3.1.12 要塞戦 始動
――王国歴 300年 夏 ザルトビア要塞前 グロスター伯爵家本陣
「若君様、早朝からのご鍛錬、我が国の騎士の鏡でございます」
「グリッド、書類を睨むばかりでなく、たまには武芸もしたらどうだ?」
ベルナール公は軽装で軍馬に騎乗し、複数の兵士と雷槌を交えながら実践を想定した訓練をしている。上半身からは汗が飛び、全身から放たれる湯気が朝日に輝く。
なお、雷槌とは細かな装飾が施されたミスリル合金の棍棒であり、雷の血族魔法を継承するグロスター伯爵家に伝わる伝統的な武器だ。
「某の武器は筆でございますので、武芸はお許しください。しかし、若君様のご活躍を隣で拝見できるよう、乗馬は嗜んでおります」
グリッドは部下に引かせていた馬に騎乗してベルナール公に近づく。
「それで、敵陣の様子はどうだ」
ベルナール公はグリッドと馬を並べて彼の耳元で囁く。
「衛兵の鬼人共は上官の
「下等な魔人共を兵士に雇うとは信じられんな。とはいえ、野営地に潜入し火を放つには絶好の機会だ」
「既に野営地に侵入する兵士を東の山頂の監視塔に集結させております。若君様のご指示で直ぐにでも作戦を開始できます」
「では、本日決行する。敵の本隊を引き付けるために私も出陣するぞ」
「畏まりました。若君様のご活躍を執筆できるように某もお供いたします」
晴天の空に登る太陽を背に二人は本日の勝利を確信していた。
――ザエラ小隊長室
ザエラは、副隊長のサーシャ、部隊長のオルガ、カロル、ジレンを招集した。今後に向けた作戦会議を行うためだ。
「ああ、体がなまってしかたない。敵陣に単騎で突撃してやろうかな」
オルガが腕を交互に伸ばしながらぼやく。
「毎日、半日は俺と組手をしているのにまだ足りないのか?」
ジレンはあきれたようにオルガを見つめる。あの事件以来、彼は訓練と称して毎日のようにオルガの組手に付き合わされている。そのためか、腹筋は割れ、随分と体は引き締まった。
「ここ数日で東の監視塔に兵士が終結している。いつ攻めて来てもおかしくないよ」
軽装歩兵隊長として、黒エルフ達と東の森を監視しているカロルが報告する。
ザエラは、おもむろに赤い魔石のピアスを全員へ手渡す。
「これはとある魔人の魔石を組み込んだピアスだ。これに魔力を流し込むことで遠隔で念話ができる。今回の作戦は部隊の連携が大切なので、必ず身に付けておくように。魔石の台座にあるダイヤルを回すことで、通信相手を選んだり、逆に全員に発信することも可能だ」
全員が使えるようになるまでしばらく練習した。シルバも作戦で必要なのでジレンに追加で一つ渡す。後方支援や治療を担当するエミリア, テレサ, ソフィアにも後で渡す予定だ。
ちなみに、この魔石はアルケノイドの額の触眼だ。彼女たちは触眼に魔力を流すことで念話ができる。むしろ、会話よりも念話を主に使用しているらしい。また、上位種であるラピスも念話が使えるそうだ。
これは種族内の秘密で、街で成長したザエラにさえ伝えることは禁じられていた。アルケノイドの増援が到着する前日にサーシャから初めて教えられた。街で生活していたときに感じた違和感の正体をようやくザエラは知ることができたのだ。
「今日から我が隊は野営地に隠れ、敵兵が侵入してきたら一人残らず殲滅する。一人でも逃がすと計画が台無しになるので、細心の注意を払うように。そのあとは魔石で念話するので指示に従ってくれ」
ザエラが指示すると全員慌ただしく天幕を離れ準備を開始する。
《アルビオン小隊長、聞こえるか?》
早速、ジレンから念話が入る。
《感度良好だ。どうぞ》
《俺たちを服役軍人から解放できるというお前の約束を信じて手伝うことにした。裏切ったら許さないからな》
《そうか、俺のマッサージを気に入ったのかと思ったよ》
ザエラの軽口にジレンから返事が来ることはなかった。
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