第57話 56.労災の賄ひ飯の冬ざるゝ
ワード56『賄ひ飯』ということだが、
僕は、業種といい勤務形態といい、『賄ひ飯』をもらってもよいはずだったのだが、これまでの、アルバイト経験も含めて『賄ひ飯』を出してもらったのは、一回だけだ。その一回は高校生の冬、鉄板焼きのステーキなどがウリの「プランテーション」というレストランの厨房の皿洗いと、ジャガイモの皮むきに、面接後いきなり5時間投入された晩飯だったし、その晩飯も、おそらく客の食い残しの肉に火をいれなおし、パセリをちょっと洗って乗せたような餌だった。フロア担当や厨房の先輩方は、ドリアなど食べていた記憶がある。当然、その日のうちにバイトをやめたが、自己都合の短期退職ということで、五時間分の時給ももらえなかった。
五年後、そのレストランは火事で全焼したので、すこしは気分は晴れた。
現職では、待機が多いのでもっぱらコンビニ調達のパンやおにぎりだし、前職では、ほか弁や、近所の洋食屋ですべて自腹だった。たまに、先輩が奢ってくれることもあったが、経験上、僕の周囲の人には借りを作らないのが得策だということを学んでいるので、奢られたらなるべく早く返すようにしている。そういえば地元の堤防保全部に所属していたときも、土嚢袋を五十個も担いだ後で、助六とか、そんなものだった。かように、僕の勤務中食生活は貧しい。だから、帰宅後はお汁粉やら、菓子パンやら、ペヤングやらを貪り食うことになるのである。
では、俳句だ。
揚花火賄ひ飯は叢に
八月の賄ひ飯は握り飯
賄ひ飯運ぶゑのころ摘んでから
ゑのころの賄ひ飯に紛れけり
賄ひ飯水着の濡れしまゝ食めり
紫木蘭剪定者用賄ひ飯
扇風機賄ひ飯を護るかに
氷菓入賄ひ飯の噂ある
賄ひ飯皿のパセリをちよと洗ふ
賄ひ飯専用昇降機へ西日
クリスマス賄ひ飯の鮭と独活
キャンプ地の賄ひ飯にボンカレー
夏の星賄ひ飯にはち切れる
賄ひ飯薄口醤油にて春日
賄ひ飯置きたる棚へ蟻の列
賄ひ飯秋桜臭き手に掴む
十二月賄ひ飯を持ち帰る
そして表題句
労災の賄ひ飯の冬ざるゝ
今回はこれで。
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