第52話 50.継ぎ接ぎの短波放送冬の潮
ワード50.『継ぎ接ぎ』である。
小学校5年生だった。お年玉で盗聴器を買った。
それは、当時、週刊誌の裏表紙などによく載っていた「パワーストーン」や「睡眠学習機」、「開運ペンダント」や「三段警棒」、パワー何とか、という筋肉をつけるための道具だったり、「米軍払い下げ放出品」などの中にあったもので、少し大きめの小型ラジオのようなものだ。
AM、FM、TV音声、その他無線の帯域を、アナログダイヤルを回して探すという、今考えれば盗聴器というよりは、単なるトランジスタラジオだったのだが、当時は「世界の秘密」を知る道具を手に入れたような気がして、夜な夜な布団の中の暗がりで、全神経を集中させて、つまみを捻ったものだ。
当然、ラジオ欄に載っているような番組を聴きたいわけではなかった。ダイヤルを捻るたびに、ホワイトノイズの高低、強弱が変化することさえ面白かった。テレビの砂嵐を見つめ続けるのとは意味が違っていると思った。だが、なにがどう違うのかはわからなかったし、当時はそんなことを考えもしなかった。
唐突にノイズが止んで、音に変わる。音は、音楽の切れ端だったり、声だったりする。
たとえそれが、ロシア語や中国語の断片であったとしても、それはノイズとはまったく違っている。無論、言葉の意味など分からないのだが、それは風や動物の鳴き声とも異なっている「言語」であるということだけは、鮮明に理解できるのである。
意味とは言語なのだ。ということを、そのとき僕は学んだ気がする。だから、世界の秘密とは言語に他ならないのだ、ということも、そしてそれは、暗がりの中で耳を済ませ、繊細なつまみをゆっくりと慎重に捻ることで同期させなければ、現れないのだということも。
中学になると、僕はラジオを捨ててカメラを買うことになるのだが、それはまた別の話だ。
俳句は。表題句のみ。
継ぎ接ぎの短波放送冬の潮
今回はこれで。
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