2.1.20 精霊 ~再会~

――ザエラ六歳 夏 アニュゴンの街 街長オサの家


目を覚ますと窓辺からの日差しが強く、カーテンを開けると太陽が高く昇っていた。

僕はあくびをしながらベッドから起き上がる、体中がなんだか痛い。


(うん、見慣れない部屋だな……)

ようやく頭が働きだした。そうだ、ここは街長オサの家だ。地下迷宮から戻ると、街長オサが僕たちを出迎えてくれた。十階の出来事を話しながら彼女の家へと戻り、勧められるがままに泊まったことを思い出した。


慌てて身支度を整えて階段を下りる。ミーシャとサーシャは街長オサと何やら話し込んでいる。


「ザエラ、やっと起きたか、ちょっとこれを見てくれ」

街長オサはミーシャとサーシャの瞳を指さす。二人の瞳に魔法陣が浮かび上がる――魔眼だ。


「こんなこともできるようになったの」

ミーシャとサーシャの周りに突然、赤い魔石が何個も現れて漂い始めた。


「存在進化……」

二人によると、不死者アンデットの魔石を取り込んだ後、体内の魔石が熱くうずき始め、今朝、目を覚ますと、体中に魔力が満ち溢れていたそうだ。


「文献を読むとアルケノイドの上位種は‟アルシュビラ”と呼ばれていたそうよ」

ミーシャとサーシャはアルシュビラに存在進化したと僕たちは結論づけた。


「ところで、ザエラはどうなの?」

三人がじっと僕の眼を見つめる。


「ザエラの瞳にも魔法陣が薄ら見えるわ、魔石は飛ばせないの?」

二人に感覚イメージを教えてもらいながら試してみると、一つだけ青い魔石を出せた。二人の魔石に比べて大きく、魔導具のような形をしている。


青い魔石を消すと胸に違和感がり、服を脱ぐ。すると青色の魔石が胸に埋め込まれていた。カネツグの体から取り込んだ外装魔石を受け継いだようだ。


「ザエラも存在進化しているのね」

街長オサの言葉を聞いても実感はないが、青い魔石を取り込んで感じた体の違和感は存在進化の前触れと受け取れなくもない。僕は素直に頷いた。


「三人の話を聞いて驚いたけど、ザエラの倒した不死者アンデットが始祖様とはね……」

街長オサは感慨深そうに溜息をついた。昨日の出来事を思い出したのだろう、サーシャとミーシャはまた泣き出しそうな顔をしている。


「ザエラの姿をしていたけど、魔力の波長も声質も全くの別人だったわ。ザエラの中で眠るというのはどういう意味なのかしら?」

ミーシャは僕を見ながら不思議そうに呟いた。


(カネツグの魂を吸収したなんて話せないな)

三人から質問攻めにされる前に退散しようと僕は立ち上がる。


「じゃあ、僕はみんな心配していると思うから、家に戻るよ」

「あ、ザエラ、始祖様の遺品を忘れずに持ち帰るようにね」

僕は挨拶も早々に、荷物を持って街長オサの家を後にした。


――ザエラ六歳 夏 アニュゴンの街 郊外 滝の下の河原


僕は久しぶりに滝の下の河原で訓練をしている。


カネツグから譲り受けた長巻を握り素振りをする。光が当たると細かく何層にも刻まれた魔法陣が透けて見える。それらしく素振りはしているが、師匠は刀に疎く、本に長巻の記載はなく、試行錯誤しているところだ。


(まあ、うちの前衛はみんな独学だけどね……)

武術の師範を呼びたいけれど、こんな辺境に来てくれる人がいるとは思えない。


ラピスは僕の背中で大人しく寝ている。サーシャとミーシャからラピスが黒髪の女性に姿を変えたという話を聞いたが信じられない。


そういえば、二人の魔眼の種類が判明したそうだ。ミーシャは石化の魔眼、サーシャは魅了の魔眼。誤動作して危害を加えないように眼帯が手放せないと嘆いていた。


僕はといえば……魔眼の種類はわからないけれど、ついに中級以上の魔法が使えるようになった!!職業ジョブが関係している水魔法と火魔法は魔法書を読みながら徐々に覚えている。存在だけでなく、職業も進化したようだ。


