3.1.13 要塞戦 戦端

――王国歴 300年 夏 ザルトビア要塞前 主戦場 午前


軍馬に騎乗したベルナール公が、自軍を前に激を飛ばす。初めての出来事だ。整列した兵士達に緊張が走る。


「グロスター伯爵家次男、ベルナール・フォン・グロスターだ。イストマル王国はかつて我が祖国から姫君を奪い温暖で豊かな南部を占拠した反乱軍の末裔だ。彼らはまた我々の大切なものを奪いに来た。この要塞を通せば、我々の領民は略奪を受け、尊い命が奪われるであろう。それを阻止するのは、君たちグロスター公爵家の騎士だ。本日は総攻撃を行い、反乱軍を撃破する。さあ、我らが領土に足を踏み入れたことを後悔させてやるぞ」


「ガルミット王国万歳!、グロスター伯爵家万歳!」


兵士達の歓声が渦となり戦場を埋め尽くす。彼が剣を振り上げるとピタリと歓声が止まる。そして、敵陣に向かい剣を振り下ろすと、兵士達が叫びながら一斉に前進を開始した。


――イストマル王国 第五旅団本陣


「敵の様子が変です。いつもは深入りせずに自陣へと引き込もうとするのですが、本日は前線を押し上げて来ます。総大将であるベルナールが我が部隊の前線にて確認されました。雷槌隊を率いております」


第五旅団長のアンガス少将は前線からの伝令兵の報告に目を見開いた。咳をしながら震える声で指示を出す。

「前線は重装歩兵を前面に密集させて防御に徹底させよ。魔導兵は前線の兵士へ防御魔法を優先させるように」


また、別の伝令兵を急いで呼び寄せ第七旅団長への援軍要請を命じる。


(血族魔法‟雷鳴"の戦略魔法はすさまじい破壊力と聞く。我々ではなく第七旅団へ向かえばよいものを……)

アンガス少将は不安そうに前線を見つめていた。


――ベルナール公率いる雷槌隊


ベルナール公と雷槌隊は敵の前線を突き崩しながら第五旅団の本陣へと突き進む。目の前に敵の重装歩兵が幾重にも並び巨大な盾を前面に並べ立ちふさがる。後方には魔導兵も控えており防御魔法が展開されている。


「戦略魔法で一掃するぞ、詠唱を合わせろ」

ベルナール公と雷槌隊は軍馬の速度を落とし詠唱を始めると、突然空が陰り敵の頭上に雷雲が現れる。


戦略魔法‟原初の雷ライトニング・オブ・ガイア”が発動されると前方の敵兵の頭上に雷鳴と共に無数の雷が振り注ぐ。目の前の重装歩兵も後方の魔導兵も白い煙を出して絶命した。焦げ臭い匂いが辺り立ち込める。


「金属は雷を引き寄せる、魔法耐性も防御魔法も我ら雷の前では無に等しい」

「素晴らしい魔法でございす。空にとどろく雷鳴が、神の遣いである天使の裁きの声に聞こえました」

グリッドは顔を紅潮させ、馬から身を乗り出してベルナール公へ話しかける。


「落馬して、お主まで裁かれるなよ。私を悲しませるでない」

ベルナール公は馬から身を乗り出すグリッドの体を支えながら耳元で囁く。


◇ ◇ ◇ ◇


ベルナール公と雷槌隊は目の前の屍を乗り越えると速度を上げる。すぐに第五旅団の本陣の旗が見えて来た。


「このまま本陣に突撃する。雷槌を準備しろ」

ベルナール公が叫ぶと雷槌隊は武器を手に持ち鬨の声を上げて突撃を開始した。


――イストマル王国 第五旅団本陣


ベルナール公と雷槌隊に襲撃され、第五旅団の本陣は混乱していた。本陣を守備する精鋭達が次々を倒されていく。


(まさか、こんなに早く本陣まで到達するとは…第七旅団の援軍は間に合わないか)

アンガス少将は敵騎兵により本陣を蹂躙される様を呆然と見つめていた。


最後に残されたアンガス少将の前にベルナール公が現れる。

「我が名はグロスター伯爵家次男、ベルナール・フォン・グロスターだ」

「第五旅団長、アンガス・フォン・グラハムだ。貴殿が雷獅子と呼ばれるベルナール公か、名に恥じぬ見事な進撃だ」


軽く挨拶を交わしたあと、アンガス少将は剣を、ベルナール公は雷槌を手に取り間合いを詰める。ベルナール公が雷槌を振り下ろすと、アンガス少将が剣で受け止める。その刹那、アンガス少将を雷撃が貫く。彼は意識を失い白い煙を上げながら落馬した。首がねじ曲がりピクリとも動かない。


「若様、一撃で仕留めるとはお見事です。我々では失神させることしかできません」

雷槌隊の隊長は尊敬を込めた眼差しでベルナール公に敬意を示す。


「まだ物足りないな。このまま中央の部隊へ突撃を掛けるぞ」

ベルナール公は更なる進撃を雷槌隊の隊長に命じる。


隊長は部下の様子を横目で見ながら、

「右翼の大将を討ち取りましたが、我々も魔力を消耗しました。本陣に戻り休まれてはいかがでしょうか?後続の兵士に活躍の場を与えるのも上官の務めかと存じます」

と一旦前線を離れて休息することを提案する。


「そうだな。では、後方の本陣へと帰還する。次はグリッドの出番だ」

「はっ、野営地への強襲を只今より開始いたします」

グリッドはベルナール公へ彼の作戦の開始を力強く宣言した。

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