房を揉みながら、本日の勝利を称える。体格の良い彼が腰を動かすたびにベットがギシギシと音を立てる。


「しかも、敵本陣まで到達するとは驚きだ。レナータ公女を倒せなかったのは残念だが、敵兵力を大幅に削り、相手に恐怖を与えることができた。陣容の立て直しの間は休めそうだ」

サムエル少将はベットに端に腰を掛け、興奮気味に話す。彼はすでに一戦を終え、全身から吹き出る汗を拭きながら、水を飲む。


「あなた達も私の血針を受けてみる?敵本陣を攻め落とせるかもしれないわよ。……アルゴン、そろそろ出してよ。貴方の体は重たいわ」

アリエル中将が膣を締め付けるとアルゴン少将はたちまち絶頂した。


アルゴン少将は彼女から体を離し、隣に横になると、

「あんたは相変わらず淡白だな。まあ、シュミット家の種が欲しいだけなんだろうが。ミハエラとはご無沙汰なのか?」

と意地悪そうにアリエル中将に問いかける。


「あの人とは同じベットで寝たことはないわ。若い女に夢中で別邸を用意して、公務以外は話すこともない。結婚は跡継ぎを産むためよ、彼に何も期待していないわ。あなた達がいるから、むしろ邪魔ね」


「怪しそうな街娘を捕まえては拷問しているのを知っている。心の中では悔しいんだろう?だったら、俺達が手を貸してやろうか。神威が使えるというだけで本家の次期当主に選ばれた弟を俺達も気に喰わない。あんたとあんたの兄君クロビスも神威に目覚めた今となっては、死んでも困らないだろう」

その言葉を聞くと、アリエル中将は冷たい眼をしてアルゴン少将を見つめる。


旧当主代行のクロビスがスカーレットの殺人容疑で地下牢に繋がれたとき、アリエル中将は愛しい妹を殺された憎しみで激しい拷問を加えた。その快楽に夢中になり、気が付くと神威に目覚めていた。


また、クロビスも拷問を受ける苦しみと憎しみで神威に目覚めた。神威は強い感情により発現するという伝承は正しいらしい。


「混戦になると味方の誤射を受けることがあるわ。ミハエラも例外ではないわね」

「ああ、セリシア少将の死亡で士気が低い今が好機だと思うぞ」

アリエル中将は赤い針を生成するとアルゴン少将に渡した。


「これが刺されば、狂暴化して敵味方区別なく暴れ出すわ。さあ、サムエル、もう一戦できるわよね、こちらにいらっしゃい」

サムエル少将は水を飲み干すと、気合を入れてベットへ潜り込んだ。


――レナータ陣営 ラクシャ早朝練習


ラクシャは水竜刀を地面に差し、前方の標的近くに刀身を出して標的に当てる訓練を続けていた。先日のザイファ大佐との戦いでは成功したが、地中に剣を走らせるため、距離感を掴むのが難しい。


「レナータ様がお前にその宝具を下賜されたと聞いたときは飽きれたが、風と水の魔法で何とか使いこなせているようだな」

エイムス少将が騎馬で現れ、ラクシャに声を掛けて来た……が、彼は答えることなく訓練に打ち込む。エイムス少将は下馬して近づいてきた。


「……しかし、その刀の本来の使い方とは程遠いな、教えてやろうか?」

「この刀はやらんぞ」

「当然だ、レナータ様が下賜されたものを奪う程、礼儀知らずではない」

「不自由だな」

ラクシャはそう呟きながら、水竜刀をエイムス少将へ渡す。


「私の血族魔法は氷結でな。基本的な使い方は氷の剣だ」

と言いながら、エイムス少将は水竜刀から流れ出す水を凍らせて氷の剣を生成する。


「単純ではあるが、折れても再生でき、血糊が付いても切れ味が変わらないので十分効果がある。さらに応用すると……」

エイムス少将が魔力を込めると氷剣の刃が複数個所折れ、刃の破片同士は水でつながる。まるで、蛇腹剣のように、刀身が伸縮自在に伸びる。


「これは、複数の敵を倒すに向いている。また、相手を拘束することもできる。あとは、刀身を渦状に巻きつければ防具としても使える」

と言うと、刀身が渦状に円形となり氷結の盾へと姿を変える。


「……なぜ実践で使わない?」

不思議そうにラクシャは問う。


「個人戦ではなく、戦略魔法による大軍の殲滅が主流の戦術だからだ。私のような宗家の跡取りは、剣術ではなく戦略魔法を優先的に学ぶのだ」

「だから、あの時は震えていたのか」

ラクシャはエイムス少将が先日の戦いで手を震わせていたことを思い出した。


エイムス少将は恥ずかしさで顔を紅潮させ、

「ああ、そうだよ。初めて個人戦、しかも、竜騎士のザイファ大佐だ。生きた心地がしなかったさ。あの方レナータ公女がいなければすぐに逃げていた」

と言い放つと、金貨の詰まった袋をラクシャの前へと放り投げた。


「あの方を守れる剣術を身に付けたい。その金で訓練を付けてもらえないか?」

「わかった。代わりに俺に氷の魔法を教えてくれ……金は返さないが」

「一般の氷の魔法を教えてやろう。訓練場所はこちらから指定する」

ラクシャはエイムス少将の言葉にうなずきながら袋を握りしめて金貨を数える。


(ふふ、予定通りにことが運んだ。やはり、こいつは金に卑しい奴だ。訓練期間中にあの方に気に入られている理由を調べてやる。そして、隙を見つけて……殺す。こいつさえ死ねば、あの方の眼差しは婚約者フィアンセの私に移るはずだ)

エイムス少将は水竜刀をラクシャに返すと軍馬に騎乗しその場を後にした。

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