『ちょっと、そこのあなた』

以前、森で聞いた声だ。今度は飛んでいる姿がすぐに目に入る。目を覚ましたラピスが捕まえようと糸を伸ばし、それを避けながら飛び回る。


「こんにちは、精霊さんお久しぶりです」

僕は丁寧に挨拶をする。


『あら、私が見えるのね、感心、感心。ところでこの蜘蛛どうにかならないかしら?』

僕がお願いするとラピスはすぐに悪さを止めてくれた。


『あなたが存在進化したのを聞きつけてね』

精霊は僕の周りを飛びながらじろじろを観察している。


『うーん、あなたいいわね。魔力がいちだんと上がって存在感が増したわ』

(外装魔石を身に着けた影響か、魔力が増えていることは自分でも感じていた)


精霊はしばらく考え込んだ後、口を開いた。

『あなたを族長として人族・神種ヒューマン・コノクサという名前を付けてあげる。まだ、世界から見るとあなたは可能性、種の一つでしかなく、ちっぽけな存在だわ。種が芽吹き成長するように、種族を率いて繁栄すれば、新しい固有名が与えられるわ』


「オルガ、カロルも同じ種族なのですか?」

『以前会った時の残りの二人のことね、そうよ、あなたと同じ種族よ』


「名前はうれしいのですが、人族と一緒に生活するときに不便になりませんか?」

(ヒューマンの新種として排除されたり、殺されて調べられたりしないだろうか…)


『あなた心配性ね、神種は属性だから神殿の啓示や魔道具で調べる際には表示されないわ。鑑定のスキルや戦技アーツを使うと見えてしまうけどね』


「そうですか、安心しました。あ、そうだ、僕のスキルを鑑定して欲しのですが」

僕は改めてスキルの鑑定を精霊にお願いする。


『対価が必要ね。あなたが自分で名付けた固有魔法はあるかしら?』

「固有魔法は一杯考えています。どうすればよいですか」


『すべて名は神から与えられるけれど、例外は自分の名前と固有魔法よ。自らの固有魔法が神々の知識層へ登録されるのは大変名誉なことなの。知識の女神様は、固有魔法を登録した者に、眷族である私たち精霊の加護をお与えになるわ。精霊の加護を持つ者は、私たちを使役することができるの』


精霊は僕の考えた固有魔法が登録できるかすぐに確認してくれた。


■登録可

自動砲台オート・キャノン

全方位防護フルレンジ・ディフェンス

完全擬態パーフェクト・カモフラージュ

鳥落としバード・ストライク

急速充電ラピッド・チャージ

闇夜の隕石ダークネス・メテオライト

聖夜の隕石フォーリーナイト・メテオライト


■登録不可

<同じ名で登録済み>

物質探査マテリアル・サーチ

生物探査バイオ・サーチ


<効果が低い>

擬態カモフラ-ジュ

石の雨ストーン・レイン


■対象外

固有戦技に相当するので、知識の女神の対象外.

狩人の罠ハンター・トラップ

千匹の蛇サウザント・スネーク

回転する蛇トルネード・スピン


『ふんふん、そこそこの貢献度のようね。あなたに精霊の加護が付与されたわよ』

「では、さっそくスキルを鑑定してもらえませんか?」

淡々と報告する精霊に僕は前のめりに鑑定をお願いする。


『うーん、今日は気分が乗らないわ。あなたの仲間がいるときに一緒に見てあげましょう。では、また会いましょう』

精霊はぱたぱたと羽を動かしながら森の中へと消えて行く。

(精霊の加護を持つ者は精霊を使役できるのでは!?)

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