2.1.14 九階 死の兆候(1)
――ザエラ六歳 春 アニュゴンの街 郊外 地下迷宮九階
「こんなに静かだとかえって気味が悪いわね」
ミーシャは物音一つしない迷宮の通路を見渡しながら呟く。
「敵出てこおぉーーーーーい」
オルガの叫びが通路に響き渡る。
「何もいない、オルガ姉の叫びが聞こえた……怖かった」
斥候から戻ってきたカロルを彼女は拳で軽く叩く。
九階に降りてからというもの、大量に湧いていた
「
オルガがあくびをしながら背伸びする。最近、敵と戦わなくなり体がだるそうだ。
「そうだ、みんなにこれを渡しておくよ。カロルと作ったんだ」
僕とカロルはみんなに
「これは、
「兄さんが透明な石から拡大鏡を作ってくれてね。それを使うと細かい魔法陣が綺麗に彫れるんだ。師匠にあげたらとても喜んでくれたよ」
僕の説明にカロルが補足する。
「あら、これはいいわね、体が暖かくなり緊張がほぐれるわ」
「こっちはなんだが力が湧く感じがするな」
みんなの感想は上々のようだ。
「兄者、俺たちの名前が書かれている」
キリルとイゴールは
「ああ、それはね、肌に接した部分から自動で魔力が流れ込んで魔法陣が活性化する仕組みだから、魔力が円滑に流れるように一人ずつ調整したんだ」
「だから付け心地がいいのね、大切に使うわ」
保管庫で眠らせておくには惜しいと僕とカロルで考案して作成したが、みんな喜んでくれて嬉しかった。将来、
◇ ◇ ◇ ◇
みんなの準備が完了したのを確かめて、ゆっくりと扉を開き部屋に入る。ラピスは背中から降りて外にでる……かと思いきや、部屋の中を進み、何かに向かって咆哮する。光魔法 ‟
ラピスは天井に張り付き、光魔法‟
僕たちの魔法攻撃も同様に回避されてしまう。
『……グルアァアアァ……』
死神から黒く息が詰まるような魔力がまき散らされる。
僕たちは頭を抱えてしゃがみ込み、死への恐怖で胸が押しつぶされそうになるのを必死にこらえる。
「ギャアァァァ」
次第にラピスの小さな瑠璃色の体がぼやけ、巨大な黒い蜘蛛が姿を現した。それは叫びながら死神に襲いかかる。しかし、攻撃はむなしく空を切る。
ラピスは鎌による反撃を受け、足はちぎれ、体中が傷だらけになる。しかし、何度も死神に襲い掛かる。錯乱状態で傷の痛みも感じていないようだ。
「あの死神、何かおかしいわね…糸に全く反応しないわ…」
僕、ミーシャ、サーシャは部屋中に糸を張り、死神の瞬間移動時の魔力と体の移動を追跡しようとした。しかし、死神は糸には触れず、魔力が移動元から消えて、移動先に現れるだけだ。
「魔力だけの存在?そうだとすると前衛も攻撃のしようがないね」
「
僕は、糸に魔力を流して、死神の近くで‟
「そうか!カロル、みんなに非常用のランタンを渡して。みんなは、部屋の床、側壁、天井にランタンを近づけて、炎の揺らぎから空気の流れがないか調べて」
前衛は床と側壁を、ミーシャとサーシャは天井部分を調べ始める。僕は、‟
「ラピス、しばらく死神の気を引いておいて」
ラピスは
『……‟
黒魔法……いや、固有魔法か? 死神の鎌が巨大化しラピスに襲いかかる。僕はとっさにラピスの前に出て鎌を受ける。もし、この固有魔法が状態異常もしくは黒魔法の類であれば、腕輪の効果で相殺できるはずだ。
「……なんともない、生きている」
鎌を受けたとき、死の予兆が確実に体を貫いた感覚はあったが、体に異常はない。床に降りてしまったので再度ラピスまで駆け上がろうと、‟
「あれ、どうしたんだ?
僕は糸をラピスに結んで飛び上がる。
「ザエラ、天井の裂け目から空気が流れているわ。天井の上に空間があるみたい」
サーシャの持つランタンの炎が微かに揺らいでいるのが見えた。
